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第1章

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ーカチャ。

鏡の前に立ち、今着た服を見る。

「どう?着れた?」

試着室の向こうから、セシル君が声をかけてくる。

「うん。」
「あけるよ?」

ーシャッ

カーテンが開けられ、セシル君と目があう。

「ーどうかな?」

えへへ。っと笑う私。一瞬目を丸くしたかと思うと呆れた顔でため息を吐くセシル君。

「ミコト・・・・なんでその格好なの。」

「いや。だって旅の格好って、動きやすい方がいいでしょ?」

ほら見て。こことかさ、ストレッチが効いてて動きやすいんだよ?それに、これ肌触りもいいし汗も吸ってくれやすい生地!この色なら、汚れもあまり目立たないし・・・・・・。

「動きやすいからって、男装するとか・・・・馬鹿なの?」
「っう。バカバカ言わないでよ。酷い。ちゃんと考えてコレにしたのに。」
「・・・・・・ミコトが呆れるような事ばかりするからでしょ?もー、なんで僕が渡した服は着てないわけ?」
「いや、だってあれスカートだし、ヒラヒラしてるし、フワフワしてて可愛い感じで・・・・私には似合わないし・・・・むしろセシル君の方が・・」
「僕の方が・・・・・・ナニ?」
「いえ・・・・ナンデモナイデス。」

 男装なのは、アレだよ。その方が旅がしやすいかなって思ったからだよ。髪の毛だって結んでおきたいし、ズボンの方が歩きやすいし。こっちの世界じゃ、女の人がこういったズボンを履く事ってないみたい。履いたとしてもキュロットみたいな、スカートと変わらないデザインの奴。すごく勿体無いなー。ズボンなら、転けてもパンツ見えないし、激しい動きしても足が見えたりしないのに。

 セシル君は、足を見せるな!みっともない!ってよく小言を言ってくる。みっともないって何気に酷いよね?

「ー着て欲しかったのにな。」
「ヴォルフが選んだ服は、着たんでしょ?」  

唇を尖らせ、拗ねたように呟くセシル君。

「僕の選んだ服は・・・・着てくれないの?」 
  
そんなに嫌?っと見つめられ、思わず首を横に振ってしまう。

「嫌とか、そんなんじゃないよ!ただ、旅の事を思って・・・・コレにしただけで、別にセシル君の選んでくれた服が嫌なわけじゃ!」
「なら、着てくれる?」
「うん。着る。着るよ。」
「今?」
「うん。試着するから待ってて!」

慌ててカーテンを引き、手渡されていた服に袖を通す。

何故かカーテンの向こうから、クスクスという笑い声が聞こえてくる。ん?もしかして・・・・また転がされた??

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 少し不貞腐れた顔で、カーテンを開ける。絶対チョロいとか思われてる。セシル君のあの顔はズルイ。あんな顔や声で言われると、私なんて簡単に転がっちゃうよ!

 この子が女の子なら、本当に天性の小悪魔!魔性の女だ!男なのが実に惜しい!!

 セシル君の選んでくれた服は、ふんわりとした黄色のワンピース。足元は、トレンカ(なのかな?こっちでもそう呼ぶのかわからないんだけど)、つばの大きなマリンボーダーの帽子。うん。可愛い。可愛いいんだけどさ。これ、旅の服装じゃないよね?神子服もそうだったけど、あれは足元がブーツだったし・・・・これ、ミュールに近いような。

「ミコト・・・・すごく。綺麗・・・・。」

ほーっと惚けた顔でコチラを見つめるセシル君。嫌、もうそういうのいいから!恥ずかしいから!顔が火照るんで辞めて下さい!

「この服とさっきの服で。あっこれは、そのまま着ていくんで。支払いはコレで。」

あれ?セシル君。店員さんに何を?

「服も買ったし、行くよ。ミコト。」

ーぐぃっ。

「ええっ!?」
「荷物は、僕が持つから。貸して。」
「ちょっ!ちょっとセシル君!?」

買っちゃったの!?この服!

「待って、確かにこの服は可愛いけど、旅には向いてないよ?セシル君?これは・・・・」
「いいの!」

慌てて服を脱ごうとする私を、セシル君は静止する。

「それ、旅用じゃないから。旅用のはさっき着てた奴買ったから。」
「旅用じゃない?」

だって、旅の為の服買いに来たんだよね?

「・・・・その格好してたら、その・・・・デートっぽいでしょ?」
「へ?」
「昨日、ヴォルフの選んだ服で・・街歩いてたし・・・・今日は、僕の選んだ服で歩いてよね!これ、罰。さっきあんたが僕に【可愛い】とか言った罰だから!」

ぷいっとそっぽを向き言うセシル君。セシル君の白い肌が、赤くなってる。耳まで真っ赤だ。

恋愛経験なくて、鈍い私でもわかるよ。
セシル君、本当に私の事好きなんだ。好きって思ってくれてるんだ。一生懸命向けられる好意に、ドキドキと鼓動が早くなる。好きって思われる事って・・・・こんなに嬉しいんだ。

「ん。ほら、なにしてんの。荷物一度宿に置きにいくよ。まだ、付き合ってよね。」

そう言われて差しだされた手。握ろうと手を伸ばしたところで、声がした。




「あの。すみません。ちょっと宜しいですか?」



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