極道の若頭だけどオメガバのある異世界に転生した上、駄犬と龍人族の王に求婚されている

riy

文字の大きさ
上 下
18 / 65

キアム

しおりを挟む


 どれだけ撒こうと先回りするという小賢しい真似を使って付いてくるので、諦めてキアムに街の案内をさせる事になった。
「アニキ! こっち! こっちですー!」
 市場価格より少し高めだが、ぼったくりまではいかない居酒屋やバー、土産屋、ラブホのような短時間休憩だけのホテルなどなど。
 現地民だけあって、キアムは色々な店の情報を知っているので案外使える。
「アニキ! ここの通りがトロニカ通りって言って、闇オークションで競り落とされた奴らが試しに売りに出されたりする店です。オークション自体はこの店の裏手の通りにあります。でも、そこの通りは特殊な能力を持った人だったり、危険な人たちで溢れかえってるので通らない方が良いです! 人の思考読む奴とかいるんで!」
「へえ。なら、ここじゃねーのか?」
「ここだろうな」
 最後に案内された建物を見上げて啓介に視線をやると、啓介も頷き返す。
 しかし、流れた月日を考えると別所に移されている可能性もあるから、情報収集のみになりそうだ。
 オークション自体もどんなものか覗いてみるのもいいか、と考える。
「サンキュ、キアム。助かった」
「どういたしまして! あ、でもここの店もオークションも招待制もしくは紹介制でその後審査通らなきゃ入れないので、一般参加は出来ませんよ」
 満面な笑顔が眩しい。カイルにもこんな時期があったなと遠い目をする。いつからか駄犬になっていた舎弟が懐かしい。
 ——審査まであるとか、ここのオークションも店もキナ臭すぎるな。よっぽど外部に漏らしたくない事をやってるのか。
 人の口に戸は建てられぬ。どんなに秘密にした所で外部には漏れるというのに。やはり何かがあると直感が告げている。
 キアムに向き直って、口を開いた。
「キアム。俺らヤバい案件追ってるからお前はもう付いてくるな。悪いな。守ってやれるほど余裕ねえんだ。これ持って家に帰れ。マジでありがとうな」
 財布を開いて、啓介に貰った札束の中からゴッソリ抜き取る。キアムの掌に握らせてやると酷く驚いた表情をされ、突き返される。
「こんな大金オレには不釣り合いですよ!」
「いいから持ってけ。もう引ったくりや泥棒はするなよ」
 その手を金ごとポケットに入れてやり、健全そうな街中へと送っていく。足が止まりそうになっているキアムの背中をトンッと押した。
「嫌です!」
「キアム」
「大丈夫ですよ。もしヤバくなったらオレは見捨てて行って下さい。オレ、どっちみちもう手遅れなんですよ。ちょっと事情があって、売れるだけの臓器も全て売ってるんで長生きしません。見てくださいこの発疹」
 無造作に服の裾を捲り、腹を見せられる。そこには赤い発疹が広がっていた。
「オレが死んだ所で喜ぶ人が居ても、悲しむ身内はいません。恋人もいないです。なので大丈夫です!」
 ハの字に眉を作ったキアムを見つめた。
 いつだってそうだ。当たり前のように与えられる環境で育てば、普通の人生を歩めたかも知れないのに〝普通〟を選択する事さえ出来ない人たちがいる。
 真面目で馬鹿正直な奴程、真っ先に搾取されて壊されていくのを嫌という程見てきた。
 極道をしている時点で己も壊す側の人間と一括りにされるんだろう。
 でも不知火会の組長はそんな事はしなかった。外で行き場のない人間を拾っては仕事を与えた。
「お前な……。あーーー、もう……くそ」
 ハア、と息を吐いて髪の毛をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。
「ちょっと来い」
「はい……。どうかしましたか?」
 裏路地に連れ込んで左右を確認した。それからキアムの腹に触れる。
 やがて手のひらから発光し始め、キアムの腹部、そして全身を光が覆っていって全身に回っていく。
「お人よし」
「しょうがねえだろ」
 微かに笑みを浮かべながら言った啓介を睨んだ。
「アニキ?」
「悪いとこも無くなったとこも全部治してやる。だから俺を信じてジッとしてろ」
 内臓が欠落している分、普通の怪我よりも時間がかかっているようだ。中々光が収まらない。
「え、はい……っす。う……、なんか腹ん中がモゴモゴ動いてて……っ、気持ち悪い、です」
「もう少しだ。我慢しろ」
 好転反応で吐き気が出てきたみたいだが、それもすぐに落ち着いてきたようだった。
 さっき転んだ所の怪我も全て治っていく。
 キアムは目を瞠ったまま微動だにしない。漸く光が収まった。
「え、え……嘘。本当に痛い所が全部消えました! 発疹も、痒みもなくなった!」
 懸命に自身の腹や腕を擦りながらキアムが呆然としていた。
「まさか……これ、さい、せい……?」
 答えはせずに曖昧に笑ってみせる。
「これで大丈夫だろ。売った内臓も戻ってると思うぞ。けど、もう売ったりするなよ。そこまでしなきゃ生きていけないなら、こんな物騒な街は出ろよ。家族ももういねえんだろ。んじゃ、またな。これで本当にさよならだ」
 ゆっくり瞬きしながら今の驚きと喜びを噛み締めているキアムを尻目に、啓介と共に闇オークションに向けて足早に進んでいった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...