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オメガバの番詐欺に遭った気分だ

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「なあ、啓介」
「どうした?」
「運命かどうかなんて俺には分からんし、お前の事もちゃんと好きになるかも俺には分からんけど、本当にそれで良いのか? お前もカイルもそんなに独占欲強くて妬きもち焼きだなんて俺はこの世界に来て初めて知った。あんなに一緒にいたのに初めて知るとか、正直悔しいんだわ」
 はにかむと啓介が唖然とした表情で見ていた。
「まあ、お互い牽制だけしてお前の前では態度に出さないようにしてたからな。俺たちが勝手に羽琉に惚れてるだけだから気にしなくていいと思うが? 寧ろそっちの方が都合良い。まあ、自分だけのものにしたい気持ちはあるけどな」
 ——なら、こんなのは駄目だろうが……。俺は多分カイルに同じように押し倒されても、もう抵抗出来る自信がない。
 ベッドに腰掛けた啓介に向けて静かに口を開く。
「そういうわけにはいかないだろ。多夫一妻制じゃあるまいし。俺は世間で言うとこの、恋愛感情が欠落しているアロマンティックだと思うぞ。お前は知ってると思うけど……。だからこそ自分に好意を向ける相手とは寝ないと決めてた。応えられないからな。でも、あんなにセックスしまくってたお前が俺の事を好きだと知って、どうしていいのか分からなくなった。お前とヤるのは嫌いじゃない。寧ろお前じゃないとセックスした気にならねーんだわ。日本に居た時、いくら女抱いてても足りなくて、お前に抱かれる為に部屋に押しかけてた。でもそこに感情は伴ってない。俺にあったのは肉欲だけだ」
 話終わると啓介からの口付けが降ってきた。それ以上何を言っていいのか分からなくて、啓介の首に腕を回す。
「くくくく。へぇ。俺にとってそれ以上に嬉しい情報はないんだが? それにお前のマイノリティは理解しているつもりだ。側に居てくれれば良い。俺はお前を確実に縛る為にこの世界へ連れてきた。発情期になれば分かると思うが、お前の体は俺無しではいられん。俺だけに向けてオメガのフェロモンを出して、俺に抱いて欲しくて、俺の子を孕みたくて堪らなくなるぞ。他を受け付けん体になっている。もしお前が仮にカイルを好きになったとしても、体だけは俺を求めるようになる。だからお前は自発的に俺の元に来るしかないという仕組みだ」
 当たり前のように言われ、短く息を吐いた。
「何だそれ。なんかオメガバースの番詐欺に遭った気分なんだが……」
 正にそうだ。運命だの花嫁だの言われて、シアン国の北側にあるユロス帝国と言われる龍人族のアジトに拉致られてるのだから。
 その上、啓介から尋常じゃない執着を向けられていて、把握した時にはもう退路は断たれていたとか笑えない。
 蜘蛛の巣にかかったように身動きが取れなくされている。
「実際そうだろうな。俺はお前を永遠に繋ぎ止める枷と鎖を持っていて機会を窺って行使した。羽琉、お前が嫌がっても俺はお前から離れんし離さん。もう目の前でお前が死ぬ所を見るのは嫌だ。俺がずっと側に居て守る」
「勝手にフラグを立てるな」
 額をペチリと叩いてやると啓介が笑った。
 ——んな恥ずい事、真顔で言うなよ……。
 調子が狂う。視線を泳がせて次の話題を探そうと思考を巡らせる。
「そうだ。気になったんだけど何でお前は俺を見て〝久しぶり〟て言ったんだ? 俺からすれば日本で死んでこの世界に来たのは数秒後だったんだけど?」
「いや、時としては三十年近く経っているぞ。ただ、何故かお前らの時間軸がズレていて転生体が成長した後の未来に記憶が戻るようになっていた。現にカイルの記憶が戻ったのも、羽琉お前が目を覚ましたのも最近だろ?」
「ああ」
 ——三十年。執着すげーな……正直舐めてたわ。というか、ここまで来ると執念だ。
 本当に逃げられる気がしない。降参さえしたくなる。
「ふーん……え? 三十年て事は、啓介お前もう還暦なんじゃ?」
 自分より誕生日の早い啓介は、日本にいた時点で三十歳になっていた。それから三十年と考えると……腹を抱えてケラケラ笑うと頭を叩かれた。
「その顔で還暦とかウケるっ。無駄にイケメンな還暦だなぁ。じいちゃん」
「龍人族は自身の成長を好きに止められるからな。元々人間の十倍は長く生きる種族だ。俺はお前と日本で別れた三十歳で止めている」
「成程な」
 納得する。
 三十歳でその性欲の強さはおかしくないか? とも思いはしたものの、己もそうだったわと遠い目をした。
 ポテンシャルの高さはいつになったら落ちるんだろう。
「後さ、さっきのキアムの写真見てどう思った?」
「写真からでは魂までは見れないから何とも言えん」
「魂? そういえばお前らは何で転生体だと分かるんだと思っていたんだが、その魂とやらで見てたのか?」
「ああ。お前の場合は俺と番という強い繋がりがあるから、転生さえすれば大体何処にいるとかも気配で分かる。隠しさえしなければ。まあ、見つけた時は少々面倒くさい事になってたがな。それを考えると、あの写真の男はこんな近距離にいたのにも関わらずに何も感じなかった。顔も体つきもお前なのにだ。記憶を持つお前の魂が入ってなかったからなのかは分からないが正直疑問が残る」
 ——写真を見た時に食いついて来なかった理由はそれか。
 なら、他人の空似だと考えた方が良さそうだ。胸のつかえが取れた気がした途端に眠気が襲ってきた。
 掛けられたブランケットに顔を埋める。
「おやすみ、羽琉」
「……や、すみ。此処にいろよ、お前」
「犯されたいならいいが?」
「お帰りはあっちだ」
 扉を指差すと啓介に笑われる。頭を撫でてくる掌の感触がやたら心地良かった。


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