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第63話 すみっこ暮らしが落ち着くタイプ(1)

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 お昼前、俺とみかちゃんは近所の空き地に到着した。



「アタシを待たせるなんてぇ、いい度胸ねぇ。マスターぁー」



 先に来ていたアイが、俺を見てニイッっと笑った。



「ごめんごめん。彼女たちへの差し入れを買ってたらちょっと遅くなった。――でも、もうちょっと早く来た方がよかったかもな」



 建ち並ぶコンテナハウスの金属質の光沢が、秋晴れの空に眩しい。



 俺の目の前には、洋の東西を問わず、様々な人種の女の子たちが整列している。



 その数、およそ二十人ほど。



 アイちゃんに適正審査という名の、『かわいがり』をされて、普通に負傷してる娘もいる。



「みんな、調子はどう?」



 俺は、目からハイライトが消えた女の子たちを見渡して言った。



「「「「「「「はい。マスター。異常ありません」」」」」」」



 女の子たちが、全く同じタイミングで、抑揚のない声で答える。



 ここで言う『異常ない』は、『血が出てても手足が動くからセーフ』程度の意味だ。



(一応、精神のロックは解除されてるはずだけど、まだ感情を完全には取り戻せてないか)



 俺は彼女たちに憐憫の視線を向ける。



 彼女たちは、スキュラから買い取らせてもらった新たな人材である。アイちゃんの治癒成功を受け、実績を証明した俺に対し、ママンが融通を効かせてくれた形だ。無論、最近の映画の成功で神社への参拝者が増えたので、たまちゃんのヒーリングパワーが貯まったからという事情もある。



 とはいえ、蛭子クラスだとたまちゃんの負担が大きすぎるしお値段がアホみたいに高いので、比較的軽傷なプラナリアから選抜することと相成った。無論、原作には名前も登場しないようなモブだ。



「異常がないって、みんな、怪我してるじゃない! ゆうくん、早くお手当してあげないと!」



「ありがとう。みか姉。お願いできるかな。右の奥のコンテナハウスに救急箱が置いてあると思うから」



「任せて!」



 みかちゃんがコンテナハウスへと走って行く。まあ、下級とは言え、彼女たちはスーパー人間なので、放っておけば、寝て、朝起きる頃には治ってるだろうけどね。みかちゃんに『普通』を教えてもらって、一般社会に馴染んでもらう必要もあるので。



「――で、アイ。試験の結果はどう? まさかただ彼女たちをいじめてた訳じゃないよね?」



「戦士としての見込みがあるのは、せいぜい、二人かしらぁ。マスターの言う、教練次第でなんとかなるかもぉ? が、六人くらい? 後は救い様のない雑魚ねぇ」



 アイちゃんが退屈そうに欠伸して言った。



 まあ、基本、放っておいたら、ママンによって実験材料にされて、ポイされちゃうような娘たちだからな。八人も見込みがあるなら上々だろう。



「わかった。じゃあ、その合計八人をシエルが手配してくれた教官の所に、訓練に出そう。アイも定期的に稽古をつけてあげてね」



 シエルサイドに取り込まれないように、手綱は常にこっちが握っておかなくては。



「それでぇー、残りはどうするのぉー? いらないならぁー、アタシのおもちゃにしてもいいかしらぁー。新しい技の実験台が欲しいのよぉー」



 アイちゃんが舌なめずりして、手の平で『残り』の娘たちの頬をぺちぺちとやる。



 何人かが、ビクっと肩を震わせた。



「ダメだよ。俺が保護した以上、彼女たちの命を粗末に扱うことは許さない。それに、戦う以外にも、仕事はいっぱいあるんだから」



 事情を知らない普通の人間を雇って、私兵をオペレーションさせる訳にもいかない。使える裏方も育てる必要がある。



「ふふふ、さすがマスターぁ。優しいわねぇー。じゃあ、アタシのおもちゃは、マスターが代わりに用意してくれるってことでいいのかしらぁー」



 アイちゃんが猫撫で声で言う。



「考えておくよ。『アテ』はある」



 俺は真剣な表情で頷いた。



 下部団体とはいえ、ヤクザを組ごと潰して、映画で全国ロードショーしちゃったからね。面子を潰された上が出張ってくることは覚悟の上だ。当然、身にかかる火の粉は振り払わなければいけない。



「――ふうー。ようやく準備が出来たわ。みんな、並んで!」



 洗面器に水を汲み、救急箱を片手に持ったみかちゃんが、コンテナから帰ってくる。



 日頃、やんちゃ坊主(俺)や怪我をしやすいドジっ娘の世話をしているだけあって、手際がいい。



 みかちゃんは滞ることなく、さっさとママンのビクティムガールズたちの手当てを終えた。

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