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第3章
願いの代償
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※話の展開をコメディへとシフトチェンジするため書き直ししました。前回あげた内容は、忘れて下さい。お願いします。すみません。
本当にすみません。
◆◆◆
夜半過ぎ。夜空には赤褐色の月が浮かんでいる。その心許ない朧気な光に照らされ、二つの影がゆらゆらと揺れる。恐る恐る周りの様子を伺いながら……誰もいない夜の校舎で私は身を震わせ呻いている。
「あぁ……何故こんな事になってしまったのかしら。何故……どうして……最悪ですわ」
心の死んだ私。口からは、【何故、どうして、最悪】という思いが零れ落ちる。ああ、今すぐ逃げだしたい! ただでさえ、最悪な状況というのに、私の相手がコレだなんて……
「呪われてるとしか思えませんわ……」
そう呟く私に、隣にいる悪魔が耳元でそっと囁く。
「夏の思い出を作りたい。そう言ったのはヴィクトリア……君だよ? 特別な事をしたいと……」
その甘ったるい声と吐息に身の毛がよだつ。ぞわりと粟立つ肌を擦りながら、睨み付あげる。視界に入るのは、月の光を受け溢れる銀の髪。白い肌。人外じみた美しい姿は、まさに悪魔で悪霊!私の天敵、グレイ・ミステリューズ!!
「言ったわよ! ええ言ったわ!夏の思い出が欲しいと確かに言いましたわ! 夏ですもの! 当然じゃない! フィロスとルビアナと素敵な夏の思い出が欲しかった! でも、夜の校舎を隠れて徘徊だなんて思い出は不要ですわ! 何故こうなった! 責任者を呼びなさい! いいえ、呼ばなくていいわ!グレイ様! 今すぐ貴方を浄化するわ! 人類の平和と私の安寧の為に!! 」
首から下げたニンニク。握りしめた十字架と私お手製の護符っぽい紙。できる事ならこれら全て悪魔に投げつけてやりたい!目の前にいる グレイ様に!!
「止めときなよ。そんな事されても、僕は浄化されないよ? 」
「浄化できずとも、物理的なダメージは多少与えられますわ! 」
「いいの? 精神的ダメージが、倍になって反ってきても? 」
「……(今は)止めておきますわ」
「懸命な判断だね。ヴィクトリア」
にこやかに返す私達の周りでは、びゅおおぉおおぉうっとブリザードが吹き荒れていますわ。ピシピシと廊下や窓が氷ついて、スケートリンクが完成しそう……。レオニダスが喜ぶわね。
っとそれどころじゃありませんでしたわ。今、私とグレイ様は【肝試し】をしていますの。二人一組になり、夜の学園を散策するという単純な肝試し……グレイ様発案のこの企画。さっさと終わらせて解放されなくては……
「ヴィクトリア、大丈夫? 怖くなったら僕の手を握ってくれてもいいんだよ? 」
コツコツと冷たい廊下を歩きながら、グレイ様が振り返り手を差し出してきますわ。
「うふふふふ。グレイ様の手を掴むくらいなら、お化けの手を取ってダンスをした方がましですわ」
「そう? なら素敵なゴーストがあらわれたら、君に譲ってあげるね? 」
「まぁ、エスコートは殿方の役目でしてよ? 私にお気遣いなさらず、グレイ様がどうぞ」
「ふふふ。そこはレディファーストだから、ヴィクトリアが楽しんで? 」
始終この調子で毒舌を吐き合う私達。底冷えするこの冷気に、幽霊達も一目散で退散するに違いありませんわね。
「何故、この組み合わせなのです。私、納得いきませんわ。貴方、クジに細工しましたわね? 」
難癖だとはわかっていますわ。でも、ペアはハンスが良かった。ハンスなら、この恐怖によるドキドキもつり橋効果でラブイベントに早変わり。ですのに!私のペアがハンスでないのも、合宿で肝試しをするのも、何もかも、すべてグレイ様のせいですわ! いいえ、きっとこれも運営の策略ね! おのれディケイ……運営! 許すまじ!
「いや、細工に失敗したからこうなっちゃったんだけどね。うん。ミスったなぁ」
「ちょっと! グレイ様! 堂々とイカサマを白状なさるなんて貴方、どんな神経をなさってるの!? 謝りなさい! ハンスとペアになれなかった私に誠心誠意謝って頂戴! 」
運営様、疑ってごめんなさい!犯人悪魔でしたわ!
「失敗しちゃってるから無効だよね」
「なりませんわよ! 阿保ですの!? 」
「君よりはましな筈」
「ちょっと! どういう意味ですの!? グレイ様!? 」
「え? 1から10まで説明しないといけない? 」
憤怒する私に、ヤレヤレといった表情を向けてくる。そういう意味ではありませんわ!
「あまり騒ぐと、先生方に見つかっちゃうよ? 」
「うぅっ。そうでしたわ。内緒で校舎を散策してるのでしたわ……」
慌てて口元を抑え、キョロキョロと周囲を見回す。廊下の先も、教室にも人の気配はありませんわね。ふぅ。危なかったですわ。
「まぁ。僕が魔法で気配や音を消してるから、大丈夫なんだけどね」
「それならそうと先におっしゃって下さるかしらー!? 私、壮絶にドギマギしましたのよ!? 冷や汗よ!? 滝汗ですのよ!? 」
透けぬれになったらどうしますの!?
抗議の声をあげる私に、「だってその方が面白いでしょ? 」っと微笑むグレイ様。やっぱりこの方、嫌いですわ。
「間違えた。私、色々と間違えてしまいましたわ……」
グレイ様に翻弄され、ぐったりと精神的な何かが削られていく私。昼間の行動が頭に過る。
夏の思い出が作りたい。っというフィロスやルビアナ。
二人の笑顔が見たい。そう思い、昼間動いた事を私は微塵も後悔していない。後悔はしていないが、選択を間違えた……。
私は間違えましたわ。
接触相手を間違えた!
ええ、何故あの時、あの場所で、あんな事を口走ってしまったのか!
夏といえばかき氷!氷といえば魔法! その為に召喚したグレイ様。
悪魔に「かき氷が食べたい」だなんて、願い事を言うんじゃなかった。あぁ、数時間前の私のお馬鹿!呪いたい。数時間前の私とあの悪魔を呪って祟って懲らしめてやりたい!
◆◆◆
「氷をだせ? なんで? え? 夏の思い出? ふーん。ヴィクトリア達は、夏にしかできない事をたくさんしたい……そういう事? 成る程ね。確かにそうだね。せっかく学園に残ってるんだし、今しかできない事をたくさんすべきだよね。うん。わかった。僕にまかせて」
部室にいたグレイ様に声をかけ、かき氷作りを手伝って欲しいと話をした。二つ返事で協力してくれた氷の貴公子。「ああ、グレイ様もお優しいところがあるのね。私、色々と誤解していたようですわ」などと心の中で反省と共に感謝しましたの。
そうして、かき氷祭り、ひゃっほーい!だなんてうっかりはしゃぎまくった私。
本当にお馬鹿よ……悪魔に願い事して、ただで済むわけないじゃない。
「夜の学園探索なんて、合宿で残ってる今しかできないよ。先生方も少ないし、やるなら今だよね。見つからないようにハラハラしながら、ドキドキ探索。うん。きっと特別な思い出になるよね」
夕食後、部室へと緊急召集をかけたかと思うと、グレイ様は能面笑顔でほざきやがりましたわ。え?先生方に内緒で?夜の校舎を徘徊?
「スタート地点は、この部室。美術室と魔科学室にルビアナの作ったクレイドールを置いてきたから、それを回収してここに戻ってきて。たった二ヶ所回るだけだから簡単だよね? 」
そう言って校舎地図を広げ、微笑する悪魔。その二ヶ所が校舎の端と端っていうのが、グレイ様の底意地の悪さを如実に現していますわ。
「グレイ先輩、この為に私にあの人形を作らせたんですね 」
困惑するルビアナに、悪魔はにっこりと微笑み返す。天使まで騙したのね! このド悪魔め!
「でもさ、先生に見つかったらやべーんじゃねーの? 」
「そうよ。見つかってまた反省文とか奉仕活動とか、シャーウッド教官の鬼の扱きだなんて受けたくないんだけど? 」
珍しく常識的な事を言うレオニダスとフィロス。私も同感よ。
「隠密で肝試しだなんて……阿保ですの?」
この否定的な流れに乗って、こんなイベント潰して差し上げますわ!
「ふーん。レオニダスやヴィクトリア達は臆病だったんだね。知らなかったよ。ごめんね。幽霊とか信じてるんだね」
私達を見回し「みんな(おこちゃまで)可愛いね」っと微笑まれ……思わず
「怖くありませんわ! お化けを信じる? 私もう13歳ですのよ? 怖いわけないじゃない! 」
「おう! 臆病だなんて聞き捨てならないぞ! 幽霊なんか信じるのは、ガキくらいだからな。お嬢や俺が信じてるわけねーだろ! やってやるよ! なぁお嬢! 」
っと反射的に返してしまった私とレオニダス。
【謀られた! 】っと気付いたのは、悪魔の口元が弧を描くのを目にした後でしたわ。
あそこでちゃんと拒否しておけば、この後あんな恐怖体験などせずにすんだのに……。
本当にすみません。
◆◆◆
夜半過ぎ。夜空には赤褐色の月が浮かんでいる。その心許ない朧気な光に照らされ、二つの影がゆらゆらと揺れる。恐る恐る周りの様子を伺いながら……誰もいない夜の校舎で私は身を震わせ呻いている。
「あぁ……何故こんな事になってしまったのかしら。何故……どうして……最悪ですわ」
心の死んだ私。口からは、【何故、どうして、最悪】という思いが零れ落ちる。ああ、今すぐ逃げだしたい! ただでさえ、最悪な状況というのに、私の相手がコレだなんて……
「呪われてるとしか思えませんわ……」
そう呟く私に、隣にいる悪魔が耳元でそっと囁く。
「夏の思い出を作りたい。そう言ったのはヴィクトリア……君だよ? 特別な事をしたいと……」
その甘ったるい声と吐息に身の毛がよだつ。ぞわりと粟立つ肌を擦りながら、睨み付あげる。視界に入るのは、月の光を受け溢れる銀の髪。白い肌。人外じみた美しい姿は、まさに悪魔で悪霊!私の天敵、グレイ・ミステリューズ!!
「言ったわよ! ええ言ったわ!夏の思い出が欲しいと確かに言いましたわ! 夏ですもの! 当然じゃない! フィロスとルビアナと素敵な夏の思い出が欲しかった! でも、夜の校舎を隠れて徘徊だなんて思い出は不要ですわ! 何故こうなった! 責任者を呼びなさい! いいえ、呼ばなくていいわ!グレイ様! 今すぐ貴方を浄化するわ! 人類の平和と私の安寧の為に!! 」
首から下げたニンニク。握りしめた十字架と私お手製の護符っぽい紙。できる事ならこれら全て悪魔に投げつけてやりたい!目の前にいる グレイ様に!!
「止めときなよ。そんな事されても、僕は浄化されないよ? 」
「浄化できずとも、物理的なダメージは多少与えられますわ! 」
「いいの? 精神的ダメージが、倍になって反ってきても? 」
「……(今は)止めておきますわ」
「懸命な判断だね。ヴィクトリア」
にこやかに返す私達の周りでは、びゅおおぉおおぉうっとブリザードが吹き荒れていますわ。ピシピシと廊下や窓が氷ついて、スケートリンクが完成しそう……。レオニダスが喜ぶわね。
っとそれどころじゃありませんでしたわ。今、私とグレイ様は【肝試し】をしていますの。二人一組になり、夜の学園を散策するという単純な肝試し……グレイ様発案のこの企画。さっさと終わらせて解放されなくては……
「ヴィクトリア、大丈夫? 怖くなったら僕の手を握ってくれてもいいんだよ? 」
コツコツと冷たい廊下を歩きながら、グレイ様が振り返り手を差し出してきますわ。
「うふふふふ。グレイ様の手を掴むくらいなら、お化けの手を取ってダンスをした方がましですわ」
「そう? なら素敵なゴーストがあらわれたら、君に譲ってあげるね? 」
「まぁ、エスコートは殿方の役目でしてよ? 私にお気遣いなさらず、グレイ様がどうぞ」
「ふふふ。そこはレディファーストだから、ヴィクトリアが楽しんで? 」
始終この調子で毒舌を吐き合う私達。底冷えするこの冷気に、幽霊達も一目散で退散するに違いありませんわね。
「何故、この組み合わせなのです。私、納得いきませんわ。貴方、クジに細工しましたわね? 」
難癖だとはわかっていますわ。でも、ペアはハンスが良かった。ハンスなら、この恐怖によるドキドキもつり橋効果でラブイベントに早変わり。ですのに!私のペアがハンスでないのも、合宿で肝試しをするのも、何もかも、すべてグレイ様のせいですわ! いいえ、きっとこれも運営の策略ね! おのれディケイ……運営! 許すまじ!
「いや、細工に失敗したからこうなっちゃったんだけどね。うん。ミスったなぁ」
「ちょっと! グレイ様! 堂々とイカサマを白状なさるなんて貴方、どんな神経をなさってるの!? 謝りなさい! ハンスとペアになれなかった私に誠心誠意謝って頂戴! 」
運営様、疑ってごめんなさい!犯人悪魔でしたわ!
「失敗しちゃってるから無効だよね」
「なりませんわよ! 阿保ですの!? 」
「君よりはましな筈」
「ちょっと! どういう意味ですの!? グレイ様!? 」
「え? 1から10まで説明しないといけない? 」
憤怒する私に、ヤレヤレといった表情を向けてくる。そういう意味ではありませんわ!
「あまり騒ぐと、先生方に見つかっちゃうよ? 」
「うぅっ。そうでしたわ。内緒で校舎を散策してるのでしたわ……」
慌てて口元を抑え、キョロキョロと周囲を見回す。廊下の先も、教室にも人の気配はありませんわね。ふぅ。危なかったですわ。
「まぁ。僕が魔法で気配や音を消してるから、大丈夫なんだけどね」
「それならそうと先におっしゃって下さるかしらー!? 私、壮絶にドギマギしましたのよ!? 冷や汗よ!? 滝汗ですのよ!? 」
透けぬれになったらどうしますの!?
抗議の声をあげる私に、「だってその方が面白いでしょ? 」っと微笑むグレイ様。やっぱりこの方、嫌いですわ。
「間違えた。私、色々と間違えてしまいましたわ……」
グレイ様に翻弄され、ぐったりと精神的な何かが削られていく私。昼間の行動が頭に過る。
夏の思い出が作りたい。っというフィロスやルビアナ。
二人の笑顔が見たい。そう思い、昼間動いた事を私は微塵も後悔していない。後悔はしていないが、選択を間違えた……。
私は間違えましたわ。
接触相手を間違えた!
ええ、何故あの時、あの場所で、あんな事を口走ってしまったのか!
夏といえばかき氷!氷といえば魔法! その為に召喚したグレイ様。
悪魔に「かき氷が食べたい」だなんて、願い事を言うんじゃなかった。あぁ、数時間前の私のお馬鹿!呪いたい。数時間前の私とあの悪魔を呪って祟って懲らしめてやりたい!
◆◆◆
「氷をだせ? なんで? え? 夏の思い出? ふーん。ヴィクトリア達は、夏にしかできない事をたくさんしたい……そういう事? 成る程ね。確かにそうだね。せっかく学園に残ってるんだし、今しかできない事をたくさんすべきだよね。うん。わかった。僕にまかせて」
部室にいたグレイ様に声をかけ、かき氷作りを手伝って欲しいと話をした。二つ返事で協力してくれた氷の貴公子。「ああ、グレイ様もお優しいところがあるのね。私、色々と誤解していたようですわ」などと心の中で反省と共に感謝しましたの。
そうして、かき氷祭り、ひゃっほーい!だなんてうっかりはしゃぎまくった私。
本当にお馬鹿よ……悪魔に願い事して、ただで済むわけないじゃない。
「夜の学園探索なんて、合宿で残ってる今しかできないよ。先生方も少ないし、やるなら今だよね。見つからないようにハラハラしながら、ドキドキ探索。うん。きっと特別な思い出になるよね」
夕食後、部室へと緊急召集をかけたかと思うと、グレイ様は能面笑顔でほざきやがりましたわ。え?先生方に内緒で?夜の校舎を徘徊?
「スタート地点は、この部室。美術室と魔科学室にルビアナの作ったクレイドールを置いてきたから、それを回収してここに戻ってきて。たった二ヶ所回るだけだから簡単だよね? 」
そう言って校舎地図を広げ、微笑する悪魔。その二ヶ所が校舎の端と端っていうのが、グレイ様の底意地の悪さを如実に現していますわ。
「グレイ先輩、この為に私にあの人形を作らせたんですね 」
困惑するルビアナに、悪魔はにっこりと微笑み返す。天使まで騙したのね! このド悪魔め!
「でもさ、先生に見つかったらやべーんじゃねーの? 」
「そうよ。見つかってまた反省文とか奉仕活動とか、シャーウッド教官の鬼の扱きだなんて受けたくないんだけど? 」
珍しく常識的な事を言うレオニダスとフィロス。私も同感よ。
「隠密で肝試しだなんて……阿保ですの?」
この否定的な流れに乗って、こんなイベント潰して差し上げますわ!
「ふーん。レオニダスやヴィクトリア達は臆病だったんだね。知らなかったよ。ごめんね。幽霊とか信じてるんだね」
私達を見回し「みんな(おこちゃまで)可愛いね」っと微笑まれ……思わず
「怖くありませんわ! お化けを信じる? 私もう13歳ですのよ? 怖いわけないじゃない! 」
「おう! 臆病だなんて聞き捨てならないぞ! 幽霊なんか信じるのは、ガキくらいだからな。お嬢や俺が信じてるわけねーだろ! やってやるよ! なぁお嬢! 」
っと反射的に返してしまった私とレオニダス。
【謀られた! 】っと気付いたのは、悪魔の口元が弧を描くのを目にした後でしたわ。
あそこでちゃんと拒否しておけば、この後あんな恐怖体験などせずにすんだのに……。
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