極道の若頭だけどオメガバのある異世界に転生した上、駄犬と龍人族の王に求婚されている

riy

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ロアーピス国

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 ロアーピス王国に行かなければいけないという名目で、十日間ベッドの上という状況は何とか回避した。
 発情期に入って動けなかったのもあり、遺骨は先に回収して貰っている。オークション会場は二度と使用出来ないように、更地にしてきたと告げられた。
 その方がいい。中途半端に残しておいて次の犠牲者が出る事は好ましくない。
 以前に啓介と二人で破壊してしまったホテルだけは申し訳なかったので、そこだけ再生させた。
「遺骨は、海洋散骨にでもするか? また誰かに利用されんのも嫌だし」
「そうですね」
 浮遊魔法で遺骨を浮かせて、中に入っていた灰を全て海にぶちまける。
 転生体をこの世界に留められたりしないように、ロアーピス国に伝わる魂を解放する呪文を唱えた。
 ——これでもう大丈夫だ。
 不知火会メンバーが同時期に集められる事はないだろう。
「不知火会復活って感じがして自分的には少し嬉しかったんすけどね」
 矢島の言葉を聞いて「確かに」と答えた。
「ルドさんの店で不知火会復活させたら良いじゃねえか?」
「俺の店をむさ苦しくする気か?」
 ルド自身もかなりのマッチョだ。
 鈴木は細身だが、渡辺と矢島もルドと同じくらいにガタイが良い大男とくる。
 想像するだけで笑えた。束の間の談笑を楽しむ。
「うっし、行くか!」
「若、俺たちも行って良いですか?」
 やはりその呼び名がしっくり来るらしい。渡辺からの声かけに頷く。
「助かる。もしテオと入れ違っても良いように二手に別れよう」
「はい!」
 キアムの家の前にある庭に出て、日本に行く組と、テオこと前田の部屋で待機する組分けを作る。
「俺は何があるか分からないから念の為に日本へ行ってくる。もし入れ違ったら、そっちで捕縛してくれ。念の為、逃げられないようにテオの部屋全体に結界を張る。あと、ルドさんの事も頼む」
「分かりました」
 渡辺と矢島と鈴木が頷く。
「俺はハルと行く」
 啓介が即答し、剣に手をかけていた。
「おい、そんなもん持ってったら日本じゃ銃刀法違反で捕まるぞ」
 思いっきり笑ってしまう。
「リュクスは国に残るか?」
「ああ。俺はレヴイとここに残る。二度とあんな奴らの好きにさせない」
「んじゃ二人の警護はおれがするっす」
「カイル、任せた」
 着々と話を進めていると、いつもは元気なキアムがずっと下を向いて黙っているのが分かった。
「キアムは?」
 顔を覗き込むと、皆も一様にキアムを見る。
「え……?」
「俺と一緒に行動するか? それとも待機組と残るか?」
「オレも……皆さんとご一緒しても良いんですか?」
 キアムは、普段の声量では考えられないくらいに小さな声で呟いた。
「当たり前だろ。俺はお前も仲間だと思ってるし、これからも付き合って行きたい。ま、見ての通り、揃いも揃ってガラ悪いけどな!」
 ふはっ、と笑いをこぼすとキアムの表情が輝き出した。
「犬二号いないと寂しいっすよ、キアムくん」
「ハルは言い出したら聞かないぞ?」
 後押しするかのようなカイルと啓介の声に、キアムが嬉しそうにコクコクと頷く。
「行きます! オレも行きたいです!! アニキ達が暮らしていたというニホンってとこに興味あります!」
「なら決まりだな。連れてってやるよ。お前ビックリするぞ、多分」
「楽しみです!」
「カイルはリュクスとレヴイ連れて転移してくれ。ルドさん、渡辺と矢島と鈴木連れて転移出来ますか? 門の前で落ち合いましょう」
「それくらいなら余裕だ」
「ではお願いします。俺と啓介はキアムと日比谷を連れて一緒に飛びます」
 それぞれ転移魔法でロアーピス国まで移動し、久しぶりに帰ってきたのもあって懐かしさを覚えた。
 それはルドやカイル、リュクスやレヴイも同じだったようで、閉じられている門をじっと見つめる。
 ロアーピス国は何処か閉鎖的な所だ。外界を遮断するように五メートルはある分厚い外壁で隔たれ、門の中へも通行証がなければ入れない。
「ここ本当に俺たちが入っても良いんですかね?」
 鈴木の言葉に苦笑する。
「俺が先に行って通行証を出して貰うから待っててくれ。あ、啓介は姿変えてくれ。うちの国は今、龍人族に過敏になってるからな」
「分かった」
 見る間に角が消え、身長も二十センチは低くなる。毛色が変わり、髪も短くなった。
 相変わらず見事な変身術だ。
「じゃ、行ってくるから待っててくれ」
 直接王の元へ飛び、玉座に腰掛けている王の前で片膝をついた。
「ハルジオンか」
「はい。お久しぶりでございます、陛下。只今戻りました。奪還に成功し、裏切り者も捕らえております。最後の裏切り者はこれから捕らえに行くところなのですが、第五宮皇子テオ・グラマットルの部屋への立ち入り許可を下さい。テオが絡んでいるという事は、共謀者からの発言で確認が取れています。蓄音機にて録音済みですので、証拠の資料と共に提出いたします。この度の長い騒動に龍人族は一切関係ありませんでした。先に同行者の入国許可証もいただけませんでしょうか? ルド、リュクス、カイル様、レヴイ様もお連れしておりますので」
「何とっ! 全員無事だったか!?」
「はい。カイル様ももう記憶も戻っておられます」
 玉座から立ち上がり、その後で安堵の吐息と共に王はまた腰掛け直す。
「そうかっ、そうか。良かった。すぐに許可証を出そう。全ての権限はハルジオン、そなたに任せる。もう二度とこの国がこのような事態にならぬように、できるだけ不安の種から出る膿を出し切って欲しい」
「かしこまりました」
 元はと言えば己らのせいかもしれないとは口が裂けても言えやしない。
 巻き込まれる筈のなかった人たちまで巻き込んで、前世からの因縁を今なお継続している。
 ——絶対終わらせる。
 許可証を貰い、皆の元へ一度戻る。門に手に当てて魔法力を流し込むと、重い音を立てて扉が開いた。
「なんか昔と比べて視線の高さが違うっす」
「そりゃそうだろな。カイルがいたのは十一歳くらいまでだ」
 和気藹々と軽口を叩きながら、第五宮へ入り、テオの部屋を開ける。色々な扉を開けていき、転移装置の様なものがないか手分けして探していく。
「若……、それっぽい部屋は見つけたんですが、キモすぎるので見ない方が良いかも知れません」
「は? 何だそれ……」
 鈴木の言葉に隣から室内を覗く。そこだけ他の煌びやかな部屋と違い、一階と地下室の間に無理やり作ったような仕様になっていた。
「「キ、キメぇぇえええええ!!!!」」
 思わずリュクスと一緒に素で叫んだ。
 何故ならそこは壁一面に己の寝顔写真が張られていたからだ。
「うわー……」
 キアムとレヴイがそう言ったまま絶句している。
 啓介は無言で部屋ごと破壊しようとしていたので、何とか全員で止めて事なきを得た。
 日本へ行けなくなってテオを捕らえられなくなっては本末転倒だ。


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