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キアムの家に大集合

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「で? 何処から日本への道を繋げてやがる?」
 言い淀んだ日比谷の防御壁を解いて、真っ逆さまに海に落とす。下では海棲爬虫類が口を開けて待っていた。
「うぎゃあああああ! ロアーピス国から三ヶ月ごとにしか開きませんーーー!!!」
 答えを聞いた直後に防御壁を復活させ、浮遊魔法で思いっきり自分の手元に引き寄せる。
 ガキン、と歯と歯が合わさる音が聞こえてきたので肝が冷えたのか、日比谷のコメカミあたりを汗が幾重にも伝っていった。
「おー、素直に言えるじゃねえか。テメエらがリュクスにしたように腕一本くらい食わせる予定だったのによー」
「腕だけと言わずに、下半身全て食わせてやったらいいんすよ」
 カイルが抑揚のない声で呟くと、日比谷が脂汗たっぷりの青い顔で小刻みに震え出す。
「すみませんでしたーーー! もうしませんのでそれだけは……「おれらの前職が何だったのか忘れたんすか? 極道やっててすみませんで済むわけねえだろ。あ゛?」……」
 何の温度も籠っていない声音で言ったカイルは、さっきから怒りを隠しきれていない。話し方すら普段と変わってしまっている。
 何とか感情を宥めようとはしているようだが、一触即発状態で直ぐに振り返していた。
「俺は前田を切り刻みたい」
 啓介が便乗し、場の空気は最悪なものへと変わっていく。啓介が怒り任せに剣を振るう代わりに、海面が真っ二つになって戻ってと繰り返していた。
 ——モーゼの十戒でもやりたいのかな……。
「三ヶ月って長いな。まだまだ先だろ。アイツ一回この世界でチンピラの口封じに来ていただろ? その後逃亡したんなら日本に渡ったばかりだろうし」
 ため息をつく。
「いや、そんなに待たない。時の流れが違うから実際は二週間くらいだろう」
「そうなんだ。でも、その間どうする?」
「みんなウチに来ますか? 一階にある奥の部屋は客間になっててちょっとしたホールになってますよ」
「毎回悪いなキアム」
「いえ、大勢だと楽しいですからね」
 海からキアムの家へと移動し、待機していたリュクスとレヴイ、ルドと合流した。
「何か手伝おうか?」
「ハル、分かっているとは思うがお前は料理するな。手伝うなら運ぶだけにしろ」
「はいはい」
「俺は作ろうか?」
 リュクスの声かけに全員が首を振った。
「「「やめとけ!!!」」」
 ——俺らの料理はそんなに酷いのか?
 出来ないのは理解しているが、そんな口を揃えて止められると何気にショックだ。
「料理は一号に手伝って貰うので大丈夫です」
「え、おれリュクスといちゃいちゃしたい……」
 カイルの言葉にリュクスが苦笑した。
「なら僕が手伝います!」
「俺の得意分野だ」
 レヴイとルドが立ち上がり、キアムと共にキッチンへと消える。
 料理が出来ない組はホールに移動し、料理を並べる用のテーブルと椅子を用意して各自座り始めた。
「これからどうしますか、若?」
 渡辺からの質問に笑いながら口を開く。
「ふはっ、もう若じゃねえよ。ハルジオンでいい。そうだな……今日の日比谷の音声は蓄音機に録音済みだから二人と一緒に証拠として王のとこに届ける。日比谷自身には俺とカイルと啓介で色んな種類の阻害魔法や防御壁を厳重にかけて眠らせているから放って置いても大丈夫だろう。転生も出来ないように魂に呪縛をかけている。これから前田も捕まえにいくがお前らはもう元の生活に戻っても大丈夫だぞ。元々ここでの生活があったんじゃないか?」
「いえ、俺たちは三人揃って家族がいません。ここのスラム街に住んでました。なのでこれからは組長……ルドさんの店を手伝おうと思っています」
「お、いいなそれ! ルドさんの店、また行きたいな」
「若……ハルジオンさんはこのまま須藤さんのとこ行くんすか?」
「あーーー、うん……その予定だ」
 若干気まずくて視線を横に流す。啓介がフッと笑いを溢した。
「そういえば遺骨回収してないっすね。アレが出てきた時本当にブチ切れそうでしたわ」
 カイルの言葉に頷いた。
「明日にでも俺たちが回収してきます」
 渡辺と矢島と鈴木が笑んだ。
「三人じゃ大変だろ。俺らも行くぞ」
「助かります」
 皆で話し合ってる時に、料理を手にしたレヴイが歩いてきた。それに続いてルドとキアムも顔を出す。
「何か真面目な話ですか?」
「ああ。明日オークション会場に遺骨の回収に行こうかって話をしてたとこだ」
 キアムからの問いかけに答えて、運ぶのを手伝う。全ての料理が出揃った。





 皆と一階で別れて、己と啓介、リュクスとカイル、キアムとレヴイとに部屋を分かれた。
「なあ、啓介」
「どうかしたのか?」
「本当にこのまま全てが終われると思うか?」
「何故そう思った?」
「何て言うかよ。実感が湧かないんだ。ずっとこの事件を追っていたからかもしれない。また何か障害が入るんじゃないかって不安になる」
 口付けられ、目を細める。
「俺……今日は日比谷を見張っておこうかな」
「いや、見張るなら俺が行こう。お前、顔が赤いし少し熱っぽいぞ。疲れが出てるんだろ。もう寝ろ」
 髪をすかれて思わずビクリと身を震わせた。
 ——こんな時に……。
 タイミング悪すぎだろ、と自責の念も込めて失笑する。
「ハル?」
「悪い……。俺、実は目が覚めてから動けなくなるのが嫌で、発情期をずっと止めてるんだわ。だから今お前に触れられるとちょっと困る。もう少し止めておきたい」
「止めてたって……まさか五年間とか言わないよな?」
 言い当てられてしまい、苦笑まじりに口を開く。
「そのまさかだ。一日でも早くリュクスを奪還するに至る王からの指令と、確かな情報が欲しかった。リュクスは認識阻害魔法を何重にもかけられて魔法具まで使われていたからな」
 啓介もカイルも察知出来なかったくらいだ。厳重に警備され、オークション関係者は口を割らなかった。
 いつ何処で情報を得られるか分からない。その間は発情期で動けない日が来るのが嫌で、ロアーピス国に伝わる呪法を用いて無理やり自然の理法に背いた。
「俺が発情期と感じるのはレヴイの体で羽琉として体感したのと、多分いま訪れようとしてる分と合わせて二回しかない」
 オメガが発情期を止めるのは自殺行為に等しい。後々出る副反応が大きすぎるのだ。
 それを五年に渡り行っていたとなると、発情期自体がとても重い症状になってしまう可能性が高い。
「その反動が来ていると思うんだが、どうしたらいい?」
「へー……その前にお前そんな状態で日比谷の元に行こうとしていたのか。腹立たしいにも程があるな」
「妬けるか?」
「当然だ」
 ニヤニヤと笑みを浮かべた啓介に顔を覗き込まれる。
「一緒にシャワーでも浴びるか? 誰かさんが俺のマントを穴だらけにしてくれたからな」
 撃ち込まれた銃弾を日比谷に全て弾き返した時、啓介のマント越しだったのもあって見事なまでに蜂の巣だ。
「あれは悪かった」
 素直に謝ると、啓介が喉を鳴らして笑った。
「発情期の薬も飲みながらだと少しは副反応も良くなるだろ。少しだけ待ってろ。状況を説明してくる」
 言い終わるなり、啓介は部屋を出て行った。
 
 
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