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第3章
sideブルーテス
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ブルーテスお兄様の心の声です。
【】内にて副音声もお伝え致します。
◇◇◇
私には、妹がいる。
亡くなった母によく似た、容姿端麗で心優しい妹。
緩やかな金糸の髪に、深い碧瞳の美しい少女。
濃いめのゴールドヘアーは、太陽の光を受けキラキラと輝きを増す。笑う度に光を零す愛らしい私の天使。
─あぁ。ヴィクトリア……。
私の可憐で愛しい妹。
私以外誰も、あの子を目にするのは許し難い。あの子を見つめて良いのは、兄である私だけだ。
あの子の麗しさに、誰かが誘拐を企むかもしれないだろう?
あの子と言葉を交わしてよいのも、私だけだ。
あの子の優しさを勘違いし、恋に落ちる輩が湧くのを駆除するのが煩わしい。下手に地位や権力を持つ虫は、追い払うのにも骨が折れる。
どれだけ私が私の痕跡を残さず、妹に近づく不敬の輩を秘密裏に潰してきたか……。
あぁ……いっそ、全人類の目を潰してしまおうか・……。
あの子の美しい姿を目にするのは、私だけでいい。
兄として、あの子に近づく虫は排除しなければいけない。駆除だ。駆逐だ。徹底的に撲滅してやる。
そう守ってきたというのに・・・・。
この学園に入学してきてから、三ヶ月。
あの子の周りが騒々しい。
オズワルド皇子……昔からヴィーに想いを寄せている第一皇子。傲慢な俺様を装っているが、へたれで奥手。
遠目から見るだけで、接触もないだろう。そう高を括り放っておいたのだが……ミステリューズ家の嫡男。グレイ・ミステリューズが加わってから、ヴィーとの接触が増えた。
部活動まで一緒だと?
ヴィーは、生徒会長権限で生徒会に引き込む予定だったのに。
そういえば、グレイ・ミステリューズに役員になるよう声をかけた事があったな。やんわりと笑顔で断られたが、アレは私の同類だと直感している。
笑顔を浮かべ、好意的な言葉を並べる一方で、腹の底で一物もニ物も抱えてる男。純粋で穢を知らないヴィーでは、簡単に手玉に取られてしまうだろう。駆除するにしても、一筋縄にはいかなさそうだ。
それと、新入生のレオニダス・フラム。強い風属性を持つが、制御のできない未熟者。素直で単純。考える前に行動してしまう短絡思考の持ち主。ハンスに懐いていて、ヴィーも目を掛けている。悪い人間ではないが……ヴィーへの粗相が目に余る。不埒な振る舞いに、私の我慢も限界だ。
ヴィーにバレぬよう、粛清せねばならない。
─最後に、同室のフィロス・インカ。彼女は、黒だ。私の直感がそう告げている。ヴィーを恋愛対象として見ている。女であろうが関係ない。
同性であろうと、恋に落ちる人間はいる。
かく言う私も、何度も同性から告白を受けているからな。性別を理由に見逃していては、何かあってからでは遅いのだ。特に彼女はヴィーが無垢な事をいい事に、やりたい放題……。到底許し難い。さて……どうしてくれようか……
「うっわー。テス。お前、禍々しいオーラが身体から滲みでてるぞ?」
背後から、不快な声が届く。
「なに? その黒いノート。ん? 書かれてんのは、名前だけ?」
「ああ。生徒の名前を覚えないといけないからね。私は会長だから」
後ろから覗いてきた緑髪の優男。私は笑顔でそう返す。目を合わすなり引き攣る彼は、私の数少ない友人のひとりだ。
「いや、それ名前を覚える為のノートじゃないだろ。お前、そんなんしなくても一度見れば、顔と名前覚える筈だし」
ふむ。やはりキミはなかなかに感がいいな。
「君は、私の事を買い被りすぎだね。会計役員殿」
ふふふと口にすれば、ますます眉間に皺を寄せ後退する彼。その姿がどことなく愉快だ。
「なんか、それ……デス的なノートにしか見えないんだよな。そのノート見つめてるお前の顔、死神みたいだし」
……本当に勘がいい。
流石同時進行で、複数の女性と付き合っていても刺されないだけはあるな。人より危機的回避力や直感が優れているのだろう。
「二ゲラ。君の名前も書いてあるんだよ? ほら、ここに」
にっこり笑って指させば、二ゲラは顔を青ざめ慌てる。
「ちょっ! テス! 頼むからそれ消して!? なんか俺の第六感が危険だって告げてる! そのノートに名前書き込まれたらダメだって俺の本能が訴えてくる!」
「ははは。ノートに名前を書かれたくらいで大袈裟だな。女性との修羅場を、華麗にくぐり抜けてきた人物とは思えない慌てぶりだね。すごいな。【君の危機察知能力の高さには、感嘆するよ】」
「いや、今その情報要らないだろ!? それに俺は遊びはちゃんと選んでるから! 本能で察知してるから! 手を出しちゃダメな子はひと目でわかるかんな!」
ふーん。なら、私の可愛いあの子に手は出さないよね?
思えば、この女誑しからあの子の名前を聞いた事がないな。本能でヴィーを避けてるという事か。
「そうだね。君は大丈夫そうだから、名前を消してあげるよ? 【よかったね。名前だけですんで】」
にこにこと微笑み、目の前で二ゲラに斜線をひく。
「お前から聞く【消す】の言葉が、別の意味に聞こえるのは何故だろうな……」
「さぁ? そう聞こえるのは、君くらいのものだよ。【そんなヘマ、私がするわけないだろう?】」
何せ、私は品性方向な生徒会長様だからね。
あの子の尊敬の眼差しを受ける為なら、清廉潔白で完璧な王子様にだってなるつもりだよ?
「って、おい。何処に行くつもりなんだ。テス」
「うん。そろそろあの子成分が切れてきたからね。補給しに。あっ、二ゲラはこなくていいよ?【着いてきたら目を潰すから】」
もしくは喉を潰すかな?あの子と同じ空気を吸うだけでも許し難い。
「こっわー。コレがあの生徒会長様の本当の姿だって言っても……誰も信じちゃくれないんだろな」
諦めに似た呟きが、背後で吐かれる。
彼から吐き出された溜息を耳にしながら、私は中庭へと歩き出す。
─さぁ、あの子に纏う害虫を綺麗に駆逐しなくちゃね。
【】内にて副音声もお伝え致します。
◇◇◇
私には、妹がいる。
亡くなった母によく似た、容姿端麗で心優しい妹。
緩やかな金糸の髪に、深い碧瞳の美しい少女。
濃いめのゴールドヘアーは、太陽の光を受けキラキラと輝きを増す。笑う度に光を零す愛らしい私の天使。
─あぁ。ヴィクトリア……。
私の可憐で愛しい妹。
私以外誰も、あの子を目にするのは許し難い。あの子を見つめて良いのは、兄である私だけだ。
あの子の麗しさに、誰かが誘拐を企むかもしれないだろう?
あの子と言葉を交わしてよいのも、私だけだ。
あの子の優しさを勘違いし、恋に落ちる輩が湧くのを駆除するのが煩わしい。下手に地位や権力を持つ虫は、追い払うのにも骨が折れる。
どれだけ私が私の痕跡を残さず、妹に近づく不敬の輩を秘密裏に潰してきたか……。
あぁ……いっそ、全人類の目を潰してしまおうか・……。
あの子の美しい姿を目にするのは、私だけでいい。
兄として、あの子に近づく虫は排除しなければいけない。駆除だ。駆逐だ。徹底的に撲滅してやる。
そう守ってきたというのに・・・・。
この学園に入学してきてから、三ヶ月。
あの子の周りが騒々しい。
オズワルド皇子……昔からヴィーに想いを寄せている第一皇子。傲慢な俺様を装っているが、へたれで奥手。
遠目から見るだけで、接触もないだろう。そう高を括り放っておいたのだが……ミステリューズ家の嫡男。グレイ・ミステリューズが加わってから、ヴィーとの接触が増えた。
部活動まで一緒だと?
ヴィーは、生徒会長権限で生徒会に引き込む予定だったのに。
そういえば、グレイ・ミステリューズに役員になるよう声をかけた事があったな。やんわりと笑顔で断られたが、アレは私の同類だと直感している。
笑顔を浮かべ、好意的な言葉を並べる一方で、腹の底で一物もニ物も抱えてる男。純粋で穢を知らないヴィーでは、簡単に手玉に取られてしまうだろう。駆除するにしても、一筋縄にはいかなさそうだ。
それと、新入生のレオニダス・フラム。強い風属性を持つが、制御のできない未熟者。素直で単純。考える前に行動してしまう短絡思考の持ち主。ハンスに懐いていて、ヴィーも目を掛けている。悪い人間ではないが……ヴィーへの粗相が目に余る。不埒な振る舞いに、私の我慢も限界だ。
ヴィーにバレぬよう、粛清せねばならない。
─最後に、同室のフィロス・インカ。彼女は、黒だ。私の直感がそう告げている。ヴィーを恋愛対象として見ている。女であろうが関係ない。
同性であろうと、恋に落ちる人間はいる。
かく言う私も、何度も同性から告白を受けているからな。性別を理由に見逃していては、何かあってからでは遅いのだ。特に彼女はヴィーが無垢な事をいい事に、やりたい放題……。到底許し難い。さて……どうしてくれようか……
「うっわー。テス。お前、禍々しいオーラが身体から滲みでてるぞ?」
背後から、不快な声が届く。
「なに? その黒いノート。ん? 書かれてんのは、名前だけ?」
「ああ。生徒の名前を覚えないといけないからね。私は会長だから」
後ろから覗いてきた緑髪の優男。私は笑顔でそう返す。目を合わすなり引き攣る彼は、私の数少ない友人のひとりだ。
「いや、それ名前を覚える為のノートじゃないだろ。お前、そんなんしなくても一度見れば、顔と名前覚える筈だし」
ふむ。やはりキミはなかなかに感がいいな。
「君は、私の事を買い被りすぎだね。会計役員殿」
ふふふと口にすれば、ますます眉間に皺を寄せ後退する彼。その姿がどことなく愉快だ。
「なんか、それ……デス的なノートにしか見えないんだよな。そのノート見つめてるお前の顔、死神みたいだし」
……本当に勘がいい。
流石同時進行で、複数の女性と付き合っていても刺されないだけはあるな。人より危機的回避力や直感が優れているのだろう。
「二ゲラ。君の名前も書いてあるんだよ? ほら、ここに」
にっこり笑って指させば、二ゲラは顔を青ざめ慌てる。
「ちょっ! テス! 頼むからそれ消して!? なんか俺の第六感が危険だって告げてる! そのノートに名前書き込まれたらダメだって俺の本能が訴えてくる!」
「ははは。ノートに名前を書かれたくらいで大袈裟だな。女性との修羅場を、華麗にくぐり抜けてきた人物とは思えない慌てぶりだね。すごいな。【君の危機察知能力の高さには、感嘆するよ】」
「いや、今その情報要らないだろ!? それに俺は遊びはちゃんと選んでるから! 本能で察知してるから! 手を出しちゃダメな子はひと目でわかるかんな!」
ふーん。なら、私の可愛いあの子に手は出さないよね?
思えば、この女誑しからあの子の名前を聞いた事がないな。本能でヴィーを避けてるという事か。
「そうだね。君は大丈夫そうだから、名前を消してあげるよ? 【よかったね。名前だけですんで】」
にこにこと微笑み、目の前で二ゲラに斜線をひく。
「お前から聞く【消す】の言葉が、別の意味に聞こえるのは何故だろうな……」
「さぁ? そう聞こえるのは、君くらいのものだよ。【そんなヘマ、私がするわけないだろう?】」
何せ、私は品性方向な生徒会長様だからね。
あの子の尊敬の眼差しを受ける為なら、清廉潔白で完璧な王子様にだってなるつもりだよ?
「って、おい。何処に行くつもりなんだ。テス」
「うん。そろそろあの子成分が切れてきたからね。補給しに。あっ、二ゲラはこなくていいよ?【着いてきたら目を潰すから】」
もしくは喉を潰すかな?あの子と同じ空気を吸うだけでも許し難い。
「こっわー。コレがあの生徒会長様の本当の姿だって言っても……誰も信じちゃくれないんだろな」
諦めに似た呟きが、背後で吐かれる。
彼から吐き出された溜息を耳にしながら、私は中庭へと歩き出す。
─さぁ、あの子に纏う害虫を綺麗に駆逐しなくちゃね。
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