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第1章

運命の出逢いですのよ!

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 あれから一年。私は6歳になりましたわ。

 私の華麗なる脱悪役令嬢計画は、あまり芳しい成果を伴っていませんの……。

 なんというか、とてもふわふわした計画だったわ。

 私、気付いてしまったの……。

 そもそも悪役令嬢って何なのです?金髪ドリルにつり目のハイスペック美女。ボンキュッボンで、色んな殿方に恋慕する…でしたかしら?

 婚約者の皇子ルートで、でしゃばるのは理解できますわ。しかし、腹黒ドSな宰相候補ルートや根暗引きこもり魔術師ルート、筋肉お馬鹿な騎士ルートまで活躍するなんて、どんなアバズレですの!?っ思わず淑女にあるまじき、汚い言葉を吐いてしまいましてよ!?
 
 あり得ませんわー。私……イケメンには其処まで興味ありませんもの。私含め、身内が美麗すぎて目が慣れきっておりますのよ?ただのイケメンには、興味を持てません。断言できますわ!それとも何かしら、攻略対象なだけに中身が面白いのかしら?

 俺様は、無理ね。私、衝突する気満々ですわ。 
 その無駄にたっかい鼻っ柱を、ボキッとへし折って差し上げたくなりますもの。皇子の硝子のハートを砕き踏みつけ、粉っごなの粒子へと、見事に変貌させて見せますわ!

 ドSもあり得ない。寧ろ私がS属性。S極とS極では、反発し合うので、永遠に交わる事はないでしょう。さようなら。

 根暗とお馬鹿は……面倒ね。私、怠け者の悪役令嬢を目指していますの。スローガンは、低コストで最コスパ。引きこもりを改善したり、お馬鹿を矯正なんてめんどくさい事は、慈悲深いヒロイン様に熨斗を付きで押し付けて差し上げてよ!!

オーッホッホッホッホッホ!

  ー性格悪いわ……私。自覚してるだけましかしら。はぁ……何処に落っことしたのかしら、謙虚さを。

 拾われた方は、ヴィクトリアちゃんまでお届け下さいませ。誠心誠意を持ってお礼申し上げますわ。素直さに関しては……そうね。己が欲望に向けて、とても素直に成長してると自分でも思うわ。ふふふ。

 だってしょうがないじゃない!?嫌な事は、嫌ですもの!嫌いな相手に、うっすい笑顔張り付けて能面笑いなんて芸当、私にできる筈ないじゃないですの!?

 意地悪言われて、泣いて大人しくするなんて……私には無理よ!右の頬を叩かれたら、左の頬を差し出せ?そんな事されたら、捻りと回転をかけながら、扇子で相手の横っ面をバチコーンと叩いてやりますわ!それも両面をね!!

 ええ……先日やらかしてしまいましたのよ。私。お兄様のお誕生日のパーティーで。やけにえっらそうにしてた赤毛のガキにムカついて。ホストの顔に泥を塗りたくり、悪目立ちしてたくそガキに切れて、苦言をていしてやったのですわ。 「なぜこんな所に、山猿が紛れているのかしら?」と。

 「お前!不敬だぞ!」とその猿が喚くので、

 「あら、人語がわかりましたのね?あまりに躾のなっていないご様子でしたので、てっきり何方かがお連れになられたペットかと…いえ、それではペットに失礼ですわね」
 「今日は、お兄様のお誕生日パーティーなのですわ。それを騒々しく騒ぎ立て、台無しになさる貴方を、私はお客様だと認めません!お祝いなさるお気持ちがあるなら、最低限の礼儀と敬意を身につけてからいらして!!」

っと怒りに身を任せ叱咤したのです。

ーパン!

 山猿は、顔を真っ赤にして私の頬をぶちましたの。ええ。痛かったですわ!とても痛かった!お兄様にも打ぶたれた事ないのに!!

 私を打った山猿は、一瞬動きを止め、表情を強張らせましたの。きっと私が泣くと思ったのですわね。ふふふ。私、そんな可愛らしい性格の持ち主でなくてよ?ヴィクトリア・アクヤック!プライド高い、悪役令嬢ですもの!!

 奴が怯んだその隙に、捻りと回転をかけ、扇子でバチコーンとはたき倒してやりましたわ!!勿論両面を!!
 
 倒れ込む山猿と勝利を確信する私。周りで慌てふためく大人達に、顔面蒼白な子ども達……。

 その後、その赤毛の山猿が、オズワルド皇子その人だと知った時、私は魂が抜け出るという貴重な体験しましたわー。

 オーマイゴット!
 神は、私を見捨てたもうた!!


◇◇◇

「ああっ!やってしまったわ!私ったら……」

  ラベンダー色のメルヘンチックな部屋。レースを天板から吊るされたお姫様ベッド。そのベッドでは、ぼふぼふと顔を枕に埋め、呻く私の姿が……。攻略対象と関わらずに生きようと計画していましたのに私ったら……。

  山猿(アレ)が、オズワルド皇子だなんて私、気付きませんでしたわ……うっかり攻略対象と関わるとは、なんたる失態でしょう!?

 自国の皇子を知らなかっただなんて、ほんと間抜けすぎて言葉もありませんわ!関わりたくなかったから、と絵姿すら見なかった。私が悪いのは重々承知でしてよ!赤毛という時点で気付くべきよ!いえ、最悪の出逢いですもの、寧ろグッジョブ!よくやったわ私!!

 きっとオズワルド皇子の、嫌いな令嬢ランキング1位という、輝かしい功績を成し遂げましてよ!大丈夫!皇子の婚約者ルートフラグはきっちり折りましたわ!

「あー。ほっとしたらお腹が空きましたわ。料理長におやつをせびりにいこうかしら」

 自信を取り戻し、ベッドから這い出ますわ。廊下を過ぎてコツコツと階段を降りる。踊り場にある鏡の前で、ふと立ち止まる。そこに映る金髪碧眼の美少女。自身の顔を見てにっこり笑い頷く。

 右頬に残る赤みと腫れ。先日のパーティーでオズワルド皇子に打たれた跡。これは、名誉の勲章ですわ。これひとつで、婚約者フラグをへし折れたのであれば、安い買い物。これこそ、低コストで最コスパな事案ですわ。

 「ーっいた」

 ソッと頬に触れ、顔をしかめる。幼いこども同士のトラブル。また、皇子の態度の悪さも目立っていた為、王族に手を挙げた割に大事にはならなかった。後日改めて、謝罪に出向かわなければいけないようだけれども。

 あっちが悪いのに、何故私が!!っと思うものの、相手は王族。この程度で済んで寧ろ恩赦をいただいてる……。乙女ゲームの中といえど、身分差はあるのですわ。寧ろ乙女ゲームだから、この程度で済むのよ。

 などと唸っていたら、
 ーぷっ。
  誰かが吹き出すのが聴こえましたの。

  しまったわ!ここは、自室でなく南階段の踊り場。誰かに見られる可能性が十分あったのに!!

 「誰ですの!?私を笑うのは!」

  ここで嘗められては、悪役令嬢たるヴィクトリア・アクヤックの名が廃りますわ!ここは、威圧的態度を取って先制攻撃にでるのが一番ですわね。

  胸元で腕を組み、ふんぞり反って振り向くと少年が、すまなそうな顔で笑いかけてきましたわ。貴方、階段そこから、ずっと見てましたの!?覗きは犯罪ですのよ!

 「ごめん。覗き見するつもりはなかったんだけど…君があまりにクルクルと表情を変えるから……」

 「それが、あまりに可愛くて」

  ふにゃっと微笑みかけてくる、その笑顔。

  踊り場のステンドグラスから溢れる光が、彼のその優しい柔らかな笑顔をキラキラと輝かせ、余りの眩しさに息を飲んで固まってしまいましたわ。

 「あの……貴方は?」

  唾をごくりと飲み込みながら、掠れる声でやっと言葉を口にした私に、彼はソッと近寄ると膝を付き囁きましたの。

 「俺は、ハンス。今日から君付きの執事だよ。宜しくね。お嬢様」

  片目をウィンクしながら、私の右手の甲にそっと口付けを落とした彼の姿に……胸が大きな音を立て弾むのを感じましたわ。
 




  何これ?

 やだわ?

  息切れ、動悸、目眩。クラクラするわ。
  世界が揺れる。

 「お嬢様?」

  彼の声を聴く度に、早鐘が鳴る。

 「お嬢様?大丈夫?ー顔がすごく熱いけど」

  そう言って、ハンスの手が私の左頬に触れ、その琥珀色の瞳が、心配そうに私を見つめる。

 ー運命ですわ!!

  ハッとなり、彼の手を握り叫びましたの。

 「ハンス!一目惚れよ!私と結婚してちょうだい!!」





◇◇◇ 


 ヴィクトリア・アクヤックのendのひとつに・・・・確か、執事と結婚した記述があったわ。
 それまで虐げていた執事に、下剋上され無理矢理に婚約。爵位目当ての結婚。愛なんてない悲しいendだったけども……斬首、没落、幽閉、追放endに比べれば平穏無事よね?

 それに私は、その執事に恋してしまったんですもの。

 寧ろこの執事endを目指すべきだわ!

「運命なのよ。愛してるわ。ハンス。結婚して」

 あれから、7年。私は13歳になりましたわ。

「謹んで、辞退させて頂きます。お嬢様」

 けんもほろろとは、この事ですわね。
 私は、早くハンスの婚約者になりたいのに・・・・。

 何故か、あの俺様王子の婚約者候補になってしまうなんて!

 しかも

「来月には、私・・・・学園に行かなくては行けないのよ?」

しんみりと呟いてみる。

 13歳の私は、学園に行かなくてわいけませんわ。ずっと隠していた、魔法の才能がバレてしまったから・・・・

「ハンス・・・・貴方と離れるのが辛いのよ」

目を潤ませ見つめてみる。

「お嬢様は、その閉塞的な視野を広げて、もっと周りを見るべきだと思いますよ」

 表情を変える事なく返すハンス。ヴィクトリアちゃんの悩殺上目遣いが効かないのも、貴方くらいよね。私ったら、ほんと何故こんなに手強い相手を好きになってしまったのかしら。

「それは、私に他の者に恋をしろって事かしら?」

不満気に呟くと、ハンスは苦笑しながら話す。

「俺なんかより、もっといい男なんて山程いるのに・・・・お嬢様は、いつまでたっても周りを見ようとしない。それじゃブルーテス様の杞憂もいつまで経っても解消されないんだが・・・・」

 珍しく、砕けた口調で話すハンス。私は、ハンスのこういった口調の方が、本当は好きですわ。いつの頃か、執事とお嬢様という風に、線を引かれたのを感じますの。っとハンスが畏まった態度をとるようになって・・・・私は、距離を感じ悲しく思っているのに。

「お兄様の杞憂って何かしら?私には、ハンス以上に運命の相手なんていないわ。いいわ。ハンス。4年よ。学園を卒業しても、私のこの想いが変わらなければ、私と婚約してちょうだい。結婚は、私が18歳の誕生日に。約束よ」

 そうよ。乙女ゲームのendを、今ここで決めてしまえばいいんだわ。ゲームの期間は、ヒロインが入学して卒業するまでの4年間。

 その間に私は、攻略対象も、ヒロインも避け続け、見事ハンスを勝ち取って見せるわ!

 伊達に7年間、片想いをしてなくてよ!

「そうですね。ヴィクトリア様が、私と離れて過ごしても・・・・それでも俺を想ってくれるというなら・・・・俺も真剣に応えますよ」

 眉尻を下げながら、柔らかな笑みで私の頭を撫でるハンス。

「何よ!やっぱり今までは、真剣に応えてくれてなかったのね!」

憤慨する私に、ハンスは、

「あっ。そっちに食い付いちゃうんですか・・・・参ったな・・・・」

っと口元を抑え、視線を反らす。

 まぁ! やっぱり真剣に取ってもらえてなかったのね!酷いですわ!
 いいわハンス、覚悟なさい!必ず貴方を落として差し上げてよ?私の愛の重さを想い知るがいいのですわ!!
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