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白と銀のドラゴン

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 リュクスがやたら首に掌を当てているのが気になり視線を向けると、広範囲に赤い鬱血痕と噛み跡がチラリと見えてニンマリ笑みを浮かべる。
「そういう誰かさんもだろ?」
 見る間に消えて分からなくなってしまったが、赤面した自分と同じ顔を見て、こうも反応が変わるのかと思った。
「その話は置いといて……。ハルは気がついているかは分からんが、啓介、その腹にいるドラゴンは双子だぞ。白と銀のドラゴンが生まれる。俺らの特殊能力の影響かもしれんが、卵の成長速度が異様に早い。ここを出るなら早くした方がいい。恐らくそれに比例してハルの症状も重くなる筈だ」
 リュクスの言葉を聞いて、啓介が目を剥いた。
「白と銀だと? お前、中身が視えるのか?」
「ああ、そうだ。俺はハルと違って武力も魔法力も大したことない。けど、識別能力やその他に特化している。そのせいなのかどうか、ハルは認識する能力が無いに等しいだろ?」
「確かに。納得だ」
 言われてみるとそうだ。皆が出来るような過去の魂を識別して判断出来ない。〝羽琉〟だからだと思っていたが、ハルジオンと統合してからも同じだった。
 二人が何やら逡巡している間、暇なので啓介を膝枕にしてゴロリと横に転がった。
「くく、やってくれるなハル」
「何が?」
「白と銀のドラゴンはこの一億年もの間産まれていない」
「へえ、レアなのか?」
「レアどころじゃない。初代龍人王たち以来初めて生まれる。どちらも慈愛と豊穣、幸運を授ける象徴らしい。それが負の象徴と忌避され疎まれていた黒いドラゴンから生まれるってんだ……皮肉なものだぜ。しかも初代と同じように双子としてな。あいつら驚きすぎて腰を抜かすんじゃないのか?」
 ——忌避、ね。
 だからこそ啓介は生まれた時から疎まれ、親にさえ愛されずに捨てられた。
 黒は負の象徴。意味も分からず蛇蝎の如く嫌われ、爪弾きにされてきたのだろう。
 しかし、その持ち前の性格と大きすぎる魔法力と武力、統率力で龍人族を従えてきている。
 そして同じく忌み子として疎んじられてきた己とリュクス。
 特にアルファでありながら生まれながらに番の噛み跡のあったハルジオンは風当たりが強く、それもあって強くならなければ生きていけなかった。
 当時はまだ前世の記憶はなかったが、リュクスは心霊術と魔術、ハルジオンは魔法力と武力を磨いて周りを認めさせた。
 この世界でも親にも境遇にも恵まれない己らを知って微かに笑みを浮かべる。いや、逆にこれで良かったのかもしれない。だからこそ今の己らがいるのだから。
「前職極道で現世での異端児たちが、世の平和と慈愛の象徴を生み出すのか? ふはっ、ねーわ。寒い」
 言いながら、啓介を枕にしたままくつくつと喉を鳴らして笑った。
「そういえばリュクス。日本での記憶、半分くらい分けてやろうか? 気にしていただろ?」
 少し前に気にしていたのを知っていたので聞いてみた。
「いや、いい。何と言うか……どうしてなのかは分からないが、カイルと接していると少しずつ拓馬との記憶だけ鮮明になってきているんだ。それで羽琉……まあ俺でもあるんだけど、どれだけ他人の感情の動きに無関心だったのか分かった」
 こうもハッキリ言われてしまうと、苦笑するしかなかった。
「まあ……だろうな。興味すらなかったからな」
 その後は他愛無い会話になって行く。年が近いからなのか、キアムとレヴイは仲良くよく会話し、時にルドや料理人たちに料理を習っているらしい。
 お互い初めて友達が出来て楽しいみたいだ。
「なあ、レヴイの腹は治らないのか?」
 リュクスが首を振った。
「もう治してある。ユリスルに騙されたと知った時、破壊の能力を使って腹に傷を負わせたみたいだ。それももう必要ないからな。治して欲しいと本人が言ってきた」
「そか。なら良かった」
 と言った途端に吐き気がしてきて、慌てて啓介の上から転がり落ちるように床に降りた。
 ゴミ箱に顔を突っ込んで、浅い呼吸を繰り返す。急すぎる体調変化についていけなくて、眩暈すら覚えた。
「ほら言った通りだろう? ハル、代わりに準備して陛下にも報告してきてやる。吐き気が治ったらそのまま寝てろ」
 首だけ動かして肯定の意を紡ぐ。啓介からはヨシヨシと頭を撫でられた。





 リュクスが戻ってきて、啓介に前抱っこのまま抱えられて移動した。
 横向きの抱っこは胃の中をぐちゃぐちゃにかき回されているような不快感があり、縦にしてもらっている。転移魔法だったので多少の揺れしかないものの、それでも振動がツラい。
「啓介……っ、ムリ……吐く!」
「ほら」
 啓介の部屋に入るなりゴミ箱を手渡されて、また床に蹲る。その間に啓介が医療魔法師を呼び寄せ、診察後に何かやり取りをしていた。
「これは巣に移動させる前にもう孵化してしまいそうです。何故ここまで放置されていたのですか?」
 医療魔法師たちがオロオロしながら疑問を口にしている。
「分かったのは昨日だ。コイツは再生能力持ちでな。その影響で卵の成長が異様に早いとこれの双子の弟に言われた。とりあえずもう成長しているのなら取り出して専用の巣に入れてくれないか? 中身は双子、白と銀のドラゴンが生まれる筈だ」
「白と銀!? まさか、そんな……!」
 誰もが絶句し、その後で場が騒然としていく。
「ハル、動けそうか?」
「ああ……ゴミ箱と一緒なら」
 急遽腹を切る事になり、医療室へと連れて行かれた。


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