52 / 65
ロアーピス国
しおりを挟む***
ロアーピス王国に行かなければいけないという名目で、十日間ベッドの上という状況は何とか回避した。
発情期に入って動けなかったのもあり、遺骨は先に回収して貰っている。オークション会場は二度と使用出来ないように、更地にしてきたと告げられた。
その方がいい。中途半端に残しておいて次の犠牲者が出る事は好ましくない。
以前に啓介と二人で破壊してしまったホテルだけは申し訳なかったので、そこだけ再生させた。
「遺骨は、海洋散骨にでもするか? また誰かに利用されんのも嫌だし」
「そうですね」
浮遊魔法で遺骨を浮かせて、中に入っていた灰を全て海にぶちまける。
転生体をこの世界に留められたりしないように、ロアーピス国に伝わる魂を解放する呪文を唱えた。
——これでもう大丈夫だ。
不知火会メンバーが同時期に集められる事はないだろう。
「不知火会復活って感じがして自分的には少し嬉しかったんすけどね」
矢島の言葉を聞いて「確かに」と答えた。
「ルドさんの店で不知火会復活させたら良いじゃねえか?」
「俺の店をむさ苦しくする気か?」
ルド自身もかなりのマッチョだ。
鈴木は細身だが、渡辺と矢島もルドと同じくらいにガタイが良い大男とくる。
想像するだけで笑えた。束の間の談笑を楽しむ。
「うっし、行くか!」
「若、俺たちも行って良いですか?」
やはりその呼び名がしっくり来るらしい。渡辺からの声かけに頷く。
「助かる。もしテオと入れ違っても良いように二手に別れよう」
「はい!」
キアムの家の前にある庭に出て、日本に行く組と、テオこと前田の部屋で待機する組分けを作る。
「俺は何があるか分からないから念の為に日本へ行ってくる。もし入れ違ったら、そっちで捕縛してくれ。念の為、逃げられないようにテオの部屋全体に結界を張る。あと、ルドさんの事も頼む」
「分かりました」
渡辺と矢島と鈴木が頷く。
「俺はハルと行く」
啓介が即答し、剣に手をかけていた。
「おい、そんなもん持ってったら日本じゃ銃刀法違反で捕まるぞ」
思いっきり笑ってしまう。
「リュクスは国に残るか?」
「ああ。俺はレヴイとここに残る。二度とあんな奴らの好きにさせない」
「んじゃ二人の警護はおれがするっす」
「カイル、任せた」
着々と話を進めていると、いつもは元気なキアムがずっと下を向いて黙っているのが分かった。
「キアムは?」
顔を覗き込むと、皆も一様にキアムを見る。
「え……?」
「俺と一緒に行動するか? それとも待機組と残るか?」
「オレも……皆さんとご一緒しても良いんですか?」
キアムは、普段の声量では考えられないくらいに小さな声で呟いた。
「当たり前だろ。俺はお前も仲間だと思ってるし、これからも付き合って行きたい。ま、見ての通り、揃いも揃ってガラ悪いけどな!」
ふはっ、と笑いをこぼすとキアムの表情が輝き出した。
「犬二号いないと寂しいっすよ、キアムくん」
「ハルは言い出したら聞かないぞ?」
後押しするかのようなカイルと啓介の声に、キアムが嬉しそうにコクコクと頷く。
「行きます! オレも行きたいです!! アニキ達が暮らしていたというニホンってとこに興味あります!」
「なら決まりだな。連れてってやるよ。お前ビックリするぞ、多分」
「楽しみです!」
「カイルはリュクスとレヴイ連れて転移してくれ。ルドさん、渡辺と矢島と鈴木連れて転移出来ますか? 門の前で落ち合いましょう」
「それくらいなら余裕だ」
「ではお願いします。俺と啓介はキアムと日比谷を連れて一緒に飛びます」
それぞれ転移魔法でロアーピス国まで移動し、久しぶりに帰ってきたのもあって懐かしさを覚えた。
それはルドやカイル、リュクスやレヴイも同じだったようで、閉じられている門をじっと見つめる。
ロアーピス国は何処か閉鎖的な所だ。外界を遮断するように五メートルはある分厚い外壁で隔たれ、門の中へも通行証がなければ入れない。
「ここ本当に俺たちが入っても良いんですかね?」
鈴木の言葉に苦笑する。
「俺が先に行って通行証を出して貰うから待っててくれ。あ、啓介は姿変えてくれ。うちの国は今、龍人族に過敏になってるからな」
「分かった」
見る間に角が消え、身長も二十センチは低くなる。毛色が変わり、髪も短くなった。
相変わらず見事な変身術だ。
「じゃ、行ってくるから待っててくれ」
直接王の元へ飛び、玉座に腰掛けている王の前で片膝をついた。
「ハルジオンか」
「はい。お久しぶりでございます、陛下。只今戻りました。奪還に成功し、裏切り者も捕らえております。最後の裏切り者はこれから捕らえに行くところなのですが、第五宮皇子テオ・グラマットルの部屋への立ち入り許可を下さい。テオが絡んでいるという事は、共謀者からの発言で確認が取れています。蓄音機にて録音済みですので、証拠の資料と共に提出いたします。この度の長い騒動に龍人族は一切関係ありませんでした。先に同行者の入国許可証もいただけませんでしょうか? ルド、リュクス、カイル様、レヴイ様もお連れしておりますので」
「何とっ! 全員無事だったか!?」
「はい。カイル様ももう記憶も戻っておられます」
玉座から立ち上がり、その後で安堵の吐息と共に王はまた腰掛け直す。
「そうかっ、そうか。良かった。すぐに許可証を出そう。全ての権限はハルジオン、そなたに任せる。もう二度とこの国がこのような事態にならぬように、できるだけ不安の種から出る膿を出し切って欲しい」
「かしこまりました」
元はと言えば己らのせいかもしれないとは口が裂けても言えやしない。
巻き込まれる筈のなかった人たちまで巻き込んで、前世からの因縁を今なお継続している。
——絶対終わらせる。
許可証を貰い、皆の元へ一度戻る。門に手に当てて魔法力を流し込むと、重い音を立てて扉が開いた。
「なんか昔と比べて視線の高さが違うっす」
「そりゃそうだろな。カイルがいたのは十一歳くらいまでだ」
和気藹々と軽口を叩きながら、第五宮へ入り、テオの部屋を開ける。色々な扉を開けていき、転移装置の様なものがないか手分けして探していく。
「若……、それっぽい部屋は見つけたんですが、キモすぎるので見ない方が良いかも知れません」
「は? 何だそれ……」
鈴木の言葉に隣から室内を覗く。そこだけ他の煌びやかな部屋と違い、一階と地下室の間に無理やり作ったような仕様になっていた。
「「キ、キメぇぇえええええ!!!!」」
思わずリュクスと一緒に素で叫んだ。
何故ならそこは壁一面に己の寝顔写真が張られていたからだ。
「うわー……」
キアムとレヴイがそう言ったまま絶句している。
啓介は無言で部屋ごと破壊しようとしていたので、何とか全員で止めて事なきを得た。
日本へ行けなくなってテオを捕らえられなくなっては本末転倒だ。
33
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる