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発情期とカイル再び
しおりを挟む一時間きっかりにノック音が聞こえた。もう動ける状態じゃない。精液を吐き出し続けているせいで疲労感が凄くて回復中である。
「勝手に……鍵開けてくれ」
「羽琉、今お前の薬を持ってきたっていう駄犬が来ているんだが、新旧共に切り捨ててもいいか?」
——いや、駄目だろう……。
「カイ……ル?」
「ああ、犬どもが煩くて敵わん」
まだ動けずに、ボーッとする頭で無理やり思考を巡らせる。
——何でカイル?
扉を開かれ、耳をすませると喧噪が聞こえてきた。
「だからさー、おれは兄貴の薬持ってきただけなんだって!」
「じゃあ、何でこの家に居るって分かったんですか! どこの回しもんですかアンタ!」
——うるせえな、アイツら……。
イラッとした。
二匹の犬がギャーギャー喚いていて煩い。啓介が本当にそのまま切り捨ててしまいそうな顔をしていた。
「そりゃ街中で、銀髪の可愛い子連れたデカい男見かけませんでした? て聞いたら、キアムって奴と一緒にいたよって言うから、キアム君の家って何処ですか? て順番に聞いて回って辿ってきたんだよ!」
「とりあえず落ち着けそこのバカ犬共」
——本物のカイル?
意識が朦朧としながら服を直す。扉を開けて啓介に続き、階段まで歩いて行くとカイルと目が合った。
「兄貴! フェロモンダダ漏れでエロ過ぎて最高っす!! 押し倒して良いっすか!?」
——良くねーよ。
「マジで最高です!!」
——無駄に元気だな、アイツら。
水魔法を使って頭の上からバケツに入った量くらいの水をそれぞれに落としてやる。
冷たい! と抗議の声が上がったが無視だ。
「おい駄犬一号、早く薬を寄越せ」
「へーい」
啓介からの声掛けに珍しくカイルが従っていた。
機嫌良さそうに右足でタンタンと二度床を叩いている。
——何の動きだあれ。
荷物をガサゴソと漁っていたカイルの動きが止まった。
「すんません。忘れてきたみたいっす」
「「何しに来たんだよ!!」」
二人から集中砲火を受け、カイルがキャインと泣く。
何だかアホらしくなってきて、その場にへたり込んだら、足早に近付いてきた啓介に横抱きに抱えられて、別の部屋に連れて行かれた。
「啓介、俺……」
見上げると唇で唇を塞がれる。
「おい、そんな目で見るな。俺の理性が飛んでも知らんぞ」
それでも良い、と言いそうになって口を噤む。何度か荒い吐息を繰り返して口を開いた。
「ん……っ、肌に服が擦れるのも、嫌なんだよ」
発情期の辛さが身に沁みた。
外野が煩いが、もうどうでも良い。今すぐにでも精を発散したくて息が苦しい。
「俺の部屋にいろ。発情期中は番の部屋に居る方が何かと都合が良いと思うぞ。俺はあのバカと話があるからちょっと出掛けてくる」
「嫌だ……」
首に腕を巻き付けて口付ける。自分から舌を絡めて、啓介の口内を貪った。
「ぁ……、ん、ん」
忍び込んできた舌に舌を絡めて吸い上げる。離された唇からは銀糸が伸びて伝い落ちた。
「煽るな。人の気も知らないで……っ」
欲を浮かばせながらも耐えるように啓介の顔が歪んだ。
「あーーーー……、早く思う存分にお前の中を突きまくって孕ませてやりたい」
その言葉に思わず頷きかけて左右に首を振る。なけなしの理性を総動員させた。
啓介の部屋に入った瞬間、異空間に入ったような妙な感覚に陥る。
——結界、か? 何で部屋の中にまで結界?
「啓介? これ……」
「外に俺を呼ぶお前の声を漏らしたくないんでな。ああ、そうだ。ここに俺の衣服があるから好きに使え」
——声、聞こえてた? 服?
何に使うのか検討もつかなかったが頷いておいた。
出て行こうとしている啓介の腕を掴む。
「いつ……帰る?」
啓介が居なくなると分かった途端に急に心細くなってきて、必要以上に力を込めてしまった。
「直ぐに戻る。それにカイルが靴を鳴らしていただろ? あれは合図だ。薬は持ってきていると思うぞ。お前絡みの事でアイツはミスしない」
——何の為に嘘情報の合図?
扉がノックされ、啓介が対応している。その後でカイルがベッドに近づいて来た。
「兄貴、これ親父からっす」
恐らくそれが薬の入った袋だろう。手渡された物の中を確認すると、薬と水の入った未開封の瓶が数本入っていた。
「すんません。忘れてきちゃって。ちょっとこの人借りるっすね。薬取りに行ってきます!」
「分かった。気をつけてな……」
直ぐ出入り口に引き戻されていたが、そんな啓介の腕を掻い潜って足早に近付いてきたカイルに口付けられる。
「先に一つだけ。組長、記憶ありました」
「は?」
「おれらの事も始めっから分かってたみたいです」
「う、そ。マジで?」
「はいっす。おれもここ来る前に聞いて驚きました。つーか、ここに行けって家から追い出したのも親父っすよ」
発情期に入って情緒不安定になっているのか、胸がいっぱいになって涙が出て止まらなくなる。
「薬飲んで、安心して寝てて下さい。兄貴にそんな顔は似合わないっすよ」
微笑まれながら言われ、涙を拭われた。
『ほら、×××××。このまま安心して寝ていてください。目が覚めたらまた面白い事になっていますよ』
——え、あれ?
カイルの言葉に誰かの声が重なった。頭の中に直接響いた声が、遠い記憶を呼び起こすようだった。
——前にも誰かにこうして言われなかったか? いや、違う。これは俺の記憶じゃない。だとすれば誰のだ? レヴイ? いや、違う……。
心臓が煩わしいくらいに鳴り響いていた。嫌な胸騒ぎがする。
「兄貴? どうかしたんすか?」
「いや……悪い。何でもない」
怠慢な動作で首を振ってみせた。
「親父、個人的にやり取りしてる人がいるみたいで、近々ここで大きい事件が起こるって言ってました。その話は発情期抜けたらしましょ。とりあえずおれがこうして隠してるんでササっと薬飲んじゃって下さい」
言われた通りに袋の中から包紙を一つ出して、水で飲み下す。
何故啓介もカイルもこんなにコソコソとキアムに隠れて事を進めている? まるでキアムを信用していないといっているような態度だった。
——俺が部屋に篭っている間に何かあったのか?
「じゃあ、兄貴また夜に会いましょうね!」
部屋を出ていく直前にカイルが振り返って声を上げた。
「アンタまた来るんですか!」
「おれの勝手っす」
カイルのセリフにキアムが吠える。新型も旧型も似たような陽気キャラだけにテンションが同じだ。その事に少し笑えた。
「どうでも良いが行くぞ。キアム、シルバーを頼んだ」
呆れ口調の啓介が言った。
「任せてください」
「シルバー?」
「アニキたちのコードネームです。ブラックさんと、シルバーのアニキ」
「ブラックさん……患ってたんすね。分かります」
拳骨の落ちる音とカイルの痛がる声が響く。
——マジでうるさいな、あいつら……。
皆んなの声が遠ざかっていき、意識はそのまま夢の中に落ちていった。
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