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第41話 愛の形は人それぞれ(2)
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「……なんですか。業務時間中には連絡しないようにと言ってあるでしょう」
とか言いつつ電話に出てくれるママン。でも、今日は許さないよ。ママン。
「あの、母さん。みか姉に、例の融資のこと、バラした? 俺、援助すること、みか姉には知らせないでって言ったよね」
「いえ、あの子本人には何も言ってませんよ。あの子の両親には伝えましたが」
いや、それって同じことじゃん。ママン、そんなことくらい察せないアホじゃないじゃん。絶対わざとじゃん。
「……伝えただけ? それだけなら、見栄っ張りのみか姉の両親が、みか姉に真実を話すとは思えないんだけど」
「――個人的な感想として、『私は恩知らずが嫌いです。ビジネスはギブ&テイクだと知りなさい』と付け加えましたが、何か問題でも?」
ママンは声色を一切変えず、悪びれる様子もなく、クールにそう返答する。
「問題おおありだよ。それ完全に脅しじゃん。そもそも、みか姉の両親はテイクを払えないからああなってる訳でさ」
「ええ。だから、『金を返せないなら、せめて誠意を見せるべきです。時に、あなたの娘と私の息子はとても仲良くしているそうですね』と伝えました。私は一般論と事実を述べただけです。たとえ録音されていたとしても、脅迫罪にあたるような言動は一つもありませんよ」
「そういう言葉遊びはいいからさ。現実問題、みか姉が、今、家に来てるんだよ。彼女に恩を着せるようなことをしたくないって、俺の気持ち、わからない?」
「ふう。いいですか。祐樹。覇道を歩むなら、着せた恩は相手に刻み、受けた恩は忘れなさい。人は恩を忘れやすく、恨みはいつまでも覚えている生き物ですから」
そこで、ママンは、初めて母親らしい愛情を覗かせる声色で、言い聞かせるように言った。
これがママンなりの俺へのラブの表現なんだってことはわかってるが、全く狂ってやがるぜ。
そもそも、七歳児に言うセリフじゃないよね。それ。
でも、まあ、権力を求めるということは、覇道になるのか?
「母さんの言うことが正しいとしても、親の借金とみか姉は関係ないでしょ。彼女を俺のところにけしかけるのはやりすぎだよ。ほら、男女七歳にして席を同じうせずとも言うしさ。あんまり、今から女の子と親しくしすぎるのは、ね?」
「それは嘘です。女に慣れるのは、早ければ早い方がいいのです。そして、できれば、信頼できる、口の堅い、有能な愛人を今の内から作っておきなさい」
「母さん? 一体、何言ってるの?」
「わかりませんか? あなたも、日々目にするでしょう。大きな成功を収めた、政治家や芸能人が、くだらない女性スキャンダルでその地位を失うのを。そのようなことがないように、今から、適切に欲望を処理できる女を準備しておきなさい。私の調べたところ、あの両親に似合わず、娘は聡明な人間のようです。今から囲っておいて損はないでしょう」
くそっ。みかちゃんが有能すぎるのが仇になったパターンか。これがぷひ子なら、ママンも俺のところに寄越そうとは思わなかっただろう。
「あのさ。俺の目的、わかってくれてる? 俺は、みか姉を守りたいんであって、束縛したいんじゃないんだよ」
「守ればいいでしょう。それともなんですか? あの無能な両親より、あなたの手駒になる方が不幸だと? そのような環境しか用意できないのなら、覇道など到底無理です。身内に甘い汁を吸わせてやれないような人間に、ヒトがついてきますか?」
「そういうことじゃないんだけど。みか姉はそういう甘い汁をもらっても喜ぶタイプじゃないし」
「金銭的な利益だけが『甘い汁』とは限りませんよ。相手の求める物を適切に把握し、コントロールせよと言っているのです」
だからやってるよ。フラグ管理だけどな! 今、お前のせいでぶち壊されたけどな!
あー、だめだこれ。話通じねえ。マッドママンを甘くみてたなあ。そりゃ、相手も人間だ。俺に都合よく使われるだけの存在じゃないよね。
キー。カチャ。
そうこうしている内に、みかちゃんが風呂から出てくる音が聞こえた。ちっ。ここまでか。
「とにかく、今度、こういうことをする時は、事前に相談して欲しいな。ビジネスは信頼関係でしょ?」
「……前向きに善処します」
うわっ。絶対言うこと聞かねーよこのママン。
俺はある種の諦念とともに電話を切った。
とか言いつつ電話に出てくれるママン。でも、今日は許さないよ。ママン。
「あの、母さん。みか姉に、例の融資のこと、バラした? 俺、援助すること、みか姉には知らせないでって言ったよね」
「いえ、あの子本人には何も言ってませんよ。あの子の両親には伝えましたが」
いや、それって同じことじゃん。ママン、そんなことくらい察せないアホじゃないじゃん。絶対わざとじゃん。
「……伝えただけ? それだけなら、見栄っ張りのみか姉の両親が、みか姉に真実を話すとは思えないんだけど」
「――個人的な感想として、『私は恩知らずが嫌いです。ビジネスはギブ&テイクだと知りなさい』と付け加えましたが、何か問題でも?」
ママンは声色を一切変えず、悪びれる様子もなく、クールにそう返答する。
「問題おおありだよ。それ完全に脅しじゃん。そもそも、みか姉の両親はテイクを払えないからああなってる訳でさ」
「ええ。だから、『金を返せないなら、せめて誠意を見せるべきです。時に、あなたの娘と私の息子はとても仲良くしているそうですね』と伝えました。私は一般論と事実を述べただけです。たとえ録音されていたとしても、脅迫罪にあたるような言動は一つもありませんよ」
「そういう言葉遊びはいいからさ。現実問題、みか姉が、今、家に来てるんだよ。彼女に恩を着せるようなことをしたくないって、俺の気持ち、わからない?」
「ふう。いいですか。祐樹。覇道を歩むなら、着せた恩は相手に刻み、受けた恩は忘れなさい。人は恩を忘れやすく、恨みはいつまでも覚えている生き物ですから」
そこで、ママンは、初めて母親らしい愛情を覗かせる声色で、言い聞かせるように言った。
これがママンなりの俺へのラブの表現なんだってことはわかってるが、全く狂ってやがるぜ。
そもそも、七歳児に言うセリフじゃないよね。それ。
でも、まあ、権力を求めるということは、覇道になるのか?
「母さんの言うことが正しいとしても、親の借金とみか姉は関係ないでしょ。彼女を俺のところにけしかけるのはやりすぎだよ。ほら、男女七歳にして席を同じうせずとも言うしさ。あんまり、今から女の子と親しくしすぎるのは、ね?」
「それは嘘です。女に慣れるのは、早ければ早い方がいいのです。そして、できれば、信頼できる、口の堅い、有能な愛人を今の内から作っておきなさい」
「母さん? 一体、何言ってるの?」
「わかりませんか? あなたも、日々目にするでしょう。大きな成功を収めた、政治家や芸能人が、くだらない女性スキャンダルでその地位を失うのを。そのようなことがないように、今から、適切に欲望を処理できる女を準備しておきなさい。私の調べたところ、あの両親に似合わず、娘は聡明な人間のようです。今から囲っておいて損はないでしょう」
くそっ。みかちゃんが有能すぎるのが仇になったパターンか。これがぷひ子なら、ママンも俺のところに寄越そうとは思わなかっただろう。
「あのさ。俺の目的、わかってくれてる? 俺は、みか姉を守りたいんであって、束縛したいんじゃないんだよ」
「守ればいいでしょう。それともなんですか? あの無能な両親より、あなたの手駒になる方が不幸だと? そのような環境しか用意できないのなら、覇道など到底無理です。身内に甘い汁を吸わせてやれないような人間に、ヒトがついてきますか?」
「そういうことじゃないんだけど。みか姉はそういう甘い汁をもらっても喜ぶタイプじゃないし」
「金銭的な利益だけが『甘い汁』とは限りませんよ。相手の求める物を適切に把握し、コントロールせよと言っているのです」
だからやってるよ。フラグ管理だけどな! 今、お前のせいでぶち壊されたけどな!
あー、だめだこれ。話通じねえ。マッドママンを甘くみてたなあ。そりゃ、相手も人間だ。俺に都合よく使われるだけの存在じゃないよね。
キー。カチャ。
そうこうしている内に、みかちゃんが風呂から出てくる音が聞こえた。ちっ。ここまでか。
「とにかく、今度、こういうことをする時は、事前に相談して欲しいな。ビジネスは信頼関係でしょ?」
「……前向きに善処します」
うわっ。絶対言うこと聞かねーよこのママン。
俺はある種の諦念とともに電話を切った。
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