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第四章、あたおか勇者ヤンデレ化するの巻
ヤンデレ爆誕
しおりを挟む獣のドラゴン化事件があり、家はめちゃくちゃになってしまった。
動物たちの檻も破壊されていて、皆既に逃げてしまっている。
血痕も何も見当たらなかった事から、怪我はしていなさそうで安心した。
カプリスが貯めていた食料も全て駄目になってしまっている。買い出しにでも行くか、と双子と一緒に人族に化けて四人で街にある市場に向かった。
「キュケー、キュケー!」
置いていかれると勘違いしたのか、獣が服にしがみついてきたので掴み上げて肩に乗せる。
「大人しくしてろよ」
「ウキュー」
こうしていれば可愛い以外の何者でもない。頭を撫でた。
「カプリスお前金持ってるのか? 俺は持っていないぞ」
「心配しなくても大丈夫ですよ。はい、これはアフェクシオンの分です。持っててください」
焦げ茶色をした革製の袋を手渡される。やけにずっしりしていたので中を開けると、金貨が八割で残りは銀貨と銅貨が入っており、半目になる。
——どこからか奪ってきた物じゃないだろうな?
今までの経緯があるだけに信用ならない。顔が引き攣る。
「ちゃんとギルドを通した討伐や依頼で稼いだのでれっきとした私のお金ですよ。討伐したついでに金目の物は売り捌いて金に変えましたが、所有者は討伐して居ないので私のものです! 全てが私のものです!」
あまりにも爽やかな笑顔で言われたので何も言えなくなった。
——人族たちよ……お前ら本当にこの男が勇者で良かったのか?
疑問でしかない。
考えるのも面倒になってきて、先を急ぐように先頭を歩く。街には多種多様な店があった。
カプリスが城から転移させた家具はダメになってしまったので、家に帰り次第双子が作る事になっている。これでも半分はドワーフだ。工芸技術や鍛治能力にも優れていた。
ダンジョンに居た時に己が腰掛けていた玉座を作ったのは双子だから腕の良さは知っている。
細かく手彫りで施された彫刻一つ一つまでもが実に見事で、あれ程質が良く座り心地の良い椅子はない。
「アフェクシオン様~! 見てください!」
双子の声に振り返ると、いつの間に移動したのか双子の手の中には獣が居た。
双子が獣の尻尾を引っ張る。すると、どんな原理なのか獣の口がカパリと大きく開き、そこからザラザラと小粒の金塊や黒曜石が溢れ落ちてきた。
「ウキュ~キュキュケ~……」
獣が涙目になっている。足早に近寄るなり双子の頭に拳骨を落とした。また獣を肩に乗せる。スリスリと頬擦りされたので、魔力を食わせてやった。
「こいつで遊ぶな。お前らはまだ反省していないのか」
「「ずびばぜんでじだ」」
双子が金塊と黒曜石を拾い集め、三分の二を袋に入れて手渡される。これだけあれば自分用に何か買えそうだ。
「アフェクシオンは何か欲しいものありますか? 一緒に暮らすようになってもうすぐ一ヶ月じゃないですか? 記念日として記念品を買いたいです」
——記念日……。
監禁されるようになった日を記念日と呼びたくはない。
この調子では毎月記念日が来て、半年後とか一年後後とかも別途お祝いされそうだ。
嬉々として話しているカプリスを見ていると、こちらは反比例して目が虚ろになってきた。身も心も寒い。カプリスからの愛が重くて堪らない。
「……考えておく」
「お揃いにしましょうね」
「断る」
こんなに毎日一緒にいるというのに小物まで一緒とか想像もしたくない。足早に進んで近くにあった店に入った。
「装飾品がたくさんありますね」
追いついてきたカプリスが物色し始めたのを狙って店を出るつもりで踵を返す。ふと視界の端に七色に輝く髪飾りがあるのが分かって手に取った。
——あの変態に似合いそうだな。
プレゼントする気はこれっぽっちもなかったが流れるように会計に並んだ。
「何か買ったんですか?」
「ああ」
「気になりますね」
「秘密だ」
包み紙が潰れるのも気にせず乱暴にズボンのポケットに押し込む。
「私はそっちの店を見に行ってきますね。食器も全滅してましたので」
「分かった」
食器やグラスを見始めたカプリスを尻目に店の外に出る。双子は食材の調達に一生懸命で、コチラには気が付いてもいない様子だった。
「いらっしゃいませ、休憩はいかがでしょうか?」
休憩専門の宿の前で若い女が呼び込みをしていた。金糸の髪色がどこかの誰かさんを彷彿とさせる。
——髪色だけカプリスと似ているな……。
似合うかどうか確かめる為に、袋から髪飾りを取り出した。
「おい、女。悪いが少し確認させてくれ」
「え? あ、はい。何でしょうか? ついでに寄っていきませんか? お兄さんなら大歓迎です」
——寄ってくって茶屋か?
頭の中は髪飾りの事で占めていて、よく見て確かめもしなかった。
「気が向いたらな」
ほんのりと頬を染めている女の金髪に髪飾りをつける。男性用なので女には大きめだが、虹色の髪飾りは金髪には良く映えた。見る角度によっても色彩が変わる。
「娼館は初めてですか?」
——娼館?
「いや……あーなるほど。悪い、そっち方面は間に合っているから遠慮しておく」
女につけた髪飾りに視線を向けた。
——色合い的にもこれでいいか。
一人満足していると、突然己と女の間を隔てるように剣が通り、店の壁に深々と突き刺さる。
「ひっ!」
「ウキュッ!」
女と獣が悲鳴を発した。
——は? 剣……?
見覚えのありすぎる剣に息を呑んで飛んできた方角を振り返る。
「カプ……リス」
不穏な空気どころではない。半径一メートル以内にいる通行人全てを巻き込んで、闇落ちさせてしまいそうなくらいには黒くて陰鬱な空気が漂っていた。
「まさか……一ヶ月程度で浮気されるとは思ってもみませんでしたよ」
目を細めて低く落とされた声が恐怖を煽る。ひりつくような棘を含んだ空気が漂っていて身を刺すようだった。
「待て、誤解だ」
「何が誤解なんですか? たった今そちらの女性に贈り物をして、誘いにも乗ろうとしていたじゃないですか……。私はこんなにも貴方を愛しているのに、貴方は私の目の前で堂々と娼館に入ろうとするんですね……ああ、ダメです。さすがに病みそう……」
——いや、もう病んでるぞお前。
建物を振り返って視線を上げると確かに宿に似た造りだった。
髪飾りに夢中で気にもしていなかった。女から髪飾りを回収してポケットにしまい直す。渡そうにも渡せなくなり、嘆息した。
——どうやって誤解を解こうか?
「アフェクシオン」
「悪かった。店に入ろうとしていたわけじゃない。そこの女がお前の髪色と似ていたから確かめたかっただけなんだ」
「何を確かめる必要があったんですか?」
声にハリが無い。今までと違い、怒っているというより底なしの虚無を抱えていそうだ。
——面倒くせえな……。
本音を飲み込んで、店に刺さったままのカプリスの剣を引き抜く。これはもう素直に話してしまった方が良さそうだ。
「金糸に似合う髪飾りかどうかを確かめたかったんだよ……。危ねえからコレはしまってろ」
剣を鞘に戻してカプリスの髪に髪飾りをさす。
「お前の髪色の方が映えるな」
「え、これ私に……ですか?」
「記念日なんだろ?」
直後に壁に押さえつけられ、公衆の面前で口付けられる。腕で押しのけて執拗に追ってくる唇から逃れた。
「おい、カプリス!」
「今すぐに腰が砕けるまで抱き潰したいです」
「は? ふざけんな。離れろ」
「アフェクシオン、愛してます」
肩口に額を預けられ囁かれる。
「はいはい。分かっている」
「ありがとうございます」
幸せそうに顔を蕩けさせ、カプリスが小さく笑った。
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