転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

第3章

一夫多妻セイバーッ！

　しんと静まり返った夜半の廊下。そこにレオニダスの批難めいた声が通る。

「なんだよ。それ……好きだと想う程、結ばれないって……わけわかんねぇ。あれか？ 身分か？ お嬢専属って事は、ハンスもそれなりに良いとこの坊ちゃんじゃねーのか？ 貴族の執事は、どこぞの○男とかそれなりの身分の奴がなってるだろ？」

　教養とマナー、執事はそれを主よりも完璧にこなせなければいけない。ひいては家の恥になる。拾われ幼い頃からスパルタで仕込まれる者もいるが、大半はそれなりの家の出身だ。

「大体、お嬢には兄貴がいるだろ？あの生徒会長の。お嬢が家督継ぐとか、そんなんじゃねーし……自由に恋愛したっていぃじゃねーか」

　レオニダスの言葉に、オズワルドは短く「そうだな」っと答える。

「だが、ハンスはダメだ……あいつは……だからな」

　眉間に皺を寄せ、呟くオズワルド。レオニダスがその理由を尋ねようとした時、背後から声がかかった。


「なぁに？あんた達、まぁだこんな所で油売ってたわけ？あんなに勇んで飛び出してったのに、もしかして怖くて震えてたの？」
「オズワルド先輩に、レオニダス君。良かった。先生じゃなくて」

　暗がりから、くすくすと笑う鈴のような声と少し怯えた愛らしい声がした。二人が振り向くと其処には、両サイドに愛らしい少女を従えた青年が。
フィロス、ルビアナ、ハンスの三人である。フィロスは、手元に淡い光を浮かべ足下を照らしている。ルビアナは、不安そうな顔を浮かべ、ハンスの服の裾をちょんと摘んでいる。

「さっき、レジーナ先生と接触しそうになってね。フィロスの機転で事なきをえたんだ。そっちは大丈夫か？」

　ハンスがそう言うと、何故かルビアナは顔を赤らめ下を向いた。

　ーフラグ的なイベントが起こったのかも知れない……例えば狭い場所で、男女が密着しあい教師が通りすぎるのを息を殺して待つ……ような。

ヴィクトリアがいたら、「ハンス貴方！やっぱりギャルゲーラノベの、なぜかモテまくる普通主人公Hですのね！この天然人誑し！  ええ、言い逃れは不要ですわ！ フラグ乱立ラッキースケベ！金髪ドリルは、まるっとなんでもお見通し！一夫多妻のハーレムエンド。許すまじ！ お覚悟なさい！セイバーッ(征伐)！ 」っとドリル目潰し……かーらーの、扇子BINTA！とどめのハイヒール金的……くらいしかねない。

　(思い込みの激しい)美少女に想われるのは、何かとリスクが付き物なのである。(ハイリスク＆ハイリターン)




「それで、俺がダメだってのは？ 何か喋っていたようだが」

　二人の無事を確認したハンスは、柔らかな微笑みを浮かべ尋ねる。さっきの会話が少し聞こえていたらしい。それに対し、

「いや、何でもない。さっさとこのイベントとやらを片付けるぞ。大勢で動けば動く程、見つかるリスクは高くなるからな」

っとオズワルドは歩き出した。レオニダスはそれを慌てて追いかける。

「なに、あれ。相変わらず偉っそーな態度！ 皇子だからって偉いとでも思ってんの？ 」
「えっと……皇子様は偉いよ？ フィロスちゃん」

　ぷくっとほっぺを膨らませるフィロスに、ルビアナが眉を下げ告げる。

「まぁ、俺達も行くとしよう。できれば、お嬢様に追いつきたい。お嬢様は、こういった肝試しことは苦手だし。傍にいるのがグレイなのが……不安だ」

大きな溜息を吐き、ハンスが言う。

「そうよ！ なんであの悪魔がヴィーちゃんとペアなの！？ 絶対何か細工したわ！ 本当は私がヴィーちゃんとペアになって今頃怯えるヴィーちゃんを私がギュッとしてた筈なのに！ 正攻法で堂々とヴィーちゃんのおっぱい触れたかもしれないのにぃ！」
「フィロスちゃん、えぇ！？ 女の子同士だよ？ えっ？ えっ？」
「……そんな事考えてたのか……」
「常に考えてるわ」
「こうも堂々と返されると、逆に清々しく感じるな」

(無い)胸を張り、ふふんと返すフィロスに、ハンスとルビアナは呆れる。

「ヴィーとも合流できるといいね。うん。私もグレイ先輩と二人っていうのは心配かも……ヴィー怖い思いしてないといいけど……」

コツンコツンと音の響く大理石の廊下を、再び歩き始めた一行。そこに絹を裂くような少女の声が響き渡る。

「え？ 今のって……っ！？ ハンスさん！？」

　驚き立ち止まるルビアナ達を置いて、駆け出すハンス。

「ー今のはヴィクトリアの声だ、魔科学室の方からだな、行くぞ！」

　オズワルドも、慌ててそれに続いた。