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第1章

ツンデレはヤンデレら。

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「面白いね。彼女」

走り去るヴィクトリアの背を、グレイが愉しげに見つめる。

「アレは俺様のモノだぞ」

 あからさまに機嫌を損ねるオズワルドに、グレイは含みを持たせた視線を向けた。

「使える権威を、行使しまくっても、今だに婚約者候補・・にしか成り得ていない・・・・のにかい?」
「・・・・ぐっ」

「あいつが・・・・俺様に靡かないのが悪い」

オズワルドは、忌々し気に呟く。

「簡単に靡かないから、執着してるんだろ?」
「違う」
「そう?手に入らないから欲しがってる。こどもの我が儘の延長に見えるけど?」
「違う。俺様は本気だ!」

友人の強い瞳に、グレイはふふっと笑う。

「そうだね。本気でなければ、魔力がだだ漏れになる程の熱い視線を向けたりしないだろね」
「それを言うな!」

 ヴィクトリアを見つめる度に、気持ちが暴走し熱(※物理)を込めた視線を投げてしまうオズワルド。

 オズワルド・ラバグルート。
属性は、炎。
自信家で激情家の第一皇子。赤く燃え盛る情熱と熱烈な想いを瞳に宿す。見る者を惹き付け、魅了する、大輪の深紅の薔薇のような、天性のカリスマ皇子。
そんな彼が、執着し心乱す存在のヴィクトリア・アクヤック令嬢。

 オズワルドが、グレイとヴィクトリアを引き合わせるのを嫌がる為・・・・彼女の事は、遠目からしか見た事がなかった。

熱暴走するオズワルドを鎮める為に、氷魔法で落ち着かせる役目を持つグレイ。(※こちらも物理)

 友人の瞳を通して見るヴィクトリアに、自然と興味が沸いていた。本来、他人に無関心なグレイが、誰かに興味を持つ事などあり得ない。

グレイ自身はそれを、主の伴侶になるであろう人物への見定め。純粋な興味本位からくるものだと推測している。

「グレイ・・・・ヴィクトリアあれは、ダメだぞ」
オズワルド様未来の王の想い人に恋慕する程・・・・愚か者ではありませんよ」

わざとに恭しく頭を下げる。

 一途で情熱的な我が王は、恋に盲目的で存外狭量が狭いらしい。心配しなくとも、僕が他人に、恋心など抱くわけがないのに・・・・

 グレイの世界は、自分とオズワルド・・・・そしてそれ以外。幼かったあの日から、それは変わらない不変のことわり。オズワルドを裏切るような事など、グレイがする筈がないのだ。

ーやれやれ。と大袈裟に両手を挙げ、ため息をついてみせる。

「まぁ、アレがお前に靡くと俺様も思わないがな」

 見つめても、惚けた顔もせずに・・・・寧ろ眉間に皺を寄せ、嫌そうな表情を見せたヴィクトリア彼女を思いだし、グレイは苦笑する。

「そうだね。あんなあからさまに嫌がられたのは、初めてだよ」

 自身の見目の良さを、グレイは良く理解している。寧ろソレ・・を、進んで活用し、事を運んできた。息を飲む程美しい見目のグレイに、向けられる惚けた顔。表面では、うっとりする程の美しい微笑みを向け、内心では能面のような心でただただ、冷静に益だけを計算してきた。

 顔と態度で、簡単に転がる人間を見るのは愉快だ。幼い頃から、張り付けた笑顔とみせかけの優しい声色で他人に接する。それだけで、面白い程、全て思い通りになる。

それ・・がどうやら、ヴィクトリア彼女には、効かないらしい。

本当に面白い存在だな。

まぁ、他のと違って、ちょっと愉しそうだと思ったくらいだけど・・・・。

それよりも今は、オズワルド友人の暴走しがちな恋心の手綱を、三年間どう導いて行くべか・・・・それの方が重要だ。

っと、右手を見つめながら思案する。



 面倒だな・・・・と呟きながら、その口元は弧を描く・・・・ヴィクトリアと会話した事に、柄になく自分は喜びを感じているらしい。

普段なら、きっと不快に感じる心の揺らぎ。

他人に気分を左右されるなど、不快以外の何者でもない。それなのにー。


揺らぐ心に喜びを感じている…その矛盾にグレイ自身は、気付かずにいた。





◇◇◇




 会場の外壁に寄りかかるハンスを見つけ、私は、慌てて駆け寄りましたの。

「お嬢様。終わったんですか?」

顔色は、元に戻っているみたいね。

「ええ。貴方は、もう平気なの?」
「はい。親切な方に介抱いただいたので」

にっこりと笑うハンス。
そう。なら良かった。安心しましたわ。
あの山猿と、腹黒に捕まらなければ、もっと早く貴方の元にこれたのだけれど・・・・

「貴方の気分が戻ったようで良かったわ」
「それで、その介抱して下さった方というのわ?私もお礼を申し上げなくては」

「あー。確か、フィロス・インカ嬢とおっしゃられましたよ。ピンク色のふわふわした髪が印象的な、可愛らしいご令嬢でした」

ー・・・・なんですって?

「どうかされましたか?お嬢様?」

ー・・・・フィロス・インカですって・・・・?

「お嬢様?」

「ハンス」
「はい」
「貴方・・・・」
「はい?」
「何をヒロインとフラグ構築してるのよー!!!」
「はいぃいぃ!?」

動揺のあまり、ハンスの襟元を掴み締め上げてしまいましたわ。
何を勝手に、ヒロインとイベント起こしてらっしゃるの!?貴方モブでしてよ!?

モブの癖に、ヒロインとフラグを立てるなんて・・・・烏滸がましいにも程がありましてよー!!

「お嬢様、ヒロインではなく、フィロス・インカ嬢です」
「それと、フラグって何ですか??」

「だまらっしゃい!ハンス!!」

貴方、そこそこのイケメンの分際で、ヒロインに介抱されるとは・・・・しかも入学式のその日よ!桜舞い散る中のスチルとともに、触れ合う男女ですって!?

まごうことなき、フラグイベントでしてよ!?

貴方・・・・私が悪魔のような攻略対象イケメンどもに絡まれている間に、何をデレデレとのんきにイベントをこなしてらっしゃるの!?

はっ! 

もしかして、此処は乙女ゲーならぬギャルゲー!?

ハンスが主人公で、私やフィロス・インカが攻略対象ですの!?

 幼馴染のツンデレ(攻略済)な私と、純粋天然癒し系のフィロス。そしてこれから出会う魅力的で愛らしい攻略対象女性達・・・・

なんてことなの、私、すでにゲージMAXですわ!好意がカンストしてましてよ?寧ろプロポーズしまくりで、攻略の楽しみすら残っていませんわ!?

なんてこと!?攻略の楽しみすら残っていない攻略対象なんて、相手になどしてもらえませんわ・・・・まさに釣った魚に、餌は不要でしてよ!状態!

「ハンス・・・・」
「はい」
「私・・・・貴方に易々と攻略などされたり致しませんわ」
「はい?」
「釣った魚だって、逃げ出す事もありますのよ?」
「はぁ」
「他のご令嬢に手をだしたら・・・・私、ツンデレならぬヤンデレになりきる覚悟もありましてよ??」

「・・・・」
「・・・・」

これだけ脅しておけば、大丈夫ですわね。
勝手にハーレムなど構築させませんわ!
ハンスハーレム、断固阻止!

ハンスとヒロインは、近付けてはだめね。

徹底的に妨害よ!ハンスは、渡さなくってよ!ヒロイン!!


私が闘志に燃えているというのに・・・・ハンスは、何故か可哀想な視線を向けながら、私を見つめるのですわ。


「・・・・ヤンデレ?また、お嬢様がおかしな事を・・・・一体何の呪文なんだ・・・・」
 





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