極道の若頭だけどオメガバのある異世界に転生した上、駄犬と龍人族の王に求婚されている

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ハルジオン・ウォーレン

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「大丈夫か、キアム?」
 薄茶色の瞳がアメジスト色に縁取られ、口元には緩く弧を描かれた。
 ——違う……キアムじゃない。
 表情を見れば一目瞭然だった。キアムはこんな笑い方をしない。
「……っ!?」
 立ち上がって一様に身構えたが、既視感のありすぎる感覚に目を見開く。
 ——何だこれ。鏡でも見てるみたいだ。
 姿はキアムなのに、共鳴を起こして頭の中で甲高い耳鳴りのような音がした。
 啓介とカイルが信じられないものを見ているように動揺で瞳を揺らしている。
「羽琉」
「兄貴?」
「は、俺……?」
 瞬きもせずに凝視してしまった。
「時間がないから手短に言うぞ。〝レヴイ〟はオークション開催日まで眠らせたままにしといて欲しい。悪いが、拓馬はいまそっちの俺にあまり近付くな。レヴイの刺激になり過ぎる」
 キアムの肩を竦ませ、軽く目を眇めてみせた表情は日本で写真に映っていた自身そのものだった。
 そして分かった事が一つある。
 ——レヴイはやはり今世での記憶を意図的に伏せて寝ている。俺に知られたくないというよりも、本体の俺と繋がりがある事を悟らせない為か?
 記憶があればカイルやルド、啓介やキアムとも出会う事がなかっただろう。
 確かに自分の性格を考えると、そのままルオンに直行していそうだ。
「兄貴に?」
 カイルを見て鷹揚に頷いていた。
「そうだ。お前らの情報は、レヴイの中にいる〝そっちの俺〟を通じて俺の頭にも入ってきている。悪い、まだ動けなくてな。今日は夜中以外は会えそうにない」
 本当に己の本体が別で存在している事を目の当たりにして動揺してしまった。
「俺、いや……お前は〝眠りの貴人〟なのか?」
 手っ取り早く目先の疑問だけを問いかける。
「弟だ。だが、今回こそあれを奪還しなければ戦争が起こる。これでも俺らはロアーピス国の第二皇子なんでな。眠りの貴人……リュクスを攫ったのは、龍人族だと吹聴している奴がいる。うちの国とユロス帝国をぶつけて潰し合わせる作戦だ。何が何でも止めたい。あと、今世の俺の名前はハルジオン・ウォーレン……」
 そこまで喋った時に一度音声が途切れた。
「悪い。マジでもうそろそろ時間だわ! キアムにも宜しく言っといてくれ!」
 素面での喋り方は日本にいた時の自分と同じらしい。
 違和感が拭えなかっただけに、今ので確信してしまった。
「おい、ちょっと待て!」
 キアムの体に入っている〝自分〟の腕を掴んだ。
「安心しろ〝羽琉〟お前が今一番欲しいモノは俺がちゃんと持ってる。拓馬、後でちゃんと話したい。あと、あまりその体に手を出すな、啓介。今度はホテルの壁十枚抜きにしてぶっ飛ばしてやる。誰かさんのせいでここの世界の俺はオメガだけど、元アルファだから強いぞ? 楽しみだろ?」
 啓介の唇とキアムの唇が重なる。
 その後すぐに共鳴音が鳴り止み、居心地の悪過ぎる沈黙が流れた。
 ——これ……絵面ヤベえ。
「「ぐふっ、ブッフォ……ッ!」」
 カイルと二人で思いっきり吹き出して、腹を抱えて笑い転げる。
 レヴイの無い腹筋では笑いでさえも耐えきれなくて、脇腹が引き攣った。
「あの……ブラックさん……何でオレたち…………キスしてるんですか?」
 脂汗をダラダラとかきながら、キアムの声が震えている。
「…………俺が聞きたい。おい、羽琉てめえふざけんな!!」
 口付けられそうになった時に、互いの体に感電したような痛みが走った。
「いってえ!! 何だこれ、感電したぞ。電気か?」
 飛び跳ねるように距離を取ると、啓介が身を震わせながら怒りを露わにしている。
「はーーーるーーー…………。お前本体に入ったらマジで覚悟しておけよ」
 啓介の目が完全に据わっていた。嫌な予感も通り越して、死の予感しかしない。
「いや小細工したの俺じゃなくね? お行儀良さげなハルジオンの方の俺に言えよ」
 後ろ向きにソファーを飛び越えて、啓介から距離を取る。
 そこへカイルがやってきて抱きつかれた。
「おれ的にはラッキーすね。って、いてーーっ!! え、おれも対象!?」
「馬鹿かお前。お前は真っ先にレヴイを刺激すんなって言われてただろうが」
「嫌っす! 地獄っす!!」
 キアムが茫然自失としていた。
 静かに床に沈み込み、膝を抱えて座りはじめる。
 こんなに凹んでいるキアムを見るのは初めてだ。思わず背をさする。
「キアムどうした? 倒れた時どっか打ったのか?」
「ファーストキスは……アニキが良かったっす」
 ——それもどうかと思うぞ。
「オレの……ファーストキス……」
 一番の被害者はキアムだった。

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