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作戦とキアムの能力
しおりを挟む——くっそ。もしかしたらユダにも近付けたかもしれないのに!
舌打ちする。
男たちの亡き骸はそのまま土に埋める。
家に入るのと同時に啓介に目配せして防音魔法と侵入防御壁を張らせた。ついでにマットレスも中に引き入れて、それから家を直す。
「これからは全員で行動した方が良さそうだな」
啓介の言葉を聞きながら、顎に手をやる。
「もしさっきの男たちに盗聴器みたいな作用がある魔法か何かが仕込まれていたとしたら、啓介……龍人族の王がここに居て何かしようとしているのがバレている事になる。アイツらがもしユダ絡みのオークション開催者側の一味だった場合、会場内に俺ら全員閉じ込められるだろう。恐らく啓介への対応策はもう取られているんじゃないか? 最悪の場合を想定したとして、逃げ出す時のルートを確保しておこう」
「オレが会場の天井か壁に穴あけましょうか?」
あっけらかんと言ったキアムを見る。
「穴?!」
「そうです。オレ、魔法を使えないんじゃなくて、魔法力がチート過ぎて上手く制御出来ないだけなんですよ。加減なくぶっ放すんなら、寧ろ得意分野です。この家廃墟同然にしたのも、魔法の練習してたからなので……ハハッ」
何処までも明るいキアムが、人っ懐っこい笑みを浮かべて頬をかきながら言った。
「見てて下さい」
玄関の扉を大きく放ち、外に向けて手を翳す。そこから先程の比にもならないくらいの巨大な竜巻が発生し、遥か彼方に見えていた山を吹き飛ばして消える。これには全員目を剥いた。
大型台風が何度も通った跡だとは思っていたが、本当に台風が通っていたとは思いもしていなかった。
「……」
「……」
「……」
「ね? これなら行けますか?」
「すげえな、キアム。正直ビビったわ!」
撫でて? と言わんばかりに駆け寄って来たので頭を撫でてやると、キアムの表情が嬉しそうに蕩ける。
——ハルジオンがキアムに魔法を教えていたのはこの為か!
この力を自在に操れるとなると、キアムにとって身を守る最大の武器になる筈だ。
特訓するにはもう時間がないが、脱出ルートを一つ確保出来た。
だが、あと幾つか考えておきたい。
オークション会場の近くに日本で言うマンホールみたいな蓋があったのを思い出す。
「キアム、もしかしてさ、オークションの下に地下水路みたいなものがあったりしないか?」
「地下水路、ですか? うーん。確か昔の生活用水の名残ならあるかもしれませんね。でももう飲み水としては使えないと思いますよ?」
「まだ内部に水が残っているなら陽動に使える」
「陽動……ですか?」
「水蒸気爆発か」
キアムの疑問を受け継いだ啓介のセリフに大きく頷いた。
地下水などの表面の水が爆発的に気化する時の圧力で起こる爆発の事だ。閉じた重いマンホールの蓋どころか、コンクリートの地面さえも割る威力がある。
「そ! 火属性魔法を打ち込めば地下に逃げたと思わせられるだろ? 魔法とかは遠隔操作出来たり仕掛けられたり出来ないのか?」
「あ、それならおれ得意っすよ。店で良くやってましたからね。場所さえ分かれば簡単っす」
カイルが小さく挙手する。
「じゃあ、カイルに任せる。後、問題は会場にいたレヴイに似たガキだな」
突然現れたり消えたりと良く分からない技を使っていたのを思い出す。
「え、レヴイくんに似た子がいるんすか?」
驚いたように言ったカイルの言葉に頷く。
「ああ。年齢的にはレヴイよりも二~三歳年下だろうな」
「あの子が得意なのは転移魔法です。でも厄介なのはあの子じゃありません。前にアニキたちと一緒に会った時、多分近くに思考を読む能力者が居たと思うんですけど、警戒すべきはその男の人なんです。歳は一号と同じくらいで、中世的な顔立ちをしているので女性に見えるかもしれませんが」
「あのガキがそうじゃなかったのか?」
「違います。二人はいつもセットで行動しているので、その時一緒に居たからどうかは憶測でしかありませんが」
「お前、何でそこまで詳しく知っている?」
「あ、すみません。言ってませんでしたね。うちの父と母はオークションで働いていて、眠りの貴人が来て三年くらいは内部にいたんですよ。でも貴人を助けようと外部の誰かと連絡を取り合っていたのがバレて、じいちゃんも一緒に消されました。ばあちゃんはそれがショックで寝込んでしまいがちになって、アニキたちにも話した通り、結局元々抱えてた心臓の持病で入院したっきりになってそのまま他界しました」
「成程な」
オークション会場で働いていた三人から得た情報というのは、祖父と父母からだったみたいだ。
きっとキアムも監視下にあったのだろう。しかし、内臓を売っていたのもあって長生きしないと判断され放置されている。
しかし、今日の男たちの件があり家も真新しくなったのも、キアムが五体満足で元気に生存しているのも、啓介がここに居るのもバレたとみて良い。
「いくつか物理的な手段が欲しいな。もし仮に俺らの魔法を封じられた場合はどうする? 魔法だけに頼ったままじゃ危険な気がするんだよな。多分啓介の剣も持ち込み不可になるだろ? 外部からの応援も来ないとなるとどうなる? 俺らは格好の餌食だぞ。正直レヴイの体じゃ肉弾戦になると不利だ」
「俺の剣は小さくして体内にでも仕込んでおこう。金属探知機などないからな」
「魔法力封じなら親父がおれにかけてた魔法効果を反転させてみるとかどうっすかね? 魂に縛りを用いて余った能力を外部に分散させてたみたいっす。それを逆に自分の中に来るように仕向けて、いざという時に発散という形にして魔法や魔道具を誤作動させるんす」
「ああ、確かにそれなら封印を防御出来るかもしれん。一度試してみるか」
「あと、ハルジオンとも連絡取りてえな。今晩来るって言ってたし、その時話すか? つうかアイツ俺んとこにも情報寄越せよな。何で俺からアイツへの一方通行なんだよムカつく。ロアーピス国の第五皇子にしてもそうだし、どうなってんだよあの国。味方じゃねえんかよ」
「お前自身の事だろうが」
「そうなんだけどよ。俺にはアイツだった記憶がねんだよ。だから顔の似た他人だ!」
「くく、まあ、記憶がなきゃそうだろな」
こんなのフェアじゃない。
——来るならもっと有益な情報を寄越して欲しい。
愚痴ってみた所で今世の自分なので頭が上がらない。こういう適当な所は前世と違っていて欲しかった。
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