上 下
14 / 20
第三章、モフモフとよく死ぬ勇者とアフェクシオンの秘密

やはりチョロいな

しおりを挟む


 いくら待っても倒れたままなので、カプリスを浮遊魔法で浮かせて家の中に戻った。あの奇妙な生き物も一緒だ。
 カプリスは玄関先に放置して、調理場に向かうなり新しく増えた獣の餌を漁る。
 野菜、肉、魚、庭からむしってきた草や花など獣の前に差し出してみたがどれにも反応しない。
 たまに魔力のみを補給したがる珍しい品種もいる為、試しに魔力を込めた指先を口元に近づけてみた。
「キュー!」
 嬉しそうにペロペロと舐め始め、毛の中に隠れていた前足を二本とも出してアフェクシオンの指を掴み出す。
「私もアフェクシオンをペロペロしたいです」
「お前が言うと変態発言にしか聞こえないから辞めろ」
 いつ復活していつ背後に来たのかすら分からなかった。
 監禁されるようになってずっと考えていた事だが、脱走を図った時といい日中といい、最後の戦いの時にカプリスが全然本気じゃなかったのが分かりイラついた。
 それに部屋の中で軟禁状態なのもあって体が鈍っている。たまには外で暴れたい。
「お前、戦いの時本気を出していなかっただろう?」
 若干イラつきながら問いかけると、カプリスが困ったように眉尻を下げて笑った。
「いえ。それなりに本気でしたよ。ダンジョンの場合、全力で暴れるとダンジョン自体が崩壊してしまいますからね。だから加減をしていただけです」
 それなりにというのも腹が立つ。アフェクシオンからすれば、カプリスとの戦闘は最後の戦いとして満足のいくものだったし、本当に楽しかったからだ。
「ならコイツの食事が終わったら俺に付き合え。体が鈍って仕方ない」
「良いですよ」
 暫くすると満腹になったのか獣が寝出したのでそのまま寝かせて、カプリスと共に庭に出る。
 それぞれの家に結界を張って、魔力で練って物質化させた黒い長剣を出して構えた。
 同じ様に剣を構えたカプリスの懐に飛び込む。やはり手加減されている。舌打ちした後に、口を開いた。
「本気でやるなら一度くらいは口でしてやってもいいぞ」
「え」
 一瞬の隙をついてカプリスの握る長剣を弾き飛ばして、煽るように口を開けて口淫を連想させる動きを真似てみせる。カプリスがそれを食い入るように凝視していた。
「え、フェラ? アフェクシオンが私のをフェラチオ……推しが口淫ですと!!??」
 瞬間、カプリスの魔力が五倍に跳ね上がった。
 ——コイツ!!
 ダンジョンの時は加減どころじゃなかった。赤子の手を捻るような優しさだったに違いない。
 それどころか人族が有していい魔力量を遥かに凌駕している。
 ——コイツ本当に何なんだ!?
 思わず背後に飛んで距離を取った……筈が、吐息が届きそうなくらいの近距離にカプリスがいた。
 ——早いっ。
「アフェクシオン、約束ですよ?」
 胴体を真っ二つにされたイメージを与えられ、息を呑む。実際には何処も怪我をしていないしどうもなっていない。
 しかし、圧倒的な実力差故に魔力を浴びせられただけで、避けられない〝死〟のイメージをもたらされた。
 喉を嚥下させる。
「マジで……っ、ムカつく野郎だなてめえは!!」
 ここで引く程大人しい性格はしていない。巨人と子供ほどの実力差があるのは分かっていても心が躍って仕方なかった。
 跳躍してカプリスの首筋を狙い足を振り下ろす。
「さすが魔王ですね。好戦的な貴方も心から愛しています」
 当たる前に足ごと掴まれて空に放り投げられる。空中で体を回転させて攻撃態勢に入る前に背後から抱きしめられた。
「はい、チェックメイトです」
「クソッ」
 片手で顎を持ち上げられて剣の刃を軽く当てられている。
 負けたのは事実だが、不思議と悪い気はしなかった。これからの退屈凌ぎにちょうど良い。
 ゴツゴツの膝枕で頭をヨシヨシされる地獄に比べたらこっちの方が何万倍も良かった。
「アフェクシオン! アフェクシオン! 今日ですか? 今日口でしてくれるんですか!?」
「…………まあ……な」
 目が爛々に輝いているカプリスをジト目で見つめた。
「さあ行きましょう! 今すぐ寝室へ行きましょう!!」
「早ぇえだろ!」
「ダメです。待てません! テンション爆上がりしました!」
 ——余計な事をした……。
 引き摺られるように家の中に入ろうとすると、双子がパイを持って走って来るのが視界に入り込む。
「アフェクシオン様ー! 今日はレモンパイを焼いてみました!!」
「食う」
 心の中で「お前らでかした!」と褒め称える。それに双子の作る菓子は美味い。即答するとカプリスに不服そうにみつめられた。
「俺は菓子が食いたい。夜までコレで我慢しろ」
 浮遊魔法で浮いて触れるだけの口付けを落とすと、カプリスの体がバグってまた地に倒れていく。
 ——やはりチョロいなコイツ。
 カプリスの扱い方が少し分かってきた気がした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

童話パロディ集ー童話の中でもめちゃくちゃにされるって本当ですか?ー

山田ハメ太郎
BL
童話パロディのBLです。 一話完結型。 基本的にあほえろなので気軽な気持ちでどうぞ。

弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。 弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。 そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。 でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。 そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います! ・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね? 本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。 そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。 お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます! 2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。 2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・? 2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。 2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。

中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています

橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが…… 想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。 ※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。 更新は不定期です。

処理中です...