泣きゲーの世界に転生した俺は、ヒロインを攻略したくないのにモテまくるから困る――鬱展開を金と権力でねじ伏せろ――

穂積潜

文字の大きさ
上 下
21 / 65

第21話 眼鏡っ娘は衰退しました(2)

しおりを挟む
(ああ、ほら。引いてる。眼鏡っ娘の人見知りスキルがめっちゃ発動してんじゃん)



「……」



 突如話しかけられた眼鏡っ娘は、急に押し黙り、俺っ娘を警戒の眼差しで見つめた。



 眼鏡っ娘と俺っ娘は、作中での絡みはほぼない。でも、コンプレックスの塊である眼鏡っ娘はこういう、よくいえば豪快な、悪く言えば無神経な陽キャは絶対嫌いだからな。長く接触させとくとストレスがヤバイ。引き離すか。



「ほら。ここ図書館だからさ、もうちょっと声を落として」



 俺は『本当は俺もはしゃぎたいんだけど』的なニュアンスも出しつつ、俺っ娘をたしなめる。



「ワリィ、ワリィ。オレ、普段は図書館なんてこねーんだけどさ。虫捕りにいくはずだった森が急に立ち入り禁止になっててよ。クーラー目当てで涼みにきたんだ。ったく、オオクワいっぱいとりてーから、わざわざばーちゃん家に帰省したっつうのに、ついてねえぜ」



 オレっ娘が声のボリュームを下げて言う。



 あ、それ完全に俺のせいっすね。すいません。でも、おかげで俺っ娘ちゃんが、ぬばたまの姫の呪いを浴びて進化したヤバ蟲にさされて昆虫人間になっちゃうピンチはなくなったんだから、感謝してくれてもいいんだよ?



「森には近づかない方がいいよ。怖いおじさんが見張ってるらしいし」



 もちろん、俺が雇ったんだけど。



「だよなー。忍び込もうと思っても無理だったわ。よっぽどスゲーのが採れるのかな。ヘラクレスオオカブトとかよ!」



 オレっ娘は、もう図書館では静かにするというマナーを忘れたのか、再び興奮気味に言った。



「ヘラクレスオオカブトは中央アメリカから南アメリカに分布しています。日本にはいませんよ」



 眼鏡っ娘は、俺っ娘に冷たい視線を注ぎながら言った。



「ふーん。まあ、いいや! 涼んだし! 水も飲んだし! これから、外でかくれんぼしようぜ! だるまさんが転んだとかでもいいぞ」



 でも、俺っ娘は基本鈍感なので、眼鏡っ娘の抱いている悪感情には気付かずにそんなことを言う。ほんと水と油。相性悪いね。眼鏡っ娘も俺っ娘も、不人気ジャンル同士、仲良くやればいいのに。



 後、かくれんぼとか、かごめかごめとか、だるまさんんが転んだとか、わらべ遊び系をやると伝奇的にヤバイフラグが立つからNG。



「俺も行きたいけど、夏休みの宿題が終わってないから、やらなくちゃいけないんだ。幼馴染も待たせてるし」



「そんなのやらなくてもいいだろ。どうせ小学生には退学もねえしな。宿題を全部踏み倒したところでどうってことないぜ!」



「『精神的に向上心のない者はばかだ』」



 眼鏡っ娘がボソりと呟く。



「ああ!? なんだ、喧嘩売ってんのか? お前」



「いえ。読書感想文の構想を練ってただけです。他意はありません」



 眼鏡っ娘は、本棚の旧千円札おじさん作の『こころ』の背表紙を撫でていった。



 眼鏡っち、さっき、走れメロスで終わらせたって言うてましたやん。キミ。



「ったく、なんかよくわかんねーけど、暗いなー。オサゲメガネもちょっとは外に出ねーと、その内、オケラになっちまうぜ」



「素敵なあだ名をつけて頂き、ありがとうございます。お返しに私からも――あなたは、虫がお好きなんですね。では、ザムザさんなんていかがでしょう」



 この上なく安直なあだ名をつけられた眼鏡っ子は、チクりと刺すような声でいった。



 やめましょうよ。毒虫と俺っ娘ちゃんの組み合わせはマジで洒落にならないから!



 俺っ娘ちゃんは、本当にある朝起きたら毒虫になっていちゃう可能性を秘めてるリアルカフカ系女子だから!



「おっ、何か知らないけど、ロボットみたいでかっこいいな! 気に入ったぜ! そいつは変形するのか?」



「変形はしませんが、変身はしますよ」



「へー、いいじゃん! 虫で変身ってことは、やっぱり、ライダー系か? じゃあ、今日はみんなでザムザごっこするか! どんなキャラか教えてくれよ!」



「え、ちょっちょっと!」



 俺っ娘が眼鏡っ娘の腕を引いて連れていこうとする。



 眼鏡っ娘は、知的キャラのテンプレに乗っ取り、舌戦には強いが、物理攻撃には弱いのよね。



「おいおい、待って。悪いけど、その子は俺の方が先に約束してたんだよ。読書感想文の書き方を教えてもらう予定でさ。そうだよね?」



「は、はい……」



「なんだよ。チェッ。つまんねーの」



「ごめんね。お詫びと言ったらなんだけど、今度、川釣りでもする? イワナがよく釣れるスポットを教えるよ。竿も倉庫にあるから」



「おっ、本当か! 約束だぜ。オレは、翼。鳥羽翼(とばつばさ)」



「成瀬祐樹。よろしく」



 気さくに握手を求めてくるオレっ娘――翼の手を、俺は握り返した。



「んで、お前ん家はどこらへん?」



「庭にトーテムポール――変な置物がある家だよ」



「あー、あそこか! わかったぜ! じゃ、今度、行くからよろしくな!」



 翼は颯爽と去って行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...