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真実と統合
しおりを挟むオークション会場は三十平方メートルくらいの大きさだ。
日本でいう東京ドームを一回り小さくしたサイズになる。それでも広過ぎるくらいの敷地面積だ。
会場内には各国から様々な種族が訪れている。王族や貴族、またその下の子爵まで様々だ。
龍人族として中に入ると、窓一つない建物になっていて、ライトも暗く落とされているので、目が慣れるのに時間を有した。
「ストレイト・K・キンバリー様と従者の方々ですね。此方へどうぞ」
案内されるままスタッフについて中央通路歩き、前方の席に座らされた。
——ああ、成る程な。
椅子の下に魔法力を全て吸われていかれるような錯覚に囚われる。
それと位置が位置だけに、ここでは鑑賞にはいいが、逃げ出すのに苦労しそうだ。
舞台の上にテーブルが置かれているのが分かり、視線を向ける。
大きめの透明な容器が六つ置かれていた。一つ一つの中身が何かの大きな目だと分かった瞬間「うげ」と声を出しそうになった。
「これからもっと悪趣味な物が沢山出てくるぞ」
啓介から耳打ちされる。
「オレ既に吐きそうです」
キアムは見ないように目を閉じてしまった。それを見て笑いながら、どんどん出てくる品を見ていた。
闇オークションだけあり全てにおいて悪趣味だ。
出揃うと異様なまでの歓喜の声に包まれる。お披露目の後で一旦また下げていた。
「今回はスペシャルゲストをたくさんお迎えしておりますので、特別な商品もご用意致しております」
初めに目と模型が出てきてそこからオークションが開始された。
「先ずは世界一巨大で獰猛と謳われている海棲爬虫類ルギランドスの実際の目玉と骨で作った全身の骨格標本になります。元のサイズは全長三十メートル、体高四メートル、体重四十トンとなっております。目玉は左右に二対、前後とも合わせて六つ。本体にのみ縮小魔法をかけておりますので、落札後魔法を解くも解かぬも自由です。では五百万リルから……」
七百、千……という声が上がっていく。最終的には八千万リルで落ち着き、落札された。
次の品、その次へと変わっていき、少し退屈になってきた頃に見慣れた物が並べられた移動式の台が押されてくる。
「おい、アレって……」
眉根を寄せて言うと、啓介が頷いた。
「アイツらこの世界と日本を往復する方法を確立してやがる」
会場内では「アレは何だ?」と騒ついている。
「これはとある世界にある遺骨と呼ばれる物です。名前が記載されていますね。えーと、何語か分かりませんが訳が載っていますのでそれを読み上げたいと思います。さ……? 榊原隆三。こっちは渡辺葉鳥(はとり)、西川拓馬、矢島哲次……」
頭の中に心臓があるんじゃないかというくらいに脈打っている。ここまで神経を逆撫でされたのは久しぶりだった。
始めに読み上げられたのはルドの前世……組長の名前だ。次に渡辺、次にカイル、矢島だったからだ。
今ここでブチ切れて立ち上がるのは簡単だったが、この後の計画に支障をきたすわけにはいかない。
目をカッ開いて膝の上で両拳を握りしめた。
名前を聞く限り、己と啓介を除く不知火会メンバーの遺骨が全て揃っている。それと同時にユダが日比谷である証拠ともなった。
呼び上げられた名前の中に日比谷の名がない。
——だから皆ここで転生していたのか。
不知火会ばかりが揃う転生の謎が解けた。
もしかしたら己のせいではないかと考えていたが違ったらしい。
事態は思っていたよりももっと単純で、最悪な手段が用いられていた。
前田や日比谷の嘲笑う声が聞こえてくるようだった。
淡々と説明する司会者は無関係者だろう。しかし、オークション関係者側としてこの場のどこかに日比谷と前田がいるのは明白だった。
それも今日此処に己らが潜り込んでいるのもバレている。そうでなければこんな嫌がらせ的な出品はして来ないだろう。
「誰がこんな……っ」
カイルがキレて立ち上がりそうになっている。同じ様に握り拳を作っている手の上に掌を重ねた。
「落ち着けカイル。ユダは恐らく日比谷だ。ハルジオンの話だと前田もいる。アイツらは日本と行き来する方法を得ていると見ていい。今の段階では今世のアイツらがどんな顔をしているのか分からない」
そのままオークション商品として売られるのかと思いきや、意に反して遺骨は全て下げられてしまった。
「この商品は特別な商品となりますのでまた後ほど出させていただきます。では当オークションにて最大の目玉商品、その名も眠りの貴人の登場です」
透明なケースに裸体のまま入れて運ばれて来たのは、己と瓜二つの顔だった。途端に心臓がドクリと脈打ち視界がブレる。
「う……っ」
「羽琉?」
痛みに堪えて心臓を押さえたが次の瞬間、椅子を立ち上がっていた。体が勝手に動いている。制御不能だった。
——レヴイ?
内側にいるレヴイが激しく動揺している。
「母さん!!」
気がつけば叫んでいた。
——え? 母さんって、リュクスの事だったのか?
年齢的にみたものと、母というのを勝手に女性だと勘違いしていた。
この世界にはバース性があるのだ。母が男であっても何ら問題はない。失念していた。
ハルジオンが言っていた「レヴイはオークションへ連れて行けば自発的に目を覚ます」と言うのにも今頃納得がいった。
元々レヴイは母を助ける為に世界さえ渡って羽琉を連れて来たのだ。覚醒しないわけがない。
前後に意識を揺り動かされている。
——弾き出される!
勢いよく背後に飛ばされた瞬間だった。
「お、ああああああ゛あ゛あ゛あ゛ーーー!!!」
遥か後方から誰かの大声が聞こえてきて、オークション会場の屋根に三角の山型の切れ目が入る。
左右に屋根が飛び、出入り口と扉にも切れ目が入ったかと思いきや、派手な音を立ててそのまま消し飛んだ。
埃が舞う中から共鳴するような耳鳴りが鳴り響いていて、視界が悪い中目を凝らした。
「シシシッ、まずまずだな」
——は……っ、マジかよコイツ。啓介並みじゃねえか。
左右のそれぞれの手に剣を握りしめるハルジオンがいて、不敵に笑みを浮かべている。
我が事ながら冷や汗が伝ったような気分になる。
「あんた本当にオメガっすか?」
「クククク、最高だな羽琉」
目を離した覚えはないのに、瞬く間に目の前にはハルジオンが居た。
カイルと啓介が振り返って、肩を揺らして笑っている。
「俺が弱いわけねえだろ」
ハルジオンがニンマリと笑う。
「羽琉、早く俺の中に入って統合しろ。膨大な量の情報に呑まれんなよ!」
『ふはっ、呑まれるわけねえだろ』
「さすが俺。んじゃ、こっから先は任せたぞお前ら。早くても五分はかかる筈だ。後数分もしないうちに盗賊組が追いつく。キアムは逃げ道を五個は作れ……つか、建物は全壊させてもいいぞ。気にするな。啓介とカイルは邪魔する奴らと派手に遊んでやれ」
「はいっす」
「お前は二度と死なせないと決めてるんでな」
啓介とカイルの体からゆらりと青い湯気の様な物が上がった。瞳が青色に揺らめく。
「ええっ!? 何で二人してラットに入ってるんですか?」
——これがラットか。
ハルジオンの目を通して客観的に状況や情報が視界と頭の中に飛び込んでくる。
キアムはオロオロしながらも、更なる逃げ道を確保する為に会場の横壁に穴を開けた。
「渡辺ーー! 矢島ーー! 眠りの貴人奪還だ!!!」
勝手に口が開いて、叫ぶ。
「「命に変えても!」」
何処からともなく声が響いた。
「レヴイくん、悪いんすけどちょっと寝ててくれないっすか?」
「え、でも……あの……僕」
「絶対おれらが守るから大丈夫っすよ」
トンッと、カイルから頸椎に手刀を入れられたレヴイの体はその場に崩れ落ちていく。それを片腕で支えたカイルが椅子の上に寝かせた。
そのまま、ハルジオンとレヴイを包み込むように啓介とカイルがそれぞれ防御壁を張っていく。
直後、リュクスを連れ去ろうとしているスタッフに魔法攻撃を仕掛けて、リュクス自身に触れられないように防御壁も張り巡らせていた。
カイルと啓介は、こういう時は息ピッタリだ。
悲鳴を上げながら逃げていく客と、駆け寄ってくるオークション関係者。その後ろからかったるそうに歩いてくる黒服姿の五人の青少年の姿が見えた。
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