女A(モブ)として転生したら、隠れキャラルートが開いてしまいました

瀬川秘奈

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【6話】予想外の出会い/その3

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 砂煙が立ち上る、変わり果ててしまった私の職場。一歩遠ざかって行く、私の目を手に入れる道。

 シナリオと違うのはゲームでは店と共に吹っ飛ばされた(と思われる)店主さんを、間一髪のところでヴァルデが救出していたから、被害が店のみに抑えられていたところだけ。

 あの短時間でどうやって移動したのかは分からないけれど、ちょっと離れた所にヴァルデが店主さんを連れて避難していたのを見て胸を撫で下ろした。
 
 流石、ヴァルデ出来る子だ。

 それに比べてこの王子様は、

「とりあえず使用人になる?それとも他にやりたい事あるかな?なるべくナイの希望に沿うようにしてあげる。あ、でも王宮内限定にしてね」

 ウキウキしながら、私の新しい職を勝手に決めようとしているから力が抜ける。

「(王宮内でやりたいこと?今すぐあなたを殴りたい。強制スキップ機能で最終ルートまで行って、さっさとあなたを消し去りたい!)」

 天使なのは見た目だけで、中身は噂通り。いやそれ以上に悪魔じゃないか。
 実物を目にすると、すごくすごぉーくよく分かった。

 この人封印してでも大人しくさせておかなきゃ、やばい人だったんだ、と。

 私にそんな事を思われているだなんて、思ってやいないだろう王子様は(もしかしたら察しているのかもしれないけれど)、

「ナイはいくつ?」

 なんて質問をしてきて、更に力が抜けた。

「⋯⋯⋯⋯12」

 そうだよ、私仕事できる子(自画自賛)だったからつい忘れがちだけれど、まだ12歳なのよ身体の年齢は。

「一般的な社交界デビューって16歳だよねぇ」

 レイは、何かを考えるように「んー」と言う。

 んなこと知るか馬鹿。日本生まれ日本育ちの生粋の日本人は、社交界デビューなんて催し一生経験しないんです。
 異世界転生したけれどモブだし、私ご覧の通りの平民だもん。たったいま、無職の平民に戻りましたけれどね。この目の前の男のせいで!

 貴族じゃないので関係ないけれど、年齢的には社交界デビューはまだしないらしい4歳下のお子様相手に、ここまでするって特殊性癖の持ち主なのだろうか。レイにそんな設定あったっけ?

 私の中で、レイ=ロリコン疑惑が浮上した。

 うんそうだよ。変わった性癖でも持っていなければ、ただのモブに主要キャラが絡んできたりもしないだろうし。
 ロリコンじゃなくても、この人もしかしてブス専ならぬモブ専とかなのではないだろうか?

 頭の中がぐるぐるする。

「いっその事、どこかの貴族の養子にでもなっちゃおうか?それで、王宮に修行に来てる体にしてさ」

 嬉しそうに提案されるけれど、丁重にお断りします。断固拒否、だが断る。嫌です絶対に。

 私はね、地位が欲しいんじゃなくて目が欲しいの!目!
 地位より何より、まず先に目が欲しいの!
 なんかを施してくださるおつもりならば、目をくださいよ目を。

 と嘆いたところで、そもそも目を手に入れる方法は、今のところ"シナリオに組み込まれている"事しか分からないから、具体的な案は出せなかった。

 変な奴には絡まれるし、って言うかその変な奴に職場潰されちゃったし。

 なーんで、この人がツェルに封印されるよりも前に私を転生させたんだ神様⋯⋯。

 気分は最悪以外の何ものでもないけれど、

「⋯⋯王宮に行けばいいの?」

 ほとんど外れていた接客モードの仮面を脱ぎ払い、敬いも尊敬も一切ない話し方に変えて話し掛けた。

 ちょっと良い事思い付いたから。

「うん!来てくれるよね」
「はぁ⋯⋯一旦荷物纏めて来ていいかな。ちゃんと戻って来るから、その後どうするかゆっくり決めたい」

 敬語からタメ口に変わっても態度が明らかに急変しても、全く動じない王子様は、

「えー」

 ただ私が家に帰ると言っただけで、めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
 絶対逃げると思われている顔だよねこれ。
 そう言うところは勘がいいのね。

「ほら、一応私女の子だから。必要なもの色々あるの」

「いいから黙って行かせてよ」って、無言の圧力をオブラートに包みまくりながら掛け続けていれば、

「うーん⋯⋯⋯⋯分かった」

 不服そうな言い方をされたけれど、OKを貰えたのだ。

 さて私はこれ幸いと、レイの気が変わって着の身着のまま連れて行かれる前に、急いで住み着いていたお家に向かう。

 うん、勿論逃げませんよ。ちゃんと戻りますよ。



 ただし、この姿でとは言っていない。



 ひょっとしたら悪役よりも悪役みたいな笑いを浮かべた私は、レイ達の姿が完全に見えなくなった所で、周りをよく確認してからステータスを開いた。

ーーーー

【名前】ナイ/女A
【年齢】12
【職業】パン屋の店員▼
【■■■】
■■■■■■
■■■■■■

【好感度パラメーター】

■■■■■■
■■■/■■■

・ヴァルデ・ベルク▼
 000/100

■■■■■■
■■■/■■■

■■■■■■
■■■/■■■

・アシュレイ・スティロアビーユ▼
 025/100 ⤴︎︎︎⤴︎︎⤴︎︎︎

【■■】
■■■■■■
■■■■■■

ーーーー


 おーい、なんか新しい項目増えてるよー。
 あからさまに、■が減ってるよー。

 なんだか知らない間にちょっと進化?していたようで、新たな項目をGETしていたから思わぬ収穫だった。

 新しく見えるようになったのは【好感度パラメーター】。
 恐らくレイとヴァルデの欄は開いているのに、まだ遭遇していない人の欄は開いていないところから見て、主要キャラと接触する事が、この機能の解放条件だったのだろう。

「(やっぱりあるんだ好感度とか。暗黙の了解で、好感度パラメーターは見えませんよーとかならないんだ。しっかり数値化されちゃうんだ)」

 せっかく転生したのに、尽く仕様がゲームに忠実過ぎてなんだか泣けてきた。

「(乙女ゲームに転生って、もっとドキドキするものじゃなかったの?モブだから?私がモブだからこうなっちゃったのかなぁ)」

 夢にまで描いていた転生が理想の転生ではなさ過ぎて、世の中上手くいかないなぁって思うとは流石に想像も出来なかった。

 ちゃっかり【アシュレイ・スティロアビーユ】欄の、好感度が上がっているのも気になるし。

 さっきのやり取りでいつ上がったんだろうか。

「(初対面から25も上がるって、なかなか凄いよ。私なんかむしろ、好感度マイナスになるような事しかやられていないんだけれど⋯⋯。私の心象は反映されないのかい!)」

 まぁ好感度パラメーターは見えるけれど、好感度が上がった時に出る薔薇が浮いたり、シャラランラランって感じの謎のエフェクト音が流れたりする、分かりやすい好感度上昇演出までは無いようだ。

「(どうせならそこまでやっておこうよ。そっちの方がまだ、徹底してるから割り切れたのに⋯⋯)」

 と、誰に言うでもなくため息を吐く。

 あとね決して、決して見ないフリをした訳じゃないのだ。ちゃんと見えてはいるの。

 名前欄に君臨した"ナイ"の2文字も、ちゃんとがっつり見えているのだ。

 その上で訴えたい事は、

「ほぉーらぁー!やっぱり固定名"ナイ"になっちゃったじゃん!!」

 主要キャラクターパワー恐るべし。

 いやでももしかしたら、"ナイ"の横で未だしつこく滞在し続けている"女A"のお陰で、まだ"ナイ(仮)"かもしれないから。希望は強く持とうと思う。

 悲しくなりながらも、職業のところに目線をやった。心無しか前回より、ほんの少しだけ持続性が伸びた気もする。

 じっと見つめれば、開かれる詳細ウィンドウ。

ーーーー

【職業】パン屋の店員▲
               
【所持職業】
・国民
 ∟この職業に変更可能です。
  [変更する/変更しない]

・パン屋の店員
 ∟現在この職業に設定中です。
 ※この職業は他の職業に転職すると使えなくなります。


ーーーー

 いま"自動お着替え機能"を使うと、パン屋の店員は使えなくなるらしい。お店なくなっちゃったし、当たり前と言えば当たり前なんだけれども。

 ちょっと黄色いエプロンを気に入っていた手前、やっぱり、

「あの自己中王子、必ず仕返ししてやる。覚えてろよ」

 せっかく自力で見付けた職場を潰された恨みは深かった。

 簡単にステータス確認を終わらせた私は、それからすぅっと深呼吸をして、もう1度ステータス画面"国民"を見た。

 さようならパン屋の店員。

 短い間だけど楽しかったよ。全てにおいて同じモブしか来ないから、同じ会話しかしていないけれどね。

 私のパン屋ライフは、あの店でチャチャパン以外のパンの名前を覚えないまま終了する。そしてこの先も、唯一覚えたチャチャパンが役に立つ日は無いのだろう。

 さようならチャチャパン。

 君しか売れないお陰で、私は毎日違う種類のパンを食べられたよありがとう。

 そうして、ちょっと眩しい程度の淡い光が私を包み込んだ後に、再び目を開ければ、私はまた女Aの姿に戻っていた。

 と言っても作戦と言う名のただの賭けは、これからが本番なのだ。

 ぐっと足元に力を入れて、私は元来た道を引き返すのだった。
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