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旅立ちの日

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「鍵は返さなくていい。出来れば無事でいてくれ。此処へは好きな時に帰ってこればいいから。その時はまた歓迎する。レヴイ、お前も息子だと思っている。体を壊さんようにな」
「ありがとうございます」
 不覚にも泣きそうになって頭を下げる。カイルの言った通り、記憶がなくても組長は組長だった。当たり前のように居場所をくれる。さりげない優しさがとても嬉しい。
 未だに睨み合いをしている啓介を引っ張って、カイルと距離を開けさせる。
「いい加減にしろ。ほら行くぞ啓介」
「兄貴」
 後ろから抱きしめられて、首だけ後ろに向けると口付けられた。
 ——しまった……油断していた。
 視界に入らなくても、啓介の不機嫌さが一気に増したのが、身に刺さるように感じ取れる。
 ——啓介ってもしかしてめちゃくちゃ独占欲激しくて妬きもち焼きなのか……?
 前世で日本に居た時との温度差が凄まじくてついていけない。逆に困惑してしまう。
「ちゃんと……戻ってきますよね?」
 眉尻を下げて困ったように笑ったカイルを見て、何故か胸が痛くなった。
 内側にいるレヴイの感情なのかもしれない。少なくとも己はそんな感情を持ち合わせていないからだ。
「思っていたより危険な所みたいだから何とも言えないけど、戻っては来たいとは思っている。大丈夫だ、カイル。心配するな」
 カイルの頭を撫でてやる。
「それも勿論の事っすけど、それ以上に、この人と二人っきりで行くってのが嫌っす」
 抱きしめられる腕に力を込められた。
「羽琉は初めっから俺のだ。後からしゃしゃり出てきたのはお前だろうが。今度は二度とやらん。帰還しても帰るところは俺の住む城だ。どっちみちベータのお前じゃ番えんだろ?」
 啓介がフンと鼻を鳴らす。
「アンタさあ! 転生とかじゃ無いだろ!? 何でそのまんまのアンタなのか分かんねえけど、マジで昔っからムカつくんだよ須藤さん。オメガバースの仕組み分かってて態と兄貴噛んでたろ!」
 どうして分かるのか聞きたいが、とてもそんな空気ではなくて断念する。首の後ろあたりがむず痒い。仕方ないと己に言い聞かせた。
「だからどうした? 何とでも言え。羽琉だけは譲らん。羽琉は俺が作ったたった一人の運命だ。今度は死なせない。俺の手で守る」
「くそがっ」
 また一触即発状態になってしまいウンザリした。
 ——俺のせいで争うな、とか死んでも言って堪るか。
 顔が引き攣る。何だよそのセリフ。自分で思っておきながら鳥肌が立った。
「てめえら、いい加減にしろ」
 それぞれの腹に容赦なく拳を叩き込んで、再度ルドに頭を下げるとその場を後にした。
「ったく、険悪すぎだろお前ら」
「互いに譲れんもんが同じだからな。仲良くしろと言うのが無理な話だ」
 何か言葉を発するのも嫌になって、無言で歩く。暫くの間道なりに進んでいくと、邪魔になりそうにない草原に出る。
「ここら辺なら大丈夫そうだな」
 足を止めた啓介が俯いたまま目を閉じた。体が発光し、輪郭がボヤけて見えなくなる。バサリと黒い羽が広がり、三メートルくらいの四足のドラゴンへと姿が変わった。
 爬虫類のような肌を想像していたのだが、その体は毛で覆われていて、触り心地も最高に良かった。
 頭を下げて促される。ドラゴン化した啓介の上にまたがった。
「うわ、マジでファンタジーのドラゴンだな!!」
 気分は爆上がりした。
 全身を覆っている毛は黒で、中にある産毛はチャコールグレーだった。この上で寝れそうだ。生きた羽毛布団みたいだった。
「落ちないように、ちゃんと鬣にでも掴まってろよ」
「分かった」
 宙に舞い上がり、羽が上下する度に高度を増して空を駆けていく。目を開けていられないくらいの風圧を受けるものの、上からの景色を楽しみたくて、レヴイは視線を下に向けた。
「さっきも思ったけど、緑が多いな。あ、海だ」
 海だけは同じだ。深い青色が島を包み込んでいる。
 時折、よく分からない大き過ぎる生き物が顔を出しているのが気になった。
「おい啓介……あの巨大な生き物たちは何だ?」
 何処からどう見ても、体長二十メートル以上はあるモササウルスとかメガロドンだ。
 体高だけで三メートル以上はある。
 無理だ。出会したら丸呑みにされる。いくら魔法があっても勝てる気がしない。
「日本でいうとこの古代生物だ。恐竜とかUMAとかという類の。あれより獰猛な海生爬虫類がいる。海にはあまり近付くなよ。食われるぞ」
 ——え、アレらより獰猛?
「へー……うん、近付かない」
 人智を越える生物と殺り合う気はない。
 ——レザイル国の海こわっ!!
「それもあってこの国では海で取れる食材は貴重でな。滅多にしか手に入らん」
 ゼロコンマで理解した。

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