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第17話 臭い物には蓋をする

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「はーい! コンクリミキサー車さん、一丁、クレーン車さん一丁、入りまーす!」



 古の時代から続く拝殿の敷地に、現代文明が土足で踏み込むぜ。



「石櫃できてます? おっけー。ここらは、危ないので俺がやりますね」



 クレーン車によって、プルトニウムをぶち込んでも大丈夫そうな分厚い直方体のコンクリートの棺が、拝殿の前にズンッっと降ろされる。



 俺は、拝殿の奥から、例の呪いの鏡が入った箱を持ち出してきて、その石櫃の中に安置した。



 あっ、もちろん、言うまでもないけど、呪いの鏡を物理破壊しようもんなら、呪いがあふれ出して世界が終了します。っていうか、今俺がやってるみたいに箱越しに触るだけでも、結構やばいからね。ぬばたまの呪いに耐性のない一般人が触れたら普通に頭おかしくなるやつやで。



「はい。準備おっけーです! では、じゃんじゃん、コンクリ流し込んじゃってください!」



 ミキサー車がドロドロで灰色の液体を石櫃に流し込んでいく。



 臭い物には蓋をしろ! フラグの塊は完全封鎖だ!



『絡み合う六本指。髑髏の塔。逆子のかごめかごめ。贄月――》



 あれれー? 幻聴が聞こえてきたぞー? これはラスボスちゃまかな? なんか不気味なこと言って脅してくるけど、俺は全部の真相を知ってるから何も怖くないよ? んー、負け犬の遠吠え気持ぢいいー!



「では、次はちょっちゅ社を再建してあげましょうねー」



 俺は沖縄方言風にそう宣言した。



 俺だって鬼ではない。鞭だけではなく、飴も与えてやるナイスガイな一面もある。長年忘れされた社を新築してあげよう!

 ただし、四方も床も天井も、何重にもコンクリと鉄扉で囲んで、入り口も出口もない完全密室だがな! もし中で殺人が起きたら探偵がユニバーサルペコペコの舞で喜ぶくらいの密室だ! もしくは、開ける方法の存在しない金庫と言い換えてもいい。



 これが完成すれば、ラスボスがヒロインを操って、夢遊病ナビで拝殿へ召喚し、ご神体を強制解放しようとしても何の問題もない。素手やスコップではコンクリは破壊できないからな。



 よかったね。和風ホラーは物理攻撃弱めで。これが西洋のムチャするクリーチャーだったら危なかったよ。



 ポロロロロロン。ボロロロロロロロロ!



『あなたを産んだことが、私の人生で一番の汚点です』



 壊れて不協和音を奏でるオルゴールの音色。よぎる若きママンの幻影。



 おっ、今度は幻聴と幻覚のコンボだ。主人公のトラウマをえぐる的な精神攻撃ですか。でも、それ、主人公くんのトラウマであって、俺のじゃねーから。



 ちなみに俺のトラウマは、30連勤で自律神経がお逝きになって、電車の中でうんこ漏らしたことです、ばーか!



『……』



 あっ。とうとう万策尽きて、ぬばたまの君 (しんわのすがた) が出て来た。



 ラスボスとはいえ、トゥルーエンドのヒロインだけあって、見てくれはかなり気合が入っている。



 容姿は一言で表現するなら、雪女系だね。全身真っ白。



 なんで白いのにぬばたまの君って名前がついたのって? それは、ここにいる黒兎くんを騙した白兎くんとのエピソードが関係してくるよ! その先は君自身の目で確かめてみよう(ファ〇通感)。



 俺は完全無視を決め込んで工事の進捗を見守る。



 その内、いやがらせを止め、もはや何も言わず、恨めしげにじっとこちらを見てくるぬばたまの君。時折白目剥いたり、歯をガチガチされて貞〇的なムーブをしてるけど、気にしない気にしない。

 つーか、めっちゃ怒ってるじゃん。ウケる! でも、大丈夫。本体ならやばいけど、このご神体の鏡は、ハ〇ポタで言う所のお辞儀兄貴の分霊箱だから。



 大体、こんなプレッシャー、リーマンショックがあったのに前年比以上のノルマを詰めてきたクソ上司の圧に比べれば屁でもないわ! 元社畜を舐めるな!



 はー、早く終わらねーかな。でも、俺がここでご神体から漏れ出る呪いへのメイン盾になっておかないと、ホラー定番のアレで事故が起こりまくって、工事が進まなくなる。



 あー、みみずばれめっちゃ出て来た。痛えー。腹とかはパックリ割れて、聖痕とか浮き出てきてるし。つーか、古代の甲骨文字とか読めないからね? どうせなら絵文字とかにしてくれてもいいんだよ。



 優秀なマッチョメンたちが、朝から日が暮れるまで作業して、工事は完了した。



 別に人が住むわけでもない、ぶっちゃけていえば、大きなゴミ箱を作るだけなので、住居のような手間はかからない。



「皆様、お疲れ様でした。では、報酬はスイス銀行の方へたんまりと」



 実際はスイス銀行か知らんけど、適当言ってみた。パーフェクトな仕事をしてくれた彼らに、頭を下げる。



 マッチョメンたちは、ノリよく上腕二頭筋に力こぶを作って応じてくれた。



(よしっ。後は、ロリババアの置き土産にヘイトを移して、と)



 俺はさっきもらったばかりの護符を身体の至る所にできた傷口に押し当てる。



 最初は白かったのに、どんどん黒く汚れていく護符。治っていく俺の身体。最後には、呪いと祓いの祈りが相殺されて、護符もはじけて消える。



 それに伴って、俺の五感を苛んできた、幻聴や幻影も消えた。



 サンキューロリババア。



 まあ、あれだ。原理的にはソ〇ルジェムみたいなもんです。



「ふうー。めっちゃ働いたー。帰るぞ兎! 鰐食おうぜ! 鰐!」



「ぴょん!」



 兎と一緒に、家路を急ぐ。



 無論、ぬばたまの姫の呪いはむっちゃ強いから、この程度で全てのフラグを折れる訳ではない。

 だけど、ぬばたまの姫巫女としての素質がない=呪いの血が濃くないサブヒロインたちのストーリーでは、拝殿との物理的接触がトリガーとなって、イベントが発生することがままある。



 つまり、拝殿はぷひ子と同じくらいの地雷原なのだ。そんな拝殿に起因する様々なアクシデントの発生を未然に防ぐためには、やっておいて損はない作業だという訳である。



 あ、もちろん、ぷひ子とかメイン級のキャラは、ぬばたまの姫との関係性が鬼強いので、この程度の対策じゃ意味ないっす。夢やら予知夢やら白昼夢やら、バリバリ精神干渉されて闇墜ちすることもあるので、まだまだ全然気が抜けない。



 まあ、そんな事情は置いておいて、今日の所は、俺の計画が一歩前進したことを喜ぼう。
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