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密談2

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「とりあえず番の話も引っくるめて後にしないっすか? 今この場でするような話でもないでしょ」
「なら今日はこのまま家に帰りましょうか!」
 啓介に抱きかかえられながら帰路を辿る。
「ごめん……啓介」
 ボソリと呟く。恐る恐る首に両腕を巻きつけた。
「俺だと思ってたんだろ?」
「それがいつの話なのかもさっぱり思い出せないのが嫌だ。つうか何で気が付かなかったんだ。いくら酔ってても相手がお前じゃないなら気付くと思うんだけど。カイルに会う前にまた薬盛られてた? 訳わかんねえ。でもカイルは嘘言ってるように見えねんだよ……。俺、もしかして自分で気が付いていないだけで、お前やカイル以外にも抱かれてんじゃねえのか?」
 胸の内を吐露すると、きついくらいに抱きしめられた。
「貞操帯つけるか、俺じゃないとイけないような妙な性癖を仕込まれるか……どっちがいい? それならヤる前か最中に嫌でも気がつくだろ?」
「さっきの話は忘れてくれ。冗談だ」
 本当に仕込まれそうで怖い。





 家に着いてキアムが飲み物を用意している間、リビングのテーブルを三人で囲んでいた。
 防音魔法の類はもう今更な気がして、今日はもう何も対策せずに会話をしている。
 キアムも何も言わずに、キッチンとリビングを行ったり来たりしながら会話に耳を傾けていた。
「で、カイル。さっきのはいつの話だ? お前が羽琉に好意を寄せてるのは昔から知ってた。ダミーで女作ってたお前が自分の気持ちに気が付いていない訳ないだろう」
 確信を持って言った啓介に、カイルが明るく笑んで両手を頭の後ろで組んで椅子に深く腰掛ける。
「やっぱバレてました? でも間違われてそのまま寝たのは本当っすよ。時期的には兄貴が若頭になってすぐくらいっすかね。あの時、新店舗展開してて須藤さんはちょうど居なかったっす」
 誰かに計算されたかのようなタイミングの良さがまた気持ち悪い。
「ちっ、ならコイツは前田の時みたいにまた薬盛られてたんだろ? 羽琉を迎えに行った時、近くに誰か居なかったのか?」
「あ? マジで盛られてたのか?」
「だと思いますよ。瞳孔開いてましたもん。慌てて腕見たけど痕は無かったんで、酔ってきた頃合いを見計らって酒に混ぜられたんじゃないっすかね? 誰が居たとか覚えてないんすか?」
 目を細めて思考を巡らせる。
 正直その日自体にさえも心当たりが無い。無いと言うよりも着任してからホストクラブ巡りは毎日のように行っていて、その度に浴びる程に酒を飲まされていた記憶しかない。
 翌日になればケロッとしている体質なのもあって、仕事に支障をきたした事もないから気にもしていなかった。
 毎回のように一緒にいたのは啓介とカイルを含んだ当時の幹部……それから考えられるのは客、だ。
「その時期は様子見で行って誘われるままに飲んでたから、やっぱり該当する日に覚えがない。俺が一緒に飲んでたとなると客の可能性が高いけど、男には興味ねえからホストメンバーじゃなくて相手は女だと思うぞ」
「……」
「……」
 二人から無言の圧力を受けた。
「あーー、もう!! はい。男ばっか食ってて悪かったよっ!」
 投げやりな口調で言うなり椅子に深く腰掛けて、足を伸ばす。
「おれが行った時にはもうホストクラブのオーナーとうちの幹部だけっした。誰が兄貴の酒を勝手に変えたんだって渡辺さんがオーナーを怒鳴ってましたね。須藤さん呼べって言われて電話したけどあんたは捕まらなくて、おれが兄貴を家まで送って部屋で吐かせるだけ吐かせて水飲ませました。でもおれと須藤さんを間違えたままくっ付いて離れないし、そこからは裏路地で話した通りっすよ。兄貴に避けられるのだけはおれ絶っっ対に嫌なんで、須藤さんが来てたって事にして、寝たのはずっと黙ってました」
「それでもまだ分からんな。その後でも機会ならあっただろう。羽琉に薬を盛った奴がいた事を何故俺に言わなかった? 羽琉に危害を加える奴をお前は許さないだろ」
 探るように睨みつけた啓介を見て、カイルが逆に啓介を睨みつけた。
「兄貴が絡むと容赦なさ過ぎるあんたに話すのが一番危険かもって後から思ったんすよ!! それにあんたは組長から新しい店の管理と経営任されてたから組に居なかったでしょ。だからおれだけで付きっきりで護衛してたんす! てか、兄貴が凹んでてちょっと可哀想なんで話を変えますけど、もしレヴイくんの意識が覚醒したらどうなるんすか?」
 移動してきたカイルに頭を撫でられる。寝た話が出た辺りから立場が逆転してきている気がするが、もう極道でもないしどうでも良くなってきていた。
「羽琉を早く本体に戻さないと、レヴイはその体に主人格として戻れなくなる可能性がある。戻れたとしても、羽琉自身が体から追い出されて魂だけになるか、主人格が入れ替わって今度は羽琉が体内に眠らされるかのパターンだろうな」
 ここに来てまた新たな問題が出来てしまった。
「それはどれも困る」
 膝の上に両肘を乗せて頭を抱える。
「その前に兄貴の体って何処にあるんすかね?」
「ああ、そういえばこれを見せるのを忘れてた」
 矢島にポケットに入れられたメモをカイルにも見せた。
 あからさまに顔を顰めたカイルが「これって確定なんすか?」と小さな声で問いかけてくる。
「分からないが恐らくそうじゃないかとみてる。名前の通り寝たままらしいから、起こしてみなきゃ分からないけどな」
「兄貴と須藤さんはどう思ってるんすか? おれ、ラーメンの材料を仕入れるついでに一度オークションの前もフラッと歩いて来たんすけど、兄貴の気配も匂いもしなかったっすよ。おれは兄貴なら探せる自信ありますし」
 そういえば、匂いで嗅ぎ分けてたなコイツは……と思い半目になる。再会の時がそうだったからだ。
「癪だが同意見だ。俺も羽琉の気配なら分かるが何度行っても何も感じん。だが、認識阻害魔法を使われていたとなると話は別だ」
 啓介がそこまで言った時、キアムが突然倒れた。かと思えば、ゆったりとした動作で立ち上がる。


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