61 / 65
第61話 アイドルはコメント力がものを言う
しおりを挟む
『――という訳で、今日はなんと、ゲストに、アイドルにして、最近は女優としても大変ご活躍の、小日向小百合さんに来て頂きましたー』
バラエティ系情報番組の司会者が、朗らかに言う。
『よろしくお願いします』
拍手に出迎えられ、椅子に座った小百合ちゃんは照れくさそうにはにかみながら頭を下げた。いつまでも失われないこの初々しさが彼女の人気の秘訣である。
「あー、小百合ちゃんだー!」
「最近、ますます大人気よね」
ぷひ子とみかちゃんが親しみの籠った声で言った。ただでさえ娯楽の少ない田舎なので、こんな所までわざわざ来てくれた芸能人への村人からの好感度は高い。
『さて、早速ですが、小百合さんはアイドルとしての不動の人気はもちろん、最近では、皆さんもご存じの、【君の名を時に刻んで】の体当たりの熱演が大変話題になりました。昨日、【キミキザ】が邦画の歴代興行収入を塗り替えたとの一報もありましたが、その辺り、どう思われますか?』
『そうですね……。映画の成功については、白山監督を始めとして、他のスタッフの皆さん全員の努力の賜物ですので、一演者の私が言えることはあまり多くないのですが、とにかく、あの素晴らしい映画を多くの人に観てもらえているということが、純粋に嬉しいです』
『またまたー、ご謙遜を。一部、インターネット掲示板の噂によると、あなたの圧倒的なオーラにほだされて、本物のヤクザが改心し、組をたたんだという小百合伝説がまことしやかに流れていますが!』
『それは嘘です! 私にはそんな力はありませんよ! 彼らが改心したのは、祐樹くん――プロデュ―サーさんが、社会貢献事業の一環として、優れた再生プログラムを組んだおかげだと伺ってます』
小百合ちゃんが首をブンブン横に振って否定する。
俺の名前を出さないでくれって言ってるんだけどなあ。小百合ちゃんは根が正直だから、嘘がつけないんだよね。
ちなみに、今は司会が冗談半分で言ってるが、小百合ちゃんにはガチの精神感応系の力がある。
第三作において、成長した小百合ちゃんは歌の力で国民全部に精神的にバフをかける強キャラとなっているのがその証拠だ。
『出ました! 突如、彗星の様に映画界に現れた、名プロデュ―サー兼、天才子役。一部では話題作りのためのヤラセではないかという心無い噂もありますが……。確か、脚本の子や小百合さんの子ども時代役の子も、地元の小学生だと聞いています』
司会の男がここぞとばかりに突っ込んだ。
そりゃ気になるよね。
白山監督もインタビューでやたらに俺や祈ちゃんを持ち上げてくれてるしな。
(映画が大ヒットしたのはよかったが、弊害もあるなあ……)
やはり、何事も完璧にはいかないものだ。
映画は俺の想定以上の売行きとなり、白山監督はキャリアを完全に取り戻し、小百合ちゃんは女優としての華々しい一歩を踏み出した。映画の舞台として、神社は有名になり、俺がテレビでCMを打ちまくったこともあって、参拝客も爆増している。それはすなわち、たまちゃんの生活が豊かになり、浄化パワーも溜まりに溜まっているということを意味する。
それらは全て、文句なしに良いことだ。
望ましくなかったのは、俺とアイちゃんにも少なからぬファンがついたことである。
後ろ暗いことにも手を染めてる俺とアイちゃんにとって、有名になることは望ましくない。
まあ、でも、世間の話題が流れるのは早い。このままメディアへの塩対応をしてればその内、俺とアイちゃんへの興味も落ち着くだろう。それまでは、まあ、町を歩いていて、聖地巡礼に来たファンに「写真撮ってください」って言われれば応じるくらいのサービスをしてやれば十分だ。
『そうですよね。にわかには信じがたい話だとは思いますが、それに関しては本当です。私が保証します。脚本家の祈ちゃんも祐樹くんもアイちゃんも、誰かの操り人形だということは絶対にありません』
小百合ちゃんが真剣な表情で言う。
『だとすると、ますます気になりますねえ。あまり表に出てこられないようですが、どのような方々なのでしょう。』
『彼らはあまりプライベートを明らかにすることを望んでいないようですので、私がアレコレ言う訳には――。ごめんなさい。でも、とてもいい子たちですよ』
どうだろうなー。本当にいい子かなー。俺と祈ちゃんはともかく、アイちゃんは微妙なところだろうな。
『わかりました。では、お相手役の西入大介さんについてはどうでしょう。映画が素晴らしかっただけに、一部の小百合ファンは、現実世界でも映画と同じような関係になってしまうのではと、戦々恐々としております』
司会が、「ここからが本題だ」とばかりに、力を入れて言う。
『えっと、素晴らしい俳優さんだとは思いますが、私は連絡先も知りませんので……。向こうも大変お忙しいみたいですし、あれから一度もお会いできてません』
小百合ちゃんは困惑したように答えた。
『ほうほう。ここは、そういうことにしておきましょう。では、好みの男性のタイプは?』
『そうですねえ……。エネルギッシュで、仕事に対して真摯で、思いやりのある男性、でしょうか』
小百合ちゃんがしばらく逡巡してから言った。
『西入さんでないとすれば――それは白山監督のような、でしょうか』
『ええ、ああ、そうか。この文脈だと、そうとられてしまいますよね。でも、白山監督はご結婚されてますよ』
『おおっと、今の答えは、白山監督以外に、具体的に思い浮かべるような気になる男性がいらっしゃると解釈してよろしいですか?』
『ふふっ――どうでしょう。アイドルは恋愛禁止ですから』
小百合ちゃんは、含みをもたせた笑みを浮かべた。
バラエティ系情報番組の司会者が、朗らかに言う。
『よろしくお願いします』
拍手に出迎えられ、椅子に座った小百合ちゃんは照れくさそうにはにかみながら頭を下げた。いつまでも失われないこの初々しさが彼女の人気の秘訣である。
「あー、小百合ちゃんだー!」
「最近、ますます大人気よね」
ぷひ子とみかちゃんが親しみの籠った声で言った。ただでさえ娯楽の少ない田舎なので、こんな所までわざわざ来てくれた芸能人への村人からの好感度は高い。
『さて、早速ですが、小百合さんはアイドルとしての不動の人気はもちろん、最近では、皆さんもご存じの、【君の名を時に刻んで】の体当たりの熱演が大変話題になりました。昨日、【キミキザ】が邦画の歴代興行収入を塗り替えたとの一報もありましたが、その辺り、どう思われますか?』
『そうですね……。映画の成功については、白山監督を始めとして、他のスタッフの皆さん全員の努力の賜物ですので、一演者の私が言えることはあまり多くないのですが、とにかく、あの素晴らしい映画を多くの人に観てもらえているということが、純粋に嬉しいです』
『またまたー、ご謙遜を。一部、インターネット掲示板の噂によると、あなたの圧倒的なオーラにほだされて、本物のヤクザが改心し、組をたたんだという小百合伝説がまことしやかに流れていますが!』
『それは嘘です! 私にはそんな力はありませんよ! 彼らが改心したのは、祐樹くん――プロデュ―サーさんが、社会貢献事業の一環として、優れた再生プログラムを組んだおかげだと伺ってます』
小百合ちゃんが首をブンブン横に振って否定する。
俺の名前を出さないでくれって言ってるんだけどなあ。小百合ちゃんは根が正直だから、嘘がつけないんだよね。
ちなみに、今は司会が冗談半分で言ってるが、小百合ちゃんにはガチの精神感応系の力がある。
第三作において、成長した小百合ちゃんは歌の力で国民全部に精神的にバフをかける強キャラとなっているのがその証拠だ。
『出ました! 突如、彗星の様に映画界に現れた、名プロデュ―サー兼、天才子役。一部では話題作りのためのヤラセではないかという心無い噂もありますが……。確か、脚本の子や小百合さんの子ども時代役の子も、地元の小学生だと聞いています』
司会の男がここぞとばかりに突っ込んだ。
そりゃ気になるよね。
白山監督もインタビューでやたらに俺や祈ちゃんを持ち上げてくれてるしな。
(映画が大ヒットしたのはよかったが、弊害もあるなあ……)
やはり、何事も完璧にはいかないものだ。
映画は俺の想定以上の売行きとなり、白山監督はキャリアを完全に取り戻し、小百合ちゃんは女優としての華々しい一歩を踏み出した。映画の舞台として、神社は有名になり、俺がテレビでCMを打ちまくったこともあって、参拝客も爆増している。それはすなわち、たまちゃんの生活が豊かになり、浄化パワーも溜まりに溜まっているということを意味する。
それらは全て、文句なしに良いことだ。
望ましくなかったのは、俺とアイちゃんにも少なからぬファンがついたことである。
後ろ暗いことにも手を染めてる俺とアイちゃんにとって、有名になることは望ましくない。
まあ、でも、世間の話題が流れるのは早い。このままメディアへの塩対応をしてればその内、俺とアイちゃんへの興味も落ち着くだろう。それまでは、まあ、町を歩いていて、聖地巡礼に来たファンに「写真撮ってください」って言われれば応じるくらいのサービスをしてやれば十分だ。
『そうですよね。にわかには信じがたい話だとは思いますが、それに関しては本当です。私が保証します。脚本家の祈ちゃんも祐樹くんもアイちゃんも、誰かの操り人形だということは絶対にありません』
小百合ちゃんが真剣な表情で言う。
『だとすると、ますます気になりますねえ。あまり表に出てこられないようですが、どのような方々なのでしょう。』
『彼らはあまりプライベートを明らかにすることを望んでいないようですので、私がアレコレ言う訳には――。ごめんなさい。でも、とてもいい子たちですよ』
どうだろうなー。本当にいい子かなー。俺と祈ちゃんはともかく、アイちゃんは微妙なところだろうな。
『わかりました。では、お相手役の西入大介さんについてはどうでしょう。映画が素晴らしかっただけに、一部の小百合ファンは、現実世界でも映画と同じような関係になってしまうのではと、戦々恐々としております』
司会が、「ここからが本題だ」とばかりに、力を入れて言う。
『えっと、素晴らしい俳優さんだとは思いますが、私は連絡先も知りませんので……。向こうも大変お忙しいみたいですし、あれから一度もお会いできてません』
小百合ちゃんは困惑したように答えた。
『ほうほう。ここは、そういうことにしておきましょう。では、好みの男性のタイプは?』
『そうですねえ……。エネルギッシュで、仕事に対して真摯で、思いやりのある男性、でしょうか』
小百合ちゃんがしばらく逡巡してから言った。
『西入さんでないとすれば――それは白山監督のような、でしょうか』
『ええ、ああ、そうか。この文脈だと、そうとられてしまいますよね。でも、白山監督はご結婚されてますよ』
『おおっと、今の答えは、白山監督以外に、具体的に思い浮かべるような気になる男性がいらっしゃると解釈してよろしいですか?』
『ふふっ――どうでしょう。アイドルは恋愛禁止ですから』
小百合ちゃんは、含みをもたせた笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)
@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」
このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。
「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。
男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。
「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。
青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。
ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。
「カクヨム」さんが先行投稿になります。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる