執事が〇〇だなんて聞いてない!

一花八華

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メリーバットエンドは突然に

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「お義兄様……お戯れが過ぎますわ。そのようなご冗談を……」

 お義兄様の強い眼差しに怯み、おほほほと曖昧な笑みを浮かべ後退する。どうなされたのかしら、お義兄様……ご乱心?たまに言葉を交わそうとしても、「ああ」とか「そうだな」とか会話という会話もしてこなかったのに、いきなりこんなに話をするなんておかしい。
 大体、好かれているような素振りミジンコも無かったじゃない。はっ!わかったわ……これ、嫌がらせね!私がお義兄様を苦手としている事を知っていて、生涯を懸けて嫌がらせをなさるおつもりなんだわ!

 ヒロインと結ばれないから、その鬱憤を私で晴らす気なのね。流石、鬼畜外道。やる事が常軌を逸してる。

「お義兄様……婚約とは生涯を誓う仲になるのですよ? 一時の気の迷いで私を選ぶなんて……お義兄様らしくありませんわ」

 呂辱監禁廃人エンドなんて、断固拒否よ!顔がいくら良くても、ソレは犯罪。イケメンならなんでも許される。と思ったら大間違いなんだから!

「気の迷いなんかではない」

 私の反論に、お義兄様は顔を顰め低く唸る。フワッ!怖い!ダメよセリーナ、ここで怯えてわ。毅然とした態度で拒否しないと!
 そう思うものの、染み付いた恐怖心はそう簡単に誤魔化されてはくれず、カタカタと身体が小さく震えてしまう。ああ、逃げたい!逃げ出したい!

「セリーナ」
「はヒッ!」

 ずるずると後ずさりする私。その距離を問答無用で詰めるお義兄様。

「逃げないでくれ。俺は本気なんだ」
「ひャあっ!」

 気付けば、私の背中は壁にペタリと張り付きこれ以上後退する事ができない。震える私の両側を、お義兄様の手が囲み逃げ場を塞いだ。
 ああ、私、コレ・・知ッテル。壁ドンって奴だ。確か、レイズお義兄様ルートででるスチル。この時のヒロインの好感度と受け答えで、ハッピーエンドかメリーバッドエンドか決まるのよねー。ほほほほほ。  

 えっ?ちょっと待って。なにそのハッピーとかメリーバッドとか……私関係なくない?でも、このシュチュエーションはイベント以外ありえなくて……まさかお義兄様の本命って私?ヒロイン、ハーレムエンドを狙ってたのじゃなかったの?ほら、ヒロインが王子の側妃になって、みんなでヒロインを愛するビッち……ビックリエンドの……

「セリーナ……初めてお前に出会った時、不安気な顔で俺を見つめるお前に恋をした」

 死んだ魚の目で放心していると、お義兄様が追い討ちをかけてきた。やめて、私のライフはゼロよ!?ソレ、貴方に会った瞬間、君に雪ぐ初恋乙女ゲームの知識が流れ込んできて、お義兄様鬼畜に怯え震えてただけなのよ!?

「怯え震え不安気な目で俺を見つめるお前に、心が震えたんだ」

 ソレ恋じゃない。鬼畜が獲物見つけて歓喜しただけだから!この根っからのサディスト!嗜虐主義!変態!そんなうっとりとした顔でこっち見ないで!!

「あぁ、可愛いセリーナ。俺がお前を護るから……俺の手をとってくれ。大切にする。誰にも傷付けさせない。この家でお前を護るから……」

 ヒィ!この家から出さない!傷付けていいのは自分だけだって!?これ、束縛監禁宣言よね!?選択肢がメリーバッドエンドしか見つからないんですけどぉお!?

「セリーナ。好きだ。今までは、裏からお前を護る事しかできなかったが……クラウスも居なくなった今……俺がお前の隣りで護ってやる」
「……や……それは……いや」

 お義兄様の口から出たクラウス名前。それを耳にし、思わず拒絶してしまった。

「それは……嫌。嫌なの」

 頭の中で、警鐘が鳴る。ソレ・・を言ってはイケナイ。言ってはダメだと……。でも……

「私の隣りは、クラウスよ。クラウスが隣りじゃないとダメなの! 護られるならクラウスの腕の中がいい!」

 沸き立つ感情のまま、お義兄様に向かって叫ぶ。嫌、クラウス以外は嫌! どんなにイケメンで、例えこの世界の攻略対象ヒーローなのだとしても私は何の魅力も感じない。私が好きなのはクラウスだから。

「セリーナ……お前……クラウスが好きだったのか」

 お義兄様の声にはっと口を噤む。慌てて抑えた手を、荒々しく掴まれた。

「お前、俺の事が好きだったんじゃなかったのか!?」
「きゃっ! やめて! お義兄様!」

 掴まれた腕が痛い。

「答えてくれ! セリーナ!」 
「嫌、やめて! 何の事!?」

 お義兄様が怖い。何故そんなに怒っているの!?私がお義兄様を好き?
 
「何故、私がお義兄様を好きだと?」
「トムが言っていた。お前が俺の事を深く思っていると! 道ならぬ恋に悩み苦しんでいる。そうトムに相談したんだろ?」
「え?」
「お前からの視線には気付いていた。いつも俺の事を目で追っていたじゃないか。視線を合わせると恥ずかしそうに逸らして……」
「ええ?」 
「全部、嘘なのか? 思わせぶりな態度も全部……」  
「えええ?」
  
 ちょっと待って、思わせぶりって何?目で追ってたのは機嫌を損ねないよう注意してたからだし、逸らしたのは怖かったから。道ならぬ恋は、執事と主というクラウスとの主従関係の事で……。

「あ────!!」

 そういう事!そういう事だったのね!トムがお義兄様の部屋の合鍵を作ったのも、お義兄様が暴走しているのも、全部私の曖昧な言葉と態度が、周りを勘違いさせたから!


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