極道の若頭だけどオメガバのある異世界に転生した上、駄犬と龍人族の王に求婚されている

riy

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「キアムくん、もしかしてアルファなんすか?」
「はい。そうです」
「お前アルファなのに魔法も使えないのか?」
「いやー、使えないと言うか扱いが難しいと言うか……昔は兄ちゃんに教えて貰ってたんですけど、いきなり居なくなっちゃったんで」
 ——魔法の事はさっきも言っていたな。それに、泊まりに来ていた〝俺〟は市場に行くと言ってそのまま居なくなったと言っていた……何か理由があるのか? 後、どうして今世の俺はキアムに魔法を教えていたんだ?
 素朴な疑問がいくつか生まれた。
「ああ!? マジで新居建ててんじゃねえーかよ! おいキアム! 家建てる金あんなら借金返せや!!」
 突然扉をぶち破らんばかりに開いてガタイの良い男が三人入ってきた。
 思考は中断され、男たちに視線を注ぐ。
「何言ってるんですか! あれはちゃんと返したじゃないですか! それを返済後に勝手に契約内容変えて利息弄られても知るかって話ですよ!!」
 ご尤もである。
「「「キアムが正しい」」」
 随分な悪徳商売っぷりに思いがけず声が揃う。
「ああ? 誰だてめえら」
「見かけねえ顔だな」
 男たちからの問いかけには誰もが無言だった。
 こういうのは自分たちの専売特許のようなものだったのもあり、微動だにせずにいると、その内の一人に腕を掴まれた。
「払わねえんならこっちの可愛こちゃん連れてくぞ。オメガか? このツラだったら高く売れそうだなぁ」
 下卑た笑いが響き渡る。カイルと啓介を制するように反対側の手を上げて止めた。
「おい、てめぇら……」
 宙吊りにされたまま口を開く。
「どうした? 怖くて泣きそうになっちまっ……ッガ!」
 風魔法を纏わり付かせた足を振り上げて、男の横っ面を思いっきり蹴り飛ばす。
 家の壁を破壊し、男の巨体が外に転がった。
「誰が可愛こちゃんだって?」
 啓介とカイルが腹を抱えて笑い出す。
 一撃で伸された男はピクリとも動かずに沈黙している。それを見ていた残り二人の男たちは唖然としたまま見つめていた。
「兄貴! おれも腕試ししたいんで混ぜて下さい!」
「あああ、家にまた穴が!」
「派手にぶっ飛ばされましたからねー」
「もう! 笑い事じゃないですよ!」
 キアムがオロオロと狼狽始める。ホテルのように、瓦礫と化してしまうのではないかと焦っているようだった。
「あー、悪いキアム。後で直してやるから」
「お前ら、俺たちを無視して何和んでやがる!! 俺らのバックには龍人族がいるんだぞ!」
 ——龍人族? まさか戦争を仕掛けようとしている奴らとも関係してんのか?
 啓介からも笑みが消えていた。
「龍人族だと?」
「お、おう! そうだ! あの龍人族だ! 俺たちは王直々の命令で動いているからな!」
 人の名前を使い、さも自分が偉い人物だと言わんばかりに胸を張っている。
 ——その王様、いま目の前に居るんだけどな……死んだな、コイツら。
 ご愁傷様、と黙祷を捧げた。
「へぇ……。それは興味深いな。で? その指令内容とお前らの名は?」
「んなの言えるわけねえだろぉが!!」
 怒鳴り声で耳が痛い。
「俺はお前らの様に使え無さそうな輩に知り合いも居なければ、そんな指令を出した覚えもないが?」
「え……!?」
 男からの返事も待たずに啓介から禍々しいまでのプレッシャーが放たれる。初めて会った時に店を一刀両断した時と同じだった。
 剣の柄に手が掛かり、刀身がスラリと露わになる。重苦しい空気が更に圧を纏っていく。
「ひっ!?」
 男たちはそのプレッシャーを浴びただけで腰を抜かしてへたり込んだ。
「ちょ、啓介! それはやめろ!」
「そっすよ! おれが試したかったのにもう泡吹いてるじゃないっすか!」
 カイルと二人で口を揃えて言うと、啓介が刀身を鞘に戻してソファーに腰掛け直した。
「脅しただけだ。それにしても何故龍人族の名を出し始めた? 羽琉が言っていた事とも関係しているのか?」
 それは己も考えていた。どうもきな臭い匂いがしてきている。
「とりあえずコイツらが起きるまで待とうぜ」
 結果的に三人とも気絶してしまったので、庭に並べて頭だけ出したまま地面に埋めていく。
「これで逃げられる心配もなしっと」
 カイルと二人でパチンと手を合わせてしまい、感電するなり悶絶する。
 ——ついつい昔の癖で……。
 その横でキアムが「酷い……」と言いながら黙祷を捧げていた。




 その三十分後、目を覚ました男たちは自分たちが地面に埋まっているのを知り、甲高い悲鳴を上げていた。
「よう、目が覚めたか? お前ら何で龍人族の名を語っている?」
「そんな事……っ、言った覚えは、ない」
 明らかに『しまった』というような顔をした男に、にっこりと微笑みかける。
「地面に埋まったまま水責めにされてみるか?」
 脅し半分で男たちの周りに水魔法でスライムの塊を作っていく。それを目の前で見つめていると、その内の一人が水の中でガボガボ言いながら『話す』と口パクした。それを確認するなり、魔法を解く。
「で? どうして龍人族の名を出した?」
「それは……っ、龍人族の名を……出せば大抵の奴らは……ビビるから……です」
 ソッと視線を伏せて斜め下方向に向けたのを知り、口端だけを上げてみせた。
「職業柄、嘘をついてる奴の仕草は分かる。ちゃんと話した方がお前らの為になるぞ? これが最後の質問だ。何で龍人族の名前を出した?」
 目を細めてみせると、男たちの中から悲鳴が上がった。
「テオ……様が……っ」
「テオ? どこのどいつだ?」
「おい、バカ。やめろ!」
「ロアーピス国の……第五皇……っぐ!」
 そこまで言った時、風が吹き荒れた。土埃を巻き上げて男たちの上を通過していく。風が止んだ時には、三人とも地面から出していた首ごと攫われ、変わり果てた姿になっていた。
 ——やられた。
 どこかから監視されている。
「啓介! カイル!」
 いつ攻撃が来ても良いように、キアムを守るように各自身構えた。が、それ以降何かおこる気配はしなかった。
「単に口封じをしたかっただけか……」
「でもおれらが全員連んでいるのはバレたっすね」
「これ、オークションまで持つか?」
 その前に奇襲をかけられそうだ。


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