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第3章

悪魔に誓う

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「うっひゃあ! つめてぇ! 気持ちいいな! この部屋!  」

 放課後、連れ立って部室へと向かった私とハンスとレオニダス。部室の扉をあけるなり、狂犬が叫びましたわ。開かれたドアから流れだす、ヒンヤリとした空気。確かに気持ちよいですわね。

「おどきなさい。邪魔よレオニダス。後ろがつかえてるのよ?  」

 ぺしぺしと扇子の先で頭を小突く。するとレオニダスは、「ああ。悪ぃ悪ぃ」っと頭をかきながら避けましたわ。

「御機嫌よう。グレイ様。オズワルド皇子」

 ひんやりと心地好い温度に保たれた部室。其処には、足を投げ出しソファーで寛ぐオズワルド皇子と、その向いで書物を読むグレイ様の姿がありましたわ。あら? オズワルド皇子ったら眠ってらっしゃるのね。悪戯心がウズウズしますわ。あとでお顔に落書きでもしようかしら……。ほっぺに猫髭とか、似合いそうね。ふふふふふ。

「やぁ、ヴィクトリア。いらっしゃい」

 私達が来たのに気付くと、グレイ様は本を閉じ、机にソレを置かれましたわ。タイトルが目に入る。なになに……

「【 正しい縄の縛り方? 】」

「ああ、これ? なんとなく、読んでみたんだけど面白いよ? 絶対に解けない結び方とか、もがけばもがく程きつく絡まる縛り方とか、痛みを効果的に与える結び方とか……中々興味深くてね 」

 色気を含む艶っぽい微笑で、答えるグレイ様。キラキラエフェクト全開のいい笑顔!!  世のご令嬢失神モノですわね! 私は魅了などされませんけど!  悪魔のチャームなど鼻で笑って屠りますわ!  ええ!  美形お兄様で目が肥えてますもの!! 私にイケメンスマイルなど、無駄無駄無駄ぁ!!オーッホッホッホ!!


「何笑ってんだお嬢? そんなに面白いか? 」

あら、いけない。つい心の高笑いが、表にでてしまっていたようですわ。

「お嬢様の【ソレ】は、発作のような物だから、気にしなくていい。レオニダス」

「そっか。発作なら仕方ねぇな。早く治るといいな。お嬢」

 ちょっと、レオニダス。本気で心配そうな顔を向けないでちょうだい。私、別に病気ではありませんわ。そしてハンス、貴方、覚えてらっしゃい。

「縄の縛り方なんて覚えて、役に立つのか? そんなの魔法で拘束とかできるだろし、そんな機会なんて早々ないだろ? 」

 本を読むのが苦手なレオニダスは、グレイ様の置いたソレを手にとると、パラパラと捲り首を傾げますわ。

「そうかな?いつなにが役に立つなんてわからないよ?それに魔法っていうのは、イメージが大切だからね。拘束するにしても、頭の中に明確なイメージができるのとできないのとでは、結果は大きく変わってくるから」

「では、魔法のイメージの為に読了を?」

グレイ様の話に、思わず問い返しましたわ。イメージ……確かに魔法と想像は、切っても切り離す事ができませんわね。水魔法で捕縛……無理ですわ。イメージが湧かない。スライム状のヌルヌルが、身体に巻き付くイメージしかできない……。

「んー。それもあるけどね。ほんとに興味本位なだけだよ。お陰でスキルが増えたけど」

「ソレハ、ヨカッタデスワネー。」

 クスクスと笑うグレイ様悪魔。あー新たに余計なスキルを獲得したのですわね。

 そんなスキルもの覚えてどうする気ですの? あっ、いえ、答えなくて結構ですわ。世の中には聞いてはならない事、知らない方が良い事って沢山ありますもの。

 私は、藪を棒でつついて悪魔を呼び寄せたりいたしません。賢い令嬢は、危うきに近寄らずですわ! オーッホッホッホ!

「うん。ヴィクトリアも読む?  縄抜けの方法とかものってるよ? 」

「結構ですわ! 私には不要な知識ですもの」

 
「そう? 君にこそ必要な知識だと思うけどな 。君って迂闊で抜けてる癖に、無鉄砲で何にでも首を突っ込むでしょ? 身につける事のできるスキルは、身につけておいて損はないよ」

グレイ様は、私の手を握るとにっこりと説いてくる。

「例えば、街中で悪人に魔力に気付かれ捕獲され、手足を縛られ監禁されたとしても……縄抜けができたら、逃げるチャンスも生まれるしね」

 うっ! それってアルテでの一件ですわよね? たったしかにアレは危険でしたわ。オズワルド皇子に助けてもらわなかったら、私、今頃売り捌かれてとんでもない目に逢ってた所ですわ。

「それに、君に向けられる愛ってすっごく重そうなんだよね。繋がれたら最後、一生檻に閉じ込められ出られなくなっちゃうかもね」

 それは、ナニ?含みのある言い方ですわね。

「というわけで、縛ってみたから頑張って解いてみてね」

「はい?」

 なっ!? 何故手首に縄が!? えっ!? いつの間に!!

「何故手を拘束してるのです! 」

 グレイ様!いつの間に私の腕に縄をかけましたの!? 恐ろしい人!

「え? 手だけじゃ物足りない? 仕方ないなぁ。なら、体も縛ってあげるね。丁度試したい縛り方とかあったんだよね」

「ちっ! 違っ!! 私が言ってるのは、そういう事ではなくて!! 」

「んー。これとか面白そうだなー。ハンスはどの縛り方がいい? ほら、こんなのとかあるよ? 」


「ハンス!! 私を助けなさい! 何を一緒になって本を見ているの!! 」

 ハンスのお馬鹿! なんで貴方まで一緒にソレを見ているの!? 貴方、縄にまで興味があるの!?

「いえ、解き方を見ないと解けませんよ? それ、無理に解こうとすると……」

「よし! お嬢! 俺に任せろ! こんなのすぐに……あれ? おかしいな。解けねー。これどーすんだ? 」

 レオニダスが頭を捻りながら、私に絡まる縄を弄ぶ。ちょっと……ますます絡まってきましたわよ? レオニダス……貴方まで巻き込まれて……

「やっんん!? レオニダスっやめっ……縄が変な所にっ」

 だめ! 暴れず大人しくなさい!これ、動いちゃ駄目な奴ですわ!解くよりも切った方が早くてよ!

「レオニダス!大人しくしろ、動くな、触るな、手元が狂う」

 ハンスが慌てて、懐からナイフを取り出しましたわ。

「お嬢様も、我慢して下さいね。最悪、レオニダスを切り取りますから」

「ええっ!? ハンス、今さらっと怖ぇ事言わなかったか!?」

 シュシュとナイフを動かし、縄を切っていくハンス。レオニダスは、ハンスの言葉に驚き、また動きましたわ。うっ! 縄が絡まるっ! このお馬鹿!

「削がれたくなかったら、動くな。これ以上」

 身動ぎするレオニダス。密接する身体。絡まる縄。なかなか切れない縄に、ハンスがプチっと切れていますわ。

「あーごめんね。こんな風になると思わなかったから。レオニダスが動かないよう、凍らせるね」

 申し訳なさそうに告げながら、手元に氷を凝縮させていくグレイ様。そうね。貴方が面白半分で、私を縛らなければこんな事には! 


「グレイ様……」

「ん? なんだい、ヴィクトリア」

「私、必ず貴方にこの仮をお返し致しますわ」
  
 怒りに震えながら、告げる私。

「そう。それは楽しみだ」

「うふふふふ」
「あはははは」


 至近距離で微笑し合う私とグレイ様。久しいですわね。このやり取りも。私、負けなくってよ?



 ええ。必ずこの雪辱を果たさせていただきますわ。倍返しで…… 絶対に! 

 縄プレイよりも、もっと恥ずかしい目に遭わせて見せるんだから! 覚えてらっしゃい! この悪魔ぁあああぁああ!



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