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【番外編】ヤンデレ再び&皆んなクラーケンでタコパしようぜ⭐︎1

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「ゼリゼ、ごめん、オレが悪かったって! 本当にごめん。深く考えていなかったんだ。でもマジで治療以外の他意はないから、だから落ち着いてくれ!」
 ベッドの上で酷く焦った様子で訴えかける玲喜に向けて、ゼリゼは口元だけに笑みを浮かべてみせた。
 しかし、目だけは笑っていない。
 ゼリゼは部屋の椅子から立ち上がり、玲喜を見つめていた。
「俺は落ち着いているが?」
 玲喜の顔が引き攣る。
 ——ダメだ。怒ってる。
 いや、怒っているレベルではない。
 かつてのヤンデレモード突入レベル以上である。
 ゼリゼが口を開いたのと同時に耳馴染みのない呪文が紡がれる。発光した紫に象られ黒色の魔法壁が展開された。
 それは寝室いっぱいに広がり、やがて部屋の形に固定され、色合いは空に溶けていった。
 マーレゼレゴス帝国で暮らすようになって五年余り。今となっては玲喜も知らない呪文の方が少ない。
 それなのに知らないというのは、禁呪的な扱いになっている古いまじないの可能性が高かった。
 ただ眺めていた玲喜は思わず生唾を飲み込む。
 ——何だろう……物凄く嫌な予感がする。
「ゼ……、ゼリゼ?」
 若干声が裏返しになりそうになりながら、玲喜は尋ねた。
「どうした?」
 ゼリゼは依然と全っ然笑っていない笑みのままだ。
「今の呪文て、……何だ?」
「何だと思う?」
 間髪入れずに問いかけられ、ジリジリと間を詰められる。思わずベッドの上を移動してしまい、やがてベッドヘッドへと追い込まれた。
 広いベッドの上から逃げようとした所で腕を引かれて押し倒される。
 ゼリゼを見上げると、いつもみたいな甘ったるいキスじゃなく、全て貪るような深くて激しい口付けが降ってきた。
 歯に当たった唇からピリッとした痛みが走った。
「あ、んぅ、ゼ……ッリゼ」
「当分の間お前は此処から出さない。いや〝出れない〟」
 先程ゼリゼが張ったのは、玲喜本人を限定した防御壁だった。
 かつてセレナが玲喜を守る為に日本全域に張った防御壁の簡易縮小版だ。
 事実上の監禁状態にされた玲喜は、瞬きすらせずにゼリゼを見つめていた。
 レターナとレジェの件があり、皆には魔法力を制御する各装飾品はあっても、限定魔法は施されていない。
 双子の兄達を含めゼリゼもチート級の魔力を有していた。いくら玲喜でもそれを破るのは容易くなかった。
 ——やってしまった。
 衣服を乱していくゼリゼの手の動きを止める術もなく、玲喜はこうなる原因を思い浮かべていた。




 ここ数日、海を隔てた隣国で大ダコが出没し貿易船を沈めてしまうという事案が発生していた。
 船は安価で大量の物資を運べる。
 マーレゼレゴス帝国のように魔法を使えない国にとって、船が使えないのは死活問題だった。
 そこで白羽の矢が立ったのがマーレゼレゴス帝国だ。
 討伐要請に応え、すぐに討伐隊が編成された。
 ——何それ、楽しそう!
 大ダコは遠目から見ても分かるくらいの巨大さで、皇后の身でありながら玲喜は好奇心が勝り、編成された討伐隊に無断で加わった。
 あれだけ大きければ国の皆でタコ焼きパーティーが出来るかも知れない。
 危機感よりもタコの足を何本持ち帰ろうかとそればかりを思っていた。
 討伐隊と船には防御壁を張り巡らし、玲喜は転移魔法で問題の場所まで飛んでいく。
「うっわ、近くで見るとびっくりする程大きいな!」
 突如頭上から上がった声に討伐隊員全員驚いた。
「は!? 皇后さま!!??」
「ちょっとオレ行ってくる!」
「え、ちょ、皇后さまーーーー!!」
 焦る隊員たちをよそに、玲喜にかかれば巨大タコと言えど瞬殺だった。
 瞬く間にタコがスライスされていく。
「帰って国の皆んなでタコパしよう?」
 唖然とする討伐隊にニッコリと微笑む。玲喜はウハウハでタコの足五本をお持ち帰りにした。
「た、たこぱ???」
 全員の頭にクエスションマークが飛んだ。




「玲喜様、切り方はこんな感じで良かったですか?」
「うん、いいよー! あとはそこのボールに入ってる粉混ぜといてくれる?」
「畏まりました」
 料理人たちに指示を飛ばしながら、玲喜自身はたこ焼き機を作っていた。
 見様見真似で作ったので、日本で売られていたタコ焼き機よりは少し大きめになってしまったが。
「玲喜様、美味しそうな匂いがしますね」
 城下町の広場で始められたタコパは、色々な人たちに伝えられた。
 食材は十二分にある。
 玲喜はせっせとタコ焼きを作り始め、玲喜の作り方を見ていたアーミナも手伝い、あっという間に提供量が増えた。
 ゼリゼは微笑ましく見つめながら、少し離れた場所でキナリと遊んでいる。
 街の人たちは初めて見る食べ物に興味津々で、玲喜たちがタコ焼きを仕上げていくのを眺めながら順番待ちをしていた。
 ソースを作るのは難しかったので、ダシ醤油だ。
 出来立てのタコ焼きを食べて、熱さでハフハフと口を動かしながら皆喜びながら食している。
「クラーケンってこんな食べ方もあるんですね」
 タコ焼きを乗せた皿を持ち、ラルが口にした言葉に耳を傾ける。
「え、ク……クラーケン?」
 聞いた事あるような名前に、玲喜のコメカミから汗が伝い落ちた。
「闇世界の神ですよ。まさか食す日が来るとは思いもしませんでした。セレナ様の暗黒物質といい、さすがですね。驚きを隠せません」
 ラルの目が輝いている。
 ——神って食べても大丈夫だったのかな?
 普通の巨大タコだとばかり思っていた玲喜の顔が引き攣った。


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