上 下
37 / 65

作戦とキアムの能力

しおりを挟む


 ——くっそ。もしかしたらユダにも近付けたかもしれないのに!
 舌打ちする。
 男たちの亡き骸はそのまま土に埋める。
 家に入るのと同時に啓介に目配せして防音魔法と侵入防御壁を張らせた。ついでにマットレスも中に引き入れて、それから家を直す。
「これからは全員で行動した方が良さそうだな」
 啓介の言葉を聞きながら、顎に手をやる。
「もしさっきの男たちに盗聴器みたいな作用がある魔法か何かが仕込まれていたとしたら、啓介……龍人族の王がここに居て何かしようとしているのがバレている事になる。アイツらがもしユダ絡みのオークション開催者側の一味だった場合、会場内に俺ら全員閉じ込められるだろう。恐らく啓介への対応策はもう取られているんじゃないか? 最悪の場合を想定したとして、逃げ出す時のルートを確保しておこう」
「オレが会場の天井か壁に穴あけましょうか?」
 あっけらかんと言ったキアムを見る。
「穴?!」
「そうです。オレ、魔法を使えないんじゃなくて、魔法力がチート過ぎて上手く制御出来ないだけなんですよ。加減なくぶっ放すんなら、寧ろ得意分野です。この家廃墟同然にしたのも、魔法の練習してたからなので……ハハッ」
 何処までも明るいキアムが、人っ懐っこい笑みを浮かべて頬をかきながら言った。
「見てて下さい」
 玄関の扉を大きく放ち、外に向けて手を翳す。そこから先程の比にもならないくらいの巨大な竜巻が発生し、遥か彼方に見えていた山を吹き飛ばして消える。これには全員目を剥いた。
 大型台風が何度も通った跡だとは思っていたが、本当に台風が通っていたとは思いもしていなかった。
「……」
「……」
「……」
「ね? これなら行けますか?」
「すげえな、キアム。正直ビビったわ!」
 撫でて? と言わんばかりに駆け寄って来たので頭を撫でてやると、キアムの表情が嬉しそうに蕩ける。
 ——ハルジオンがキアムに魔法を教えていたのはこの為か!
 この力を自在に操れるとなると、キアムにとって身を守る最大の武器になる筈だ。
 特訓するにはもう時間がないが、脱出ルートを一つ確保出来た。
 だが、あと幾つか考えておきたい。
 オークション会場の近くに日本で言うマンホールみたいな蓋があったのを思い出す。
「キアム、もしかしてさ、オークションの下に地下水路みたいなものがあったりしないか?」
「地下水路、ですか? うーん。確か昔の生活用水の名残ならあるかもしれませんね。でももう飲み水としては使えないと思いますよ?」
「まだ内部に水が残っているなら陽動に使える」
「陽動……ですか?」
「水蒸気爆発か」
 キアムの疑問を受け継いだ啓介のセリフに大きく頷いた。
 地下水などの表面の水が爆発的に気化する時の圧力で起こる爆発の事だ。閉じた重いマンホールの蓋どころか、コンクリートの地面さえも割る威力がある。
「そ! 火属性魔法を打ち込めば地下に逃げたと思わせられるだろ? 魔法とかは遠隔操作出来たり仕掛けられたり出来ないのか?」
「あ、それならおれ得意っすよ。店で良くやってましたからね。場所さえ分かれば簡単っす」
 カイルが小さく挙手する。
「じゃあ、カイルに任せる。後、問題は会場にいたレヴイに似たガキだな」
 突然現れたり消えたりと良く分からない技を使っていたのを思い出す。
「え、レヴイくんに似た子がいるんすか?」
 驚いたように言ったカイルの言葉に頷く。
「ああ。年齢的にはレヴイよりも二~三歳年下だろうな」
「あの子が得意なのは転移魔法です。でも厄介なのはあの子じゃありません。前にアニキたちと一緒に会った時、多分近くに思考を読む能力者が居たと思うんですけど、警戒すべきはその男の人なんです。歳は一号と同じくらいで、中世的な顔立ちをしているので女性に見えるかもしれませんが」
「あのガキがそうじゃなかったのか?」
「違います。二人はいつもセットで行動しているので、その時一緒に居たからどうかは憶測でしかありませんが」
「お前、何でそこまで詳しく知っている?」
「あ、すみません。言ってませんでしたね。うちの父と母はオークションで働いていて、眠りの貴人が来て三年くらいは内部にいたんですよ。でも貴人を助けようと外部の誰かと連絡を取り合っていたのがバレて、じいちゃんも一緒に消されました。ばあちゃんはそれがショックで寝込んでしまいがちになって、アニキたちにも話した通り、結局元々抱えてた心臓の持病で入院したっきりになってそのまま他界しました」
「成程な」
 オークション会場で働いていた三人から得た情報というのは、祖父と父母からだったみたいだ。
 きっとキアムも監視下にあったのだろう。しかし、内臓を売っていたのもあって長生きしないと判断され放置されている。
 しかし、今日の男たちの件があり家も真新しくなったのも、キアムが五体満足で元気に生存しているのも、啓介がここに居るのもバレたとみて良い。
「いくつか物理的な手段が欲しいな。もし仮に俺らの魔法を封じられた場合はどうする? 魔法だけに頼ったままじゃ危険な気がするんだよな。多分啓介の剣も持ち込み不可になるだろ? 外部からの応援も来ないとなるとどうなる? 俺らは格好の餌食だぞ。正直レヴイの体じゃ肉弾戦になると不利だ」
「俺の剣は小さくして体内にでも仕込んでおこう。金属探知機などないからな」
「魔法力封じなら親父がおれにかけてた魔法効果を反転させてみるとかどうっすかね? 魂に縛りを用いて余った能力を外部に分散させてたみたいっす。それを逆に自分の中に来るように仕向けて、いざという時に発散という形にして魔法や魔道具を誤作動させるんす」
「ああ、確かにそれなら封印を防御出来るかもしれん。一度試してみるか」
「あと、ハルジオンとも連絡取りてえな。今晩来るって言ってたし、その時話すか? つうかアイツ俺んとこにも情報寄越せよな。何で俺からアイツへの一方通行なんだよムカつく。ロアーピス国の第五皇子にしてもそうだし、どうなってんだよあの国。味方じゃねえんかよ」
「お前自身の事だろうが」
「そうなんだけどよ。俺にはアイツだった記憶がねんだよ。だから顔の似た他人だ!」
「くく、まあ、記憶がなきゃそうだろな」
 こんなのフェアじゃない。
 ——来るならもっと有益な情報を寄越して欲しい。
 愚痴ってみた所で今世の自分なので頭が上がらない。こういう適当な所は前世と違っていて欲しかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

処理中です...