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第二章、家の中に部下が閉じ込められていた件

勇者さまはご乱心中です……【第二章、了】

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「可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。推し尊い。最高。監禁したい。私とアフェクシオン以外みんな滅びてしまえばいい。どうしよう可愛い可愛い可愛い可愛い」
「……」
 本格的に頭がおかしくなったらしい。大木はそろそろへし折れそうだ。
 呪文のように何度も同じ事を言い続けるカプリスに掛ける言葉も失い、三人……否、二人は失神している。
 アフェクシオンは現実逃避するようにソッと視線を逸らした。
「アフェクシオン!」
 森中に聞こえそうな大声で呼ばれた為、思わず身を竦ませる。
「ど、どうした?」
 ——額から大量に血が出てるけど大丈夫か?
 これ以上頭がおかしくなったらもう手に負えない。
「もう一度小首を傾げながら私が好きだから結婚したいって言って下さい」
「そんな事は一言も言っていない。現実に帰ってこい」
 事実を歪曲しまくっているカプリスからまた視線を逸らした。
 ダメだ。相手にしてはいけない。こっちまで頭がおかしくなりそうだ。
「今すぐ帰って家を建てます! 婚姻届も取ってきます! 受理して貰えるように陛下を脅して法も変えさせます。転移するのでつかまってて下さい!!」
 ドン引く程にやる気満々だった。
「お……おう。悪いが俺の服か腹の下に腕を回してくれ」
「えっ、チラ見せですか?? それともモロ見せですか!? 私もラッキースケベに肖りたいです。からの、野外で即ハメからのガン掘り連チャンとか最高過ぎですよね?」
「黙れ変態。俺に同意を求めるな」
 失神している二人の首根っこを掴んだところで、カプリスがアフェクシオンを俵担ぎにする。そして転移魔法で家まで飛んだ。
 家に着いてからのカプリスの行動力は凄まじいものがあった。
 外観をデザインしたかと思えば内部の設計図まで作り出し、魔法で必要なレンガや木材を集めてあっという間に一軒家を作り上げたのだ。
 また外壁に沿ってあのアイビーとかという蔓性の植物があったので燃やす。
「ちょっとアフェクシオン! 私の変わらない愛を込めた結晶を燃やさないでください。生まれ変わってからの生もずっと一緒に居たいだけなのに、酷いです」
「お前との関係は今世だけでいい。いくら俺でも病むわ! 泣き真似やめろ。あざとい」
 カプリスが空中で指を動かすと、燃やした筈の植物が復活して、あっという間に家を覆った。
 もう一度燃やそうと拳に魔力を込めたところで、それにいち早く気が付いたカプリスに防御壁を張られてしまった。
 燃やせなくなったので、大きく舌打ちする。
 隣にある花壇にも黒バラとイカリソウが植えられていた。これも防御壁で保護されていて、二度目の舌打ちをする。
「アフェクシオンに免じて家は返してあげます。これからはコチラの家の掃除係とアフェクシオンのおやつ係としてよろしくお願いしますね。アフェクシオンのお世話は私の担当なので、もし奪ったら…………埋めますよ?」
 ——どこに?
「「は、はぃいいい!!」」
 輝かしいくらいの笑顔で言ったカプリスとは対照的に、双子はまた失神しそうな勢いで震え、上からも下からも大洪水になっている。
 ——どんなトラウマを植え付けられたんだ……。
 そこは敢えて触れなかった。
 カプリスの作った新居は、双子の家の前にある原っぱを挟んだ向こう側に位置している。しかも圧倒的にこちらの敷地面積の方が広い。
 造れるのなら初めっからやっていて欲しかった。
 恐らくは己に双子を見つけさせ、小間使いを兼ねた人質にする事も全てにおいて計算の内だったに違いない。
 時が来るまでキープと書かれていた魔道具が真実だと物語っている。頭の回る人格破綻者程厄介なものはない。
 ——性格悪過ぎだろうが。
 いくつも布石を置いて先手を読むカプリスに辟易とさせられる。諦めに似たため息が出た。
「中、入ってるわ」
「アフェクシオン待ってください!」
 直ぐにカプリスも追って来て、二人で寛ぎの間に向かった。
 何故か家具が揃っていて顔が引き攣る。
「この家具一式はどうした?」
「陛下が住んでいる城の空いていた部屋にあったものを直接ここに転送させました」
「返してこい!」
「部屋が空いているというだけで使いもしないのに置かれていた家具たちですよ? 使ってあげた方がいいでしょう? あと、私がやったという痕跡も全て消したので心配しなくても大丈夫です」
 ——そういう事じゃない!
 余裕で横になれるくらいに細長いソファーに転がると、カプリスが恒例の如く膝枕役をかって出た。
 ——俺はゴツゴツした膝枕は要らないんだが?
 頭を撫でてくる手付きがやたら優しくて、目を細める。
 この男の偏愛がほんのカケラでも他所に向いてくれるとちょうど良いのかも知れない。
 今は少し……いや、かなり重い。重過ぎて深海五千メートルくらいまでは沈んでしまいそうだ。
 顔を少しだけ傾け、視線だけでカプリスを追うと、幸せで蕩けたといったような笑みを浮かべられた。
 ——俺の何がそんなに良いんだ……。
 助けられた時に憧れを持ったとかならばまだ話は分かる。
 しかし、カプリスはそうじゃない。一度しか会っていないのに、こんなに偏愛を向けられるものなのか? まだ何か裏があるとしか思えなくて、ため息しか出ない。
 カプリスの思考回路は単純そうに見えてそうじゃない。つまり読めない。
「アフェクシオンは考え事が多いですね。もっと貪欲に何かを強請ってくれても良いですよ? 愛人を作れとか、セックスの回数を減らせとか、逃げたいとか、別れたいとか、そういう話じゃなかったら何でも叶えます」
 ——今望みを全て却下されたが?
 他に望みなどない。返答せずにいると、髪の毛を一房持ち上げられて口付けられた。
 そんな顔をされると何を言及しようとしていたのかも、どうでも良くなってしまう。
「カプリス、腹が減った」
「下の口に直接あげましょうか?」
 ゲンナリとした顔で見上げる。
 ギラついた瞳をしたカプリスに真剣な表情でガン見されてしまった。
 ——本当に喰われる。
 本能で悟ってしまい、即行で視線を逸らした。
「お前の性欲は人族の領域じゃないだろ。それにその特徴的な瞳。カプリス、お前は一体何者だ?」
「………………そろそろ夕食にしましょうか」
 またあからさまに話を逸らしたカプリスに向けて「おい」と声を掛ける。
 調理場へと向かって足早に歩き出したカプリスが振り返って、フワリと笑んだ。
「時が来ればちゃんとお話ししますよ」
 ——出た……。また〝時が来れば〟かよ。
 瓶に書かれていた文字と同じだ。謎は深まっただけで、何も解決はしなかった。


【第二章・了】


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