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第2章

stand by ・・・・

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 ルビアナを残し、駆け出した廊下。曲がり角でぶつかると思ったその相手。ドスンという衝撃はなく、ふわりと抱きとめられ、胸が節操もなく早鐘を打つ。

「お嬢様。廊下はあれほど走ってはいけないと・・・・。怪我をされたらどうするのです。」

 暖かな温もりとハンスの香りに包まれて、ときめいてしまう胸が憎らしい。諦めなければいけないのに・・・・傍にいる事が嬉しくて苦しい。手に入らないとわかった所で、はいそーですか。なんて切り替えできる程、私は器用に恋ができないのね。

 初恋は、実らない。

 実らないにしても・・・・実らせたいと思っていた。きっと相手がルビアナでなければ、ありとあらゆる事をして、彼女からハンスを奪うでしょう。ハンスの気持ちすら無視して、無理矢理にハンスを私のモノに・・・・。

 ルーファさんに、偉そうに言っていた癖に。【恋を楽しめ】だなんてどの口が。

 醜く、どろどろとした気持ちを抱えて、好きな気持ちが憎しみに変わりそうで、胸の奥に刺さった棘が毒を持ち・・・・どんどんどんどん黒く染め上げられていく。

 やっぱり私は、悪役令嬢なのね。手に入らない貴方が憎い。こんな気持ちにさせる貴方が憎い。私の気持ちを知っていて、こんな仕打ちを向けるハンスが・・・・憎らしいほど好きなのが辛い。手に入らないならいっそ・・・・


「・・・・お嬢様。」

 ハンスの声にハッと我に返る。私ったら、ずっとハンスの腕の中に?こんな所、ルビアナに見られたら・・・・


 俯く私の顎に、ハンスの手がかかる。

「お嬢様・・・・本当に・・・・どうされたのですか?顔色も悪い。授業も始まってますが・・・・今日はこのまま寮に戻られた方が・・・・」

 心配そうに私の顔を覗き込むハンス。やめて。それ以上、私に近づかないで!それ以上私に、優しくしないで!

「放っておいてちょうだい。貴方に関係があって?」

 睨み付け、腕の中から離れようとつっぱる。

「私・・・・ハンスといたくありませんの。離して下さる?傍に寄らないで」


 傍にいたら、恋しくて胸が軋むから。失恋したばかりで、その相手と四六時中一緒だなんて拷問。受けたくありませんわ。いっそ打首、追放されたい。今すぐに。



「お嬢様・・・・今・・・・なんて?」

 低く狼狽えた声が落ちましたわ。

「俺が・・・・いらない。・・・・傍に寄るな・・・・と?」

 見上げると、悲しみとナニかが混ざった瞳が。

「お嬢様は、俺を捨てるんですか?俺に傍にいろと仰ったのは・・・・お嬢様なのに?貴女が俺を必要としてくれたから・・・・俺は・・・・」

「捨てるだなんてっ!そんな・・・・私は・・・・貴方が傍に居るのが・・辛いのよ。」

 ルビアナと貴方の仲睦まじい姿を、傍で見るなんて耐えられませんわ。

「だからお願い。ハンス。私の執事を辞めてちょうだい。」

 もう、伴侶にだなんて言わないわ。執事を辞めれば、貴方だって自由なのよ?私にまとわりつかれなくてすむのよ?ね?

「・・・・嫌です。」

 ぐいっと引き戻され、ハンスの腕が背中に回るのに気付く。ハンスの胸元に埋もれ、息が詰まりそうになる。

「やだ。ハンスっ。離してっ。離しなさい!」

 何をなさるの!?こんな所を誰かに・・・・ルビアナに見られでもしたら貴方っ


「嫌です。・・・・嫌だ。俺はっ・・・・俺は」


 ゴクリと何かを飲み込むハンス。代わりに強められる腕の力。

「俺は、お嬢様から・・・・離れたくないっ。」

 小さく、苦しげに吐き出されたその言葉。



「お願いだ。お嬢様。・・・・俺から【執事】である事を・・・・俺の【居場所】を取らないでくれっ」






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