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第三章、モフモフとよく死ぬ勇者とアフェクシオンの秘密
やはりチョロいな
しおりを挟むいくら待っても倒れたままなので、カプリスを浮遊魔法で浮かせて家の中に戻った。あの奇妙な生き物も一緒だ。
カプリスは玄関先に放置して、調理場に向かうなり新しく増えた獣の餌を漁る。
野菜、肉、魚、庭からむしってきた草や花など獣の前に差し出してみたがどれにも反応しない。
たまに魔力のみを補給したがる珍しい品種もいる為、試しに魔力を込めた指先を口元に近づけてみた。
「キュー!」
嬉しそうにペロペロと舐め始め、毛の中に隠れていた前足を二本とも出してアフェクシオンの指を掴み出す。
「私もアフェクシオンをペロペロしたいです」
「お前が言うと変態発言にしか聞こえないから辞めろ」
いつ復活していつ背後に来たのかすら分からなかった。
監禁されるようになってずっと考えていた事だが、脱走を図った時といい日中といい、最後の戦いの時にカプリスが全然本気じゃなかったのが分かりイラついた。
それに部屋の中で軟禁状態なのもあって体が鈍っている。たまには外で暴れたい。
「お前、戦いの時本気を出していなかっただろう?」
若干イラつきながら問いかけると、カプリスが困ったように眉尻を下げて笑った。
「いえ。それなりに本気でしたよ。ダンジョンの場合、全力で暴れるとダンジョン自体が崩壊してしまいますからね。だから加減をしていただけです」
それなりにというのも腹が立つ。アフェクシオンからすれば、カプリスとの戦闘は最後の戦いとして満足のいくものだったし、本当に楽しかったからだ。
「ならコイツの食事が終わったら俺に付き合え。体が鈍って仕方ない」
「良いですよ」
暫くすると満腹になったのか獣が寝出したのでそのまま寝かせて、カプリスと共に庭に出る。
それぞれの家に結界を張って、魔力で練って物質化させた黒い長剣を出して構えた。
同じ様に剣を構えたカプリスの懐に飛び込む。やはり手加減されている。舌打ちした後に、口を開いた。
「本気でやるなら一度くらいは口でしてやってもいいぞ」
「え」
一瞬の隙をついてカプリスの握る長剣を弾き飛ばして、煽るように口を開けて口淫を連想させる動きを真似てみせる。カプリスがそれを食い入るように凝視していた。
「え、フェラ? アフェクシオンが私のをフェラチオ……推しが口淫ですと!!??」
瞬間、カプリスの魔力が五倍に跳ね上がった。
——コイツ!!
ダンジョンの時は加減どころじゃなかった。赤子の手を捻るような優しさだったに違いない。
それどころか人族が有していい魔力量を遥かに凌駕している。
——コイツ本当に何なんだ!?
思わず背後に飛んで距離を取った……筈が、吐息が届きそうなくらいの近距離にカプリスがいた。
——早いっ。
「アフェクシオン、約束ですよ?」
胴体を真っ二つにされたイメージを与えられ、息を呑む。実際には何処も怪我をしていないしどうもなっていない。
しかし、圧倒的な実力差故に魔力を浴びせられただけで、避けられない〝死〟のイメージをもたらされた。
喉を嚥下させる。
「マジで……っ、ムカつく野郎だなてめえは!!」
ここで引く程大人しい性格はしていない。巨人と子供ほどの実力差があるのは分かっていても心が躍って仕方なかった。
跳躍してカプリスの首筋を狙い足を振り下ろす。
「さすが魔王ですね。好戦的な貴方も心から愛しています」
当たる前に足ごと掴まれて空に放り投げられる。空中で体を回転させて攻撃態勢に入る前に背後から抱きしめられた。
「はい、チェックメイトです」
「クソッ」
片手で顎を持ち上げられて剣の刃を軽く当てられている。
負けたのは事実だが、不思議と悪い気はしなかった。これからの退屈凌ぎにちょうど良い。
ゴツゴツの膝枕で頭をヨシヨシされる地獄に比べたらこっちの方が何万倍も良かった。
「アフェクシオン! アフェクシオン! 今日ですか? 今日口でしてくれるんですか!?」
「…………まあ……な」
目が爛々に輝いているカプリスをジト目で見つめた。
「さあ行きましょう! 今すぐ寝室へ行きましょう!!」
「早ぇえだろ!」
「ダメです。待てません! テンション爆上がりしました!」
——余計な事をした……。
引き摺られるように家の中に入ろうとすると、双子がパイを持って走って来るのが視界に入り込む。
「アフェクシオン様ー! 今日はレモンパイを焼いてみました!!」
「食う」
心の中で「お前らでかした!」と褒め称える。それに双子の作る菓子は美味い。即答するとカプリスに不服そうにみつめられた。
「俺は菓子が食いたい。夜までコレで我慢しろ」
浮遊魔法で浮いて触れるだけの口付けを落とすと、カプリスの体がバグってまた地に倒れていく。
——やはりチョロいなコイツ。
カプリスの扱い方が少し分かってきた気がした。
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