31 / 65
アルファと消えた噛み跡
しおりを挟む「お前が絡むと何故かレヴイが反応するんだよ。じゃあレヴイが一方的にお前を知っているんかな……」
うーん、と唸りながら逡巡していたカイルが「あ」と声を上げる。
「違ってるかも知れないんすけど、去年、親父のお使いで隣の街に行った事あって、娼館に運ばれてる籠にいる子にコッソリ話しかけた事ならあります。出たいならおれが逃してあげようかって。でも迷惑をかけると思うから気にしなくていいと断られました。籠越しにしか話して無いんで顔は見えなかったっす。もしその子がレヴイくんだったんなら二~三会話はしてますね。それ以外は知ってる人や村の人間としか話してませんよ」
「いってえ!!」
胸が痛くなって思いっきり地面に膝をついた。規則正しく動く心音に合わせて、痛みが押し寄せてくる。
「ちょ、どうしたんすか? 大丈夫っすか兄貴!?」
カイルが焦って背を摩ってくれた。
しかし、それと同時にまた胸の痛みが酷くなっていく。
——あ、これ確定だ。
しかもレヴイはカイルに好意を抱いているんじゃないかと思えた。
「あーーー、マジか」
レヴイがやっと反応してくれる様になったのは微笑ましい事だが、思ってもみなかった方向からの新勢力の参入に、どうすれば良いのか分からなかった。
「具合が悪いのか? 羽琉、こっちに来い」
啓介に持ち上げられて前抱きにされる。
「アンタはやっぱり狡いっす」
カイルが呟いた。
「知っている。態とだ」
「そこまで潔く認められると何も言えなくなりますね」
キアムからも言われているが、意にも介していない。
「あ?」
「どうした?」
啓介が訝し気な声を上げたので視線を絡めた。
「来い。少し確認したい事がある」
足早に裏路地に入り、啓介にうなじを覗かれる。
「え? 何で兄貴から噛み跡が無くなってるんすか!?」
「て事はアニキはフリーて事ですか?」
啓介が気難しい顔で何やら思案していた。
「羽琉、ここへ来てから変わった事はあるか?」
何と言って良いのか悩んで、問いかけにだいぶ間を空けて口を開く。
「ああ……ある。何故かカイルが絡むと、沈んでいる筈のレヴイの意識というか感情が体に現れるようになった」
まさかレヴイがカイルを好きかも知れないとは言えなくてそれだけ告げる。
心臓の痛みはもう引いていたので啓介から少し距離を取った。
理由は分からないが、昨日と今日では啓介との間に流れる空気が異なっている気がしたからだ。
運命の番のその歯形の事かも知れないが、少しだけ肌がひり付くような違和感がある。
「カイル、お前は最近変わった事はなかったか?」
「おれ…………。あ、そういえばおれベータじゃなくてアルファだったみたいっす。ややこしい事になりそうだからって、子どもん時に親父が能力の制限魔法と暗示をかけたって言ってました。解除方法も教えて貰ったんすけど、いざという時までアルファとしての能力を解放するなって言われてたんで黙ってたんす。でもキアムくんの家着いて数日もしない内に勝手に解放されてました。何でっすかね?」
——そんな制限もかけられるのか。
初めて知った。この世界に来てから覚える事が多くて目が回りそうだ。
そしてここにきて気がつく。
そもそもどうしてレヴイは記憶を持ったまま閉じこもってしまったのか。
母親の事を助けて欲しいのであれば、記憶はあったままの方がコチラとしては手間が省けて良かったしお互い有益だったのではないか?
——俺が今見てしまうと都合の悪い記憶がある?
眉間に皺を寄せて顎に手を当てた。
「ああ、その変化なら俺も気が付いていた」
啓介も何か思案するように目を細めていて、同じように思考を切り替える。
カイルが来た時、あの時はちょうど発情期だった。その影響を考える。
——何であの時カイルは『フェロモンダダ漏れ』って言った? その後も『甘い匂いがする』とも言っていた。
考えられるとしたら一つしかない。
「なあ、カイル……言い難いんだけどさ、お前とレヴイて、もしかして運命の番って可能性はないか? だからレヴイがお前に反応して表面に出始めているんじゃないか?」
「えええ……っ?」
キアムが叫んだ。唖然としたまま、口も半開きになっている。
その横でカイルは複雑そうな顔をしていた。
「俺も同じ事を考えていた。お前が来てから羽琉の匂いが変わったっていうのが大きい。この通り、俺の噛み跡も消えているしな。それにお前羽琉の匂いを察してただろ? あれは番にしか分からない筈の匂いだ」
「それって相手が兄貴だからって事はないんすか? 何でレヴイくん確定なんすか?」
「羽琉は俺の運命だ。運命は変わらない。例え俺が番を解消したとしてもだ。お前もこの世界で育ってきているから分かるだろう?」
カイルが口を閉じて視線を逸らした。申し訳ない気持ちでいっぱいになって、カイルの方を向けなくなってしまう。
「だからって……はいそうですかって、この人のこと諦めて他にいけるんなら、日本に居た時点でもうとっくに諦めてるんですわ。自分だって同じでしょ、須藤さん。おれの気持ちが一番分かるの須藤さんすよね?」
啓介が黙って、腹立たしげに髪の毛をかき混ぜていた。
「これってドロドロの三角関係ですか? ていうかニホン? どこですか?」
「日本てのはここにはないっす。おれらの前世の世界の話っすよー。ドロドロではないっす。だって須藤さんに張り合ってもしょうがないっすもん。兄貴にとって一番安心して側に居れる人は須藤さんだと知ってて、おれが勝手に兄貴を好きになったってだけっす。分かってます。分かっててもどうにも出来ない事ってあるでしょ?」
前世と聞き、キアムが驚いた表情をしている。
「俺的にはそこが謎なんだけど……お前何で俺に惚れてんだ? 初めは憧れの先輩みたいな立ち位置だったろ?」
カイルが「あー」とか「うー」とか言いながら、頭を抱えてのたうち回り始めた。
16
お気に入りに追加
239
あなたにおすすめの小説
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
【完結】聖人君子で有名な王子に脅されている件
綿貫 ぶろみ
BL
オメガが保護という名目で貴族のオモチャにされる事がいやだった主人公は、オメガである事を隠して生きていた。田舎で悠々自適な生活を送る主人公の元に王子が現れ、いきなり「番になれ」と要求してきて・・・
オメガバース作品となっております。R18にはならないゆるふわ作品です。7時18時更新です。
皆様の反応を見つつ続きを書けたらと思ってます。
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
伸ばしたこの手を掴むのは〜愛されない俺は番の道具〜
にゃーつ
BL
大きなお屋敷の蔵の中。
そこが俺の全て。
聞こえてくる子供の声、楽しそうな家族の音。
そんな音を聞きながら、今日も一日中をこのベッドの上で過ごすんだろう。
11年前、進路の決まっていなかった俺はこの柊家本家の長男である柊結弦さんから縁談の話が来た。由緒正しい家からの縁談に驚いたが、俺が18年を過ごした児童養護施設ひまわり園への寄付の話もあったので高校卒業してすぐに柊さんの家へと足を踏み入れた。
だが実際は縁談なんて話は嘘で、不妊の奥さんの代わりに子どもを産むためにΩである俺が連れてこられたのだった。
逃げないように番契約をされ、3人の子供を産んだ俺は番欠乏で1人で起き上がることもできなくなっていた。そんなある日、見たこともない人が蔵を訪ねてきた。
彼は、柊さんの弟だという。俺をここから救い出したいとそう言ってくれたが俺は・・・・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる