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本体の在処
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——何処だ、ここ。
意識が浮上して目に止まったのは天蓋付きの大きなベッドの上だった。上半身を起こして、周りを見渡す。
この体が五体くらいは寝れそうな大きさがあった。なのに、部屋はちっとも狭く見えない。
—— 一体何畳あるんだここ。
ため息をつきたい程に広い部屋に居るのは間違いなかった。
「起きたのか?」
乳白湯色のカーテン越しに、誰かが歩いてくるのが分かり身構えると、カーテンが開かれる。
屈強な体がプレートアーマーのようなもので覆われ、長い黒髪が肩まで流れていた。
色黒で整った容姿はしているが、やはりどこからどう見ても見覚えがない。
「てめえ、何者だ? 俺をカイルのとこに戻せ」
怯まずに睨みつけると、男が表情を崩して笑んだ。
「断る。お前は俺の花嫁だと言っただろう? 拓馬には渡さない。絶対にだ」
「今……なんて言った?」
——拓馬? 拓馬って言ったのか?
「拓馬には渡さないと言った。にしても何で拓馬? 転生して何かあったのか?」
——転生の事まで知っている。本当に何者だ?
カイルは転生していてもその体の主が誰なのか見分ける能力みたいな物が備わっていたが、己にはない。
何かコツみたいな物があるのか、と思案しながら男を見つめたが、結局分からなかった。
「何でその体? 前の体の方が良かった。その小さな尻じゃ俺のは入ら……「言わせてたまるか!」……」
殴って無理やり黙らせた。
「成程。中身は変わらないな、羽琉」
笑いながら今度は己の名を呼ばれ、また動揺した。二人の名を知っているとなると、前世で一緒だった奴だからだ。
「お前、マジで誰……だ?」
「俺のこの世界での名前はストレイト・K・キンバリーだ」
名前にも声にも全く覚えがない。
「これなら分かるか?」
男の輪郭がボヤけて行き、やがて全く違う顔が現れる。それと同時に声も変わった。
「啓……介」
同じ組に属していてその前からも悪友だった男、須藤啓介だ。
「そうだ」
「Kて……まさかケースケのK?」
「正解だ」
手を伸ばされて頬を撫でられ、目を細める。
まさか啓介までこの国にいるとは思わなくて、暫くの間食い入るように見つめた。
「久しぶりだな、羽琉。ちゃんと転生出来ていたようで安心した。折角お前の体をこの世界に持ち帰ってきたのに、肉体情報が反映されてないのは惜しいけどな……。氷漬けにしたままにしてるのが悪かったか?」
うーん、と首を捻って考えている啓介は本当に記憶の中にいる啓介そのものだった。
「氷漬け?」
「ああ、そうだ。日本から持ち帰った」
『勝手に兄貴の体持ってったまま行方不明とか意味分かんねえっす』
——そういう事か。
カイルに言われた言葉を思い出して一人納得した。
「来い、見せてやる」
引き起こされたまま手を引かれて一緒に部屋を出る。壁には一面、岩面彫刻のような模様が描かれていた。赤い絨毯が敷き詰められている廊下をずっと歩いていけば、突き当たりに昇降機が見えた。
一緒に乗り込んで地下深くまで降りていき、また薄暗い廊下を歩いていく。
「ここだ」
鉄でできた重厚な扉を開けて中に入る。すると、大きな氷の塊が空中に浮いていて、中に人が立っているのが見えた。
衣服も何も身に纏っていないその体は紛れもなく己の体で、瞬きさえも惜しんでジッと見つめる。
「俺の死体を持ってった理由はまさかの観賞用か?」
嫌そうに顔を顰めてみせる。せめて下半身は隠してほしい。
——これに触れたら、俺の体復活したりしねえかな?
そんな考えが脳裏を掠めた。
「遺体だろうが何だろうが、お前の体も骨も誰にもやりたくはなかったからな。それと魂をこの国で転生させるという目的があった。何故俺が持って行ったと知っている? 拓馬に聞いたのか?」
「ああ。つか、何でお前までここにいるんだよ、啓介」
「居る、というより俺は元からこの世界の人間だ。日本へは異世界転移していたに過ぎない」
「は? 元々がこの世界の住人?」
転移してきていたというのにも驚きを隠せなくて、真一文字に唇を引き結ぶ。
それならこの世界に戻らずに十年以上は己と一緒にいた事になる。
それだけ啓介と一緒にいた期間は長い。
「時間の流れが日本とここじゃ違うからな。その当時龍人族は内戦が酷かったのもあって大臣どもに飛ばされたのが始まりだった。しかし今となってみれば感謝している。お前に会えたからな」
優しく頬を撫でられて、何処か居心地悪くて視線を逸らす。
しかし、知っている奴らがここまで揃いも揃って転生するものなのだろうか。しかも不知火会のメンバーだけだ。
作為的に操られているとしか思えない。
組長といい、他にも組の連中がいても何らおかしくない。そうなったら、日本で出来なかった分、異世界で不知火会を復活させても良いなと過去に思いを巡らせる。
時間の流れが違うと言っていたので、どれくらいの誤差が生じているのかは分からないが。
極道の時の記憶がないルドの事を考慮して、ルドの店を主に守る自警団とかで良い。
啓介は龍人族だから入るのは無理そうだな、と考えてカイルの言葉を思い出す。
『そりゃ、同じ匂いさせてる時多かったし、その度にうなじに噛み跡やらキスマついてたら嫌でも気がつくっすよ』
ぶり返してまたイラッとした。
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