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ユダ2とオークション
しおりを挟む「前田がここで転生しているなら日本から繋がってると見ていいだろな。盗聴器、潰しとけば良かったか……」
応えるように頷く。
「父性から来る善意的な物だったのなら良かったんだがな。そうじゃない。カイルは恐らく何も知らない。トップにさせられようとしていた事も、ダシにされようとしていた事も。父親面してコッソリ裏で不知火会を使って何か始めるつもりだったとしたら? 前田が噛んでるんなら、ルドさんが最後まで否として拒んでいた薬関係とかだろな。それらの計画全てが台無しになり、組んでた前田と今度はこの世界にやってきた。魔法やら何やらあって、日本よりもさぞかし楽しかっただろうな。それがこの世界では、俺とお前が潰しあったら横っ腹引き攣りそうなくらい愉快だろうぜ? ルドさんがロアーピス国出身ならカイルもそうだろ? ハルジオンの言葉を拾っていくとハルジオンは今世のカイルを知っている。もしかしたらカイルってハルジオンと同じ様にロアーピス国の皇子なんじゃねえの? 過去にお前のとこみたいに内乱が起こっていて、何かしらの理由でカイルが狙われていた。仕方なくアルファとしての力を封印して幼いカイルをルドさんが連れて逃げた」
「それなら分かるな」
異母兄弟ならカイルは喜びそうにないが、個人的には嬉しかった。
血の繋がりがなくてもハルジオンが言っていたように勝手に弟のように思っているからだ。
こんなどうしようもない自分を慕ってくる可愛くて可愛くて堪らない存在。
今世ではそこにキアムも追加された。
「ユダは、当時幹部だった日比谷だ」
転生体が分からない以上、今のところ打つ手はないが。
「俺はこの件の詳細をカイルに告げるつもりはない」
「分かった。俺もそうする」
視線を窓の外に向けた。
「それにしてもまた前田か……」
「見かけたら消すか……。羽琉が撃たれてその事で頭がいっぱいで、俺は他に目を向けてる余裕がなかった。救急車とパトカーのサイレンが聞こえていたし、拓馬は脈も呼吸音も安定していたから助かると確信していた。でもお前は……。くそっ、いくら焦っていたとはいえ、そこら辺の壁に世界を渡る扉を作ったのはやはり不味かった」
啓介が舌打ちする。
「見られてたんだろな。あーー、つうかその時の啓介見たかったわ。俺が撃たれた時もすげえ焦った顔してたもんな。あれちょっとウケた」
「人の気も知らないで、ふざけんな」
笑っていると、わしゃわしゃと髪の毛をかき混ぜられた。
「俺はあの後お前の傷を治せる魔法師を呼び寄せてそれでも目を覚さないから、ロアーピス国まで飛んで心霊術師にもお前を見せた。でも肉体にもう魂が入っていないと言われたから氷漬けにして転生を待つしかなかったんだぞ」
まさかそこまでして貰えているとは露ほどにも思っていなくて、瞬きも忘れて啓介を見つめる。
「え? あー、だから弾痕も何も残っていなかったんだな……ていうか、何で感電しない?」
熱のこもった視線で見られるのがどことなく気まずくて話題を変えた。
「龍人族は雷も操れるからな。本当は早い段階で無効化出来ていた。ただお前に手を出さずにいるのにもう限界が来ている。不用意に触れるのを止めていただけだ。ハルジオンの方のお前に会ってからはラットにも入りかけているくらいだ。今は何とか制御しつつ調整は出来ているが」
「ふーん」
「おい羽琉。ハルジオンと統合したら……十日くらいはベッドの上から降りられると思うなよ。連日抱き潰す」
「え?」
冷や汗が伝っていく。喉を鳴らして笑う啓介を見つめた。
「俺がどれだけお前を愛していて、お前はどけだけ俺に愛されているのか分かれ。お前が居なくなって俺がどれだけ絶望して、お前が転生してくるのを渇望しながらどれだけ待っていたのか身をもって思い知ればいい」
真剣な瞳に射抜かれる。
「それはさすがにやり過ぎなんじゃ……」
「良かったな。再生能力がオートで回っていて」
本気なのが分かって項垂れた。
——治癒無かったら死んでるな……。オートで良かった。
心底そう思った。
***
オークション当日、龍人族の王として参加する為に指輪やネックレス、ブレスレットを纏い、着飾りだした啓介を唖然と見つめていた。
見目は日本にいた時と同じだったが、身長は二メートルを超えている。体躯も良い。普段は魔法で調節していただけに、何だか見慣れない違和感があった。
頭の両側にも横向きに生えて途中で上向きに伸びている黒色の角があって、身長の高さに拍車をかけている。
龍人族と言われれば一目で納得出来る見目をしていた。
ここの世界はファンタジーだった、と再確認させられる。
変装していた時には毛色まで変えていたので、改めて見ると啓介だけ黒髪なのもあって纏っている空気が違う。というよりも圧巻だ。
「見惚れてどうした?」
ニヤニヤと笑みを浮かべられる。
「お前こうやって見ると本当に良い男だよな。何だよその筋肉、触らせろ」
「羽琉、その良い男が自分の物だって自覚はあるか?」
そう言われると何処か気まずくて面映い気持ちになる。
「それ……自分で言うか?」
妙な雰囲気になりかけているのが分かって、触りかけていた手を引っ込めると視線を逸らして扉に向かった。
同時に歩いてきた啓介に扉を押される。見上げると口付けを落とされそうになって寸前で止められる。
「しねえのかよ」
物足りなくて啓介を見つめると「元の体に戻ったらな」と告げられて笑われた。
一階に降りて二人と合流する。
「ブラックさんて元々貫禄もあるから本当に王様みたいですよね。その姿は魔法で変えてるんですか?」
「「あ……」」
キアムに肝心な事を伝えていないのを思い出した。
言い難い。でももうオークションだし良いかと本当のことを告げた。
「あーー、キアム。言い忘れていた。実はな啓介って本当に龍人族の王様なんだよ。これが素顔だ」
「え……?」
キアムが唖然としている。息をしているのかどうかも怪しい。真一文字に口を引き結び、表情がどこか固い。
「王なんてやりたくないんだがな」
「えええええーっ!」
「そうそう、それ。何で須藤さんは日本にいたまんまの姿なんすか?」
カイルからの問いに啓介が視線を流す。
「俺は転移者だ。元々この世界の住人で、内紛をきっかけにガキの頃日本へ転移させられていた。飛んだ先がその時羽琉が根城にしていた廃工場だったんだよ。それからは羽琉が撃たれるまでずっと一緒にいる。あの日羽琉をこの世界で蘇生させようとして連れて来たが、もう羽琉の魂は肉体に入っていないと言われた。だから肉体は一旦氷漬けにして、俺は三十年もの間、羽琉が転生してくるのをずっと待っていた」
「はぁー、何すかそれ。んな重くてクソでっかい愛情なんておれには持てる気しないっすわ……。つか、何それ。ウケるっす!」
どこか吹っ切れたようにカイルが笑った。視線を向けるとガン見されていてたじろぐ。
「カイル? どうした?」
「兄貴、その格好めちゃくちゃ似合ってるっすね!!」
——いや、話変わり過ぎだろ。
正面から抱きしめられて驚いた。もう感電しなくなっている。
「顔も声も変えてるから落ち着かねえけどな」
「ねえ兄貴。今世はちゃんと生きて幸せにならないとダメっすよ!」
——だから話変わり過ぎだろ!
「おい……また俺が死ぬようなフラグ立てるのやめろ」
「違うっすよ。逆っす。今度こそは絶対死なせないっす」
出会った頃のような無邪気な笑みを向けられて、軽く頭をこづいた。
「お前こそまた俺を庇うとかしてみろ。マジで張っ倒すからな」
カイルがケラケラと笑う。
「装飾品は忘れずに身につけろよ」
啓介が忠告までに口にすると、キアムが各種装飾品をジッと見つめていた。
「これって……売ったらいくらくらいになるんですかね」
「「「売るなよ!!」」」
換金しようとしているキアムに皆でツッコミを入れる。
魂の識別を阻害する魔法具をつけた。ネックレス、ブレスレット、アンクレット、リングと形を変えた物をそれぞれつける。ハルジオンに貰った解除装置もちゃんと身につけた。
「そろそろ行くぞ」
「へーい」
「はい」
「ん、分かった」
夜十一時半、零時から始まるオークションに間に合うように家を出て、オークション会場へと向かった。
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