執事が〇〇だなんて聞いてない!

一花八華

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降り注ぐキス

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 ちゅっ。ちゅっ。小さなリップ音が、薄紫色に統一された部屋いっぱいに拡がる。頭に、頬に、首筋に、手に……たくさんのキスを落とされ、目眩がする。
 ふかふかと柔らかなベッドの上。白いシーツに身を沈める私。その上にはクラウスがいて、私はされるがままになっている。……ああ、これってこの状態って……前にもあったわ。一ヶ月前、夜這いが失敗し、クラウスに【お仕置き】をされた日。

 でも、あの時は耳をパクってされただけで……こんなに激しくなかった……

「く……クラウス? なっ……ナニをしてるの!?」
「何って、口付けですが」

 そんな事わかってるわよ!しれっと返さないで!何故キスこんな事してるのかを聞きたいのよ!

「そ……そんなにたくさんしないで!」
「……何を?」
「きっ……ききす」

 羞恥を抑え、もごもごと伝える。ああ、本当に無理。クラウスの唇が触れた場所が、擽ったくてもぞもぞする。なんでこんな事になってるの!?

 顔を真っ赤にしながら身を捩る私を見て、クラウスは動きを止めた。

「ああ、すみません。痛かったですよね。カサついて罅割れた俺の唇で、危うく貴女の美しい肌を傷つける所だった」

 親指の腹で、自身の唇を拭いながらそう呟く。ちがっ……そういう理由じゃない!私が言いたいのはそんな事じゃない!ーって

「ひゃん!」

 ぬるっとした感触が、肌を這う。「ぴちゃ」っと響く水音。

「く……クラウス!? なに! うそ! やっ。んんっ。ねぇ、貴方、ナニを……んんっ、指、指を舐めないで」
「……無理を言わないで下さい。貴女の肌を傷付けない為には、コレでするしかないでしょう?」

 そう言って、私の指一本一本にゆっくりと舌を這わせていくクラウス。ううっどうして?すごくドキドキする。形良いクラウスの口元から、ちろちろと覗く赤い舌が扇情的で……

「クラウス。だめ、舐めるの……変な気分に……なっちゃう……やめって……」

 はぁっ。と漏れでる吐息と言葉。どうしよう。なんだかこのまま流されてしまいそう。近くで感じるクラウスの温もり、吐息、感触。もっと触れて、交わって、感じたいという欲求が沸き起こる。

「やめる? やめませんよ。言ったじゃないですか。これはお仕置きだと」

 指を舐め、鎖骨を撫で、首元に舌を這わすクラウス。その声と舌遣いに、身体がゾクゾクと痺れる。

「ああ、貴女の身体は甘く罪深い。セリーナ……このまま貴女のすべてを食べてしまいたい」

 首筋を舐め上げられ、声が漏れそうになる。嫌だと言葉にするものの、身体に力は入らず、むしろ身体はその先を期待して熱を持つ。

「んん。だめ……こんな事……だめなのよ」

 なけなしの理性を掻き集め、必死に抗うのに……

「何故? 恋人同士でしょう?」

 耳元で、銀髪の悪魔がそう甘く囁く。恋人なら、いいじゃないか……と。

「ねぇ? 約束しましたよね? 俺が貴女の執事を辞め……戻ってきたら、恋人にしてくれるって。俺は戻ってきましたよ? 想いが通じ合い……恋人だと思っているのは……俺の方だけ? セリーナは、俺の事が嫌い?」

 少し拗ねたような表情かおを浮かべ、私の顔を覗き込んでくるクラウス……。ちょっと待って、貴方、そんな顔もするの!?破壊力半端ないんだけど!!私の心臓を止める気!?

「きっ……嫌いじゃないわ」
「……」

 平静を装いながら、なんとか答えるものの、クラウスはまだ拗ねた顔をこちらに向ける。
 
「す……好きよ! 大好き! ずっとずっと想っていた貴方とこっ恋人になれて嬉しくて……私、死んでしまいそうよ!」

 だから、もう本当に勘弁して!っと叫ぼうとしたら

「んんむむっ!」

 唇を塞がれた。

「んんっ! んっ! んっ!」

 クラーウス!なっナニをぉおお!?
 混乱する間に、クラウス(の舌)は侵入し私の(口の)中を掻き回していく。

「んっ……んあっ……はぁ」

 ちゅ。ちゅばっ。ぴちゃ。静まり返ったそこに、絡み合う舌の音が生々しく響き、私の頭に薄い膜を張っていく。ぼんやりと思考が停止していく。うわっ……だめだ。これ、気持ちいい。
 クラウスの長い舌が、歯をなぞり、擽り、私の舌を絡め取っていく。絡み合い、混ざり合って、口の端から零れる唾液。

 キスをしているだけなのに、なんでこんなに気持ちいいの?

 ─下半身が疼く。頭もまわらない。

「く……くら……うすぅ」

 息が上手くできない。はふはふと大きく呼吸する。気持ちい。好き。もっと。触れて。触れたい。もっと。
 クラウスの名前を呼ぶ。ピクリと固まり、唇が離れる。二人の間を糸がつうっと引く。ああ……もう……やめちゃうの?

「もっと……」

 キス……したかったなぁ……。そう思って見上げると、クラウスの瞳とかち合った。


 ギラギラと情欲の色を宿す、翡翠の瞳……。

 ああ、コレが欲しい。
 私は、コレがずっと欲しかった。

 だから、強請った。

「クラウス……貴方を……私に……ちょうだい?」

 
 それが、一線だと気付かずに、私はクラウスにそう強請ってしまった。


「……セリーナ」

 少しの静寂。その後に大きな溜息が零れる。

「……貴女ってひとは本当に……」

 恨み言を吐き出すように、クラウスが呟いた。私の肩に手をあて、がっくりと頭を垂れる。

「……どう……したの? くらうす?」

 急にどうしてしまったんだろう……私……何かいけない事でも言ってしまった?

「危うく……このまま抱いてしまう所でした……」

 ぐっ……と唇を噛み締め、悲痛の顔を浮かべるクラウス。

「え? だめ……なの?」

 恋人同士だし……私は、明日(あ、もう今日か)の卒業パーティで、リチャード王子に求婚されるらしいから(お義兄様情報)……ここでクラウスに抱いてもらえると嬉しいのだけど。

「私の初めて……いや?」 

 クラウスは、嫌だったのかしら……あっやっぱり嫌よね。自分から強請るようなふしだらな女だなんて。あー本当に私ったら……

「ごめんなさい……嫌よね。自分からこんな風に強請ったり、そもそも夜這いするような女なんて……」

 恥ずかしくて死にそうだわ。もう嫌、穴があるならこのまま入りたい。いえ!修道院にでも入って、神にすべてを捧げるわ!
 一生処女を貫くわ!っと決意を固めようとしたら、クラウスが片手で顔を覆いながら、しどろもどろと口を開いた。

「嫌……そうではなくてですね。セリーナ……貴女を妻にするには、結婚まで……手を出してはいけなくて……」
「え?」
「兄……あぁ、俺の兄と貴女の父君に婚約の許可はいただいたのですが、その……ここで手をだしてしまうと、色々と不味いので……非常に……遺憾なのですが、これ以上はできないのです」


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