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第2章

レクリエーション7/7~清らかなる乙女~

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「貴方・・・・もしかして、怪我を?」


靭やかな肢体の白いユニコーン。見上げると、ブルーに輝くユニコーンの瞳と交わりますわ。

「・・・・。私、少しですが癒しの魔法が使えますの」

 ハンスが怪我をしたあの日。あれから私は治癒魔法を覚えたのですわ。水魔法派生の自己流オリジナルですけれど。

「私に、見せていただけませんか?」

 私の言葉を理解しているのか、ユニコーンはゆっくりと頭を下げ、その美しい角を私の方へと下ろしましたわ。角についた血・・・・その根本についた傷・・・・怪我をしていたのは貴方の方でしたの。だからあんなに荒ぶっていたのね。

「治せるかわかりませんが・・・・」

 練習はしたけれど、実際に使用するのは初めてですわ。でも、できる事はしたい。傷付いた存在を目の前にして、私にできる事があるなら・・・・。やらない後悔をするなら、やって足掻くべきですわ!

魔法はイメージ。気持ちを込める事が大切。巡る水。癒し、清め、浄化し、体内の治癒力を高める。

【清らかなる水の巡りて、其の身に癒しを、個体治癒アクアキュア

 呪文を唱え終えると、光と水の粒がユニコーンを包む。柔らかな光。傷口へと染み込む水。それが消えるとともに、ユニコーンの傷も消えましたわ。

「良かった・・・・上手くいったみたい」

 ホッとし、安堵の声をあげる私の頬に、すりっとユニコーンがほほ寄せてきましたわ。しっとりとした滑らかな毛並み。すりすりとされ、少しこしょばゆい。

「あら?お礼ですの?ふふふ。そんな大した事はしていませんわ。私の方こそ、魔法の実験台になって下さってありがとうございます。」

ー清らかなる乙女よ。汝の好意に感謝する。

「え?」

なんですの?頭に直接声が・・・・まさか・・・・ユニコーン?

 見上げると、ユニコーンの大きな目が私を覗き込んでいる。


ー我からのささやかな礼だ。受け取れ。

 トス。頭に重みが。え?ユニコーンの顎が私の頭の上に。ちょっと?ユニコーンさん?私、貴方の顎置きではありませんわよ?ふごふごと何をされてますの??

「あの。重いですわ・・・・」

抗議しようと声をあげると、突然体が光に包まれましたわ。

パァアアァァァアアァア

ー乙女に祝福を・・・・ 

 その声と共に光が雲散し、ユニコーンの姿もいつの間にか消えていましたわ。そして私の手のひらには、小さな石が・・・・ユニコーンの瞳と同じ深い碧石。・・・・これは?

「今のは・・・・一体・・・・」

「すごいね・・・・ヴィーちゃん。ユニコーンから乙女の祝福を受けるなんて」

「え?」

呆然と佇む私。フィロスの声でハッと我に返りましたわ。蹲っていた筈のフィロスが、膝をつき私を見つめている。意識が戻ったのね。本当に良かった。



「お嬢!無事か!怪我はないか!平気か!」

「フィロス・インカも・・・・無事だな」

 未だに呆然とする私に、レオニダスが慌てて駆け寄りますわ。

「皆!先生を連れてきたよぉ!」

そこへレジーナ先生を連れたトリフォリウムさんが。

「あら、皆無事なのね。ユニコーンに襲われたって聞いたから心配だったけれど・・・・良かったわ」

ここの担当は、レジーナ先生だったのですわね。てっきり救護担当で野営テントにいらっしゃるものだと・・・・

「ちょうど三時間ね。レクリエーション終了だわ。皆一緒に戻りましょう」

レジーナ先生が、そう言って魔法陣を展開しますわ。

こうして私達は、先生と共にカラツメ草原の野営テントへと戻りましたわ。




◆◆◆

 カラツメ草原に戻ると、他の生徒達も戻っていましたわ。 キョロキョロと見回す私の後方から、声が・・・・。ああ、この声を聞くとホッとしますわね。

「お嬢様。戻られたんですね。どうでしたか?」
「ハンス。ええ。ばっちしよ。貴方の方こそどうだったの?って貴方泥だらけじゃない!頬を擦りむいてるしっ!ちょっと大丈夫なの!?」
「ああ、レクリエーションですしこれくらいは・・・・」
「怪我は!?怪我はしてないでしょうね!?脱ぎなさい!隅々まで確認するから脱いで!今すぐ!」

 なんて事!ハンスに怪我なんてあったら私!!そうよ!治癒魔法も使えるようになったのですわ!今すぐありったけのアクアキュアを!

「大丈夫です!大丈夫ですから、俺の服を脱がそうとしないで下さい!お嬢様!!」
「まぁ!ここも擦りむいてるじゃない!ここは打撲!早く治癒しなきゃ!」
「おっお嬢様!ですからそこはっ!ちょっと!駄目です!それ以上はっ!お嬢様!?」

私のハンスがボロボロですわ!ああ!もう!他に怪我した所は!?


「うわぁー。ヴィーちゃんったら大胆ー」
「おい。お嬢。お前いつから痴女に?」
「へ?」

フィロスとレオニダスが、うわぁーっと声に出しながら私の方を見つめてきますわ。

「・・・・お嬢様・・・・服を返してください」
「はい?」

困ったような声を出すハンス。

「ヴィー・・・・やだっっ。ハンスさんに早くっっ服をっっ」

 感心するフィロス。呆れた顔のレオニダス。頬を染め指の隙間からチラ見するルビアナ。そして目の前には・・・・均整が取れ、程よく引き締まったハンスの上半身・・・・

「ふわわわわわわわ!!はははははハンス!!貴方!!」

「・・・・お嬢様・・服を・・」

がしっとハンスの手が私の肩に・・・・肩に・・・・肩に・・・・・・

「いやぁあああ!!」

バチーン!!





◆◆◆

「いやぁ。結局お嬢の一撃が一番きつかったみたいだなー。ハンス」

ゲラゲラと指を指しながら笑う、レオニダス。

「笑い事じゃない・・・・」

救護テントの中、簡易ベッドに腰をかけ、ため息を零すハンス。その頬には、私の手型がくっきり。

「ごめんなさい。勢い余ってつい・・・・それに貴方の傷が心配で・・・・」

「だな。なんでそんなにボロボロなんだハンス?」

 致命傷はないものの、ハンスは泥だらけの傷だらけですわ。ベトベトした液体も、髪や衣類に付着してますわ。満身創痍・・・・ちょっと見ない間に、何がありましたの?
 

そう疑問を口にする私とレオニダス。すると、

「私のせいなの・・・・。」

傍にいたルビアナが、おずおずと口にしましたわ。

「私のせいでこんな事に・・・・ハンスさんを危険な目に合わせて・・・・本当にごめんなさい。」





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