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ユダ1
しおりを挟む「解除装置か」
『そう。俺お手製だ。忘れずに絶対持っていけよ。使う時はこれを握りつぶせ』
「分かった。レヴイの事はどうすればいい?」
『オークションにさえ出ればレヴイは自発的に目を覚ます。それに伴って羽琉は体外に魂だけ押し出される筈だ。俺はタイミングを合わせて外から無理矢理押し通るから統合するのはその時だ。ただ統合に少し時間がかかる。その間魔法も使えなくなるから、啓介たちはレヴイと俺を守って欲しい。会場へは、先に客として入っていてくれ』
「分かった。もしかして鈴木さんともう一人の助っ人ってお前か?」
啓介が問いかけるとハルジオンが腹を抱えて笑う。
『違う。違う。俺じゃない。確かに俺も行くが別行動なんだよ。ふはっ、それはまぁ楽しみにしとけよって言えば大体分かんだろ? あの人らが押し入るのは俺が到着した後だ。俺が会場に外から大穴を開ける手筈になってるからな』
「あー……」
分かったのか啓介が気の抜けた返事をした。
『何はともあれあと二日だ。こっちも急ぎでやらなきゃいけない事があるからな。オークション主催者と戦争を仕掛けようとしてる奴らは同じだ。奇襲を成功させる為にも先にルドさんを守らなきゃなんねんだわ。うちの国の元第一騎士団総括隊長だからな。ルドさんを守って、戦争を起こそうとしている奴らの次の一手を潰す。あの人だけでもやれそうだけど今回は刺客の数が多いんだよ。だから俺が半分は一掃する。ルドさんが今まで集めてくれた情報を奴らに渡すわけにはいかない。証拠として国に持って帰らなきゃならねえからな』
これではルドは腕のたつ有能な現諜報部員だ。思わず目を瞠った。
「え?」
「は?」
「はああ!? 親父が!?」
勢いよく部屋の扉が開いた。
「兄ちゃん久しぶりです!」
『キアム久しぶりだな』
——お前ら覗いてたんかよ。いつからそこに居たんだ……。気配消すなよ。
『相変わらずあの人スッゲーかっこいくて惚れ惚れするぞ。——拓馬』
フワリと舞って本体の己が拓馬を抱きしめる。
「兄貴……」
『拓馬、悪かった』
憂いを帯びたアメジストが申し訳なさそうに細められ、カイルの肩口に額が乗った。
「嫌っす……聞きたくないっす」
『拓馬、ごめん』
「もう! 狡いんすよ兄貴は!」
『俺はお前の事もマジで大切なんだわ。弟みたいだと思ってる』
囁くような声は許しを乞うものではなくて、謝罪の意のみを含んでいる。
「嫌いって言われた方がマシっす!」
『悪い。嘘でも言えねえよ。俺は昔っからお前が可愛くて仕方ない。それに今世のお前は俺の……』
もう聞きたくないと言わんばかりにカイルの腕が伸びて、その指が銀糸の髪に絡む。引き寄せられるままに唇を重ねられていた。
見てはいけない場面に遭遇しているような、こちらが不貞を働いているような妙な気分になる。
「分かったっす……。初めっから分かってるんすよ。でもマジでもうちょい待ってください……」
『分かった。それにしてもお前やってくれたな。覚えている限りでは、今世で初めてのキスだったんだぞ……』
その言葉と共に、まるで陽炎だったかのように本体の姿が揺らめいて消えていく。
「え、嘘。やった! 兄貴のファーストキス奪ってやったっす!!」
ガッツポーズしたカイルは、次の瞬間には啓介の拳骨で床に撃沈されていた。
二人が部屋に帰って、啓介とベッドの上に腰掛けていた。
ハルジオンの話や、さっきのカイルとのやり取りを見ていたら、酒に酔っている自分とか過去の出来事を色々思い出してきた。
カイルに寝たと言われた言葉を思い返す。
そもそも啓介とカイルでは身長も違うし話し方も違うから間違いようがない。
それに前田の時は薬を盛られ啓介と他人を間違える事はあっても、すぐに違うと気付けていた。
ただ例外となる可能性が一つだけある……。
「俺よー、ユダが誰か分かったかも知れない」
呟く様に言うと、啓介がこちらに顔を向けた。
「誰だ?」
「最初、カイルが言ってただろ? 両方の現場に居なかった人。理由は憶測でしかないけど、あの人催眠術とか暗示が得意だったの知ってるか? 俺は何度か見た事がある。俺がお前とカイルを間違えたってのがそもそもおかしかった。逆に俺がカイルを誰かと間違える筈もない」
「お前は薬を盛られて暗示もかけられていたと?」
頷く。
カイルを中心に物事を見ていくと、繋がらない点と点が繋がっていく。
しかしカイルはそれを知らない。
とりあえずそこは伏せておいた。
「あの人がユダだと考えたら、薬を盛られた時の事も納得出来んだよ。あの時、カイルが言っていたように幹部全員居たんならあの人もいただろうし。そして、タイミングよく啓介が捕まらなかったのも、タイミングよくそこにカイルが現れたのも、タイミングよく俺がカイルと啓介を間違えたのも腑に落ちたっつうか。でも俺は啓介お前と誰かを区別出来なかった事なんて今まで一度もない。しかもセックスしてるのに気が付かないっておかしくないか? 多分俺にはカイルが啓介に見える暗示がかけられていた。理由としては、カイルに俺を捧げる為に。俺へは最後の餞としてだろな……単なる皮肉を込めた嫌がらせだ」
実際、あの人が中々口を割らない相手にこっそり暗示をかけているのを何度か見かけた事があった。道具も何も使わずにかけられる。
効果も抜群だったのに、暗示を使えるのを周囲に気が付かれたくない様子だったのもあり、今の今まで口に出していない。
気弱で争い事を好まないだけだと己を含めた周りに認識させていたが、全てが仕組れていた演技だったとしたら?
分からなかった一つ一つが繋がってくる。
「先に俺が撃たれたのは、カイルを俺から永遠に引き離す為。啓介は何をするまでもなく勝手に消えてくれたので対策を考える必要もない。その後組が潰れるまで一年の間が空いたのは、カイルが俺を庇って撃たれた傷が全快するのを待っていたんだろう。他の組員はそこまで肩入れしていないからこっちも論外、後は組長だったが、カイルの話を聞く限りだと恐らくカイルが庇って一緒に命を落としている。それは想定外だったんだろう。トップに座らせようとしていたカイルが居なくなってしまっては元も子もない。当然、組は継ぐ者が居なくなってそのまま崩壊した」
「カイルに組をやってどうする? その右腕の座にでも収まる気だったのか?」
首を振る。
「いや、違う。あの人はカイル……拓馬の本当の父親なんだと思う。シレッと後から父親だと名乗ってカイルを使って何かしようとしてたんなら、俺は一番邪魔だろうからな。だから真っ先に消した。次はお前……でもお前は俺の遺体と共に勝手に消えた。もしかしたら消えたお前の事を見ていて別の世界が存在すると、このタイミングで知ったのかもしれないな。そこに行くにはどうすれば良いのかを考えた。先ず、何か手掛かりがないかどうかお前の部屋へ行くだろうな……」
日本で出会った時カイルに父親はいなかった。アル中の母親と二人で住んでいたが、その母親からも幼少期から育児放棄されていて、父親は顔すら知らないと言っていたのを覚えている。
組でもカイルが親しく話しているのを見た事がない。カイルはこの一連の件を全て知らされていないとみていい。
「部屋……。この世界に直接繋がるもんは置いていない。ただ、俺の声で呪文を唱えれば開けるワープゲートならある。極たまに使っていた」
啓介の答えを聞いて口を開く。
「前田と連んでいたとしたらどうだ? 前田には俺の情報を与え、前田からは対価に薬と盗聴器に録音された内容のコピーを貰っていた。それにお前の部屋にも盗聴器があったんだろ?」
面倒くさそうに啓介が髪をかき上げた。
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