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第10話 ギャルゲー特有の謎生物
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「よし! 一気に釣り上げるぞ!」
「ぷひひ、頑張る!」
ぷひ子とタイミングを合わせて、一気に竿を上げる。
「ぴょええええええええええええええ!」
篠笛にも似た奇声を上げて姿を現した獲物は、一匹の黒い兎だった。
その外見は一言でいうなら、不思議の国のアリスに出てくる兎の和風バージョンだ。
漢数字の書かれた懐中時計をつけ、祭りの法被のようなものを着こんで、二足歩行が可能なやつである。
「わ、わ、わ!」
「え、え、え!?」
突如出現したファンタジー生物に、ぷひ子は竿を取り落とし、みかちゃんはタモを手放した。
ゲーム上ではあくまで今回はこの兎のお披露目シーンに過ぎず、『主人公も二人と一緒にびっくりして、突如現れたこの謎の生物が逃げていくのを呆然と見送る』というのが正規ストーリーだが――
(逃がさねーぞ! 便利アイテムがコラ!)
俺は半ズボンの鰐皮のベルトを外し、黒ウサギを一瞬で縛り上げる。
「ぴょええええええ! ぴょ、ぴょ、ぴょぴょぴょ……」
威勢のよかった黒兎は、ベルトを見た途端大人しくなり、素直にお縄についた。
(よし。やっぱり、鰐皮アイテムは有効か)
こいつはもちろん、普通のウサギではない。鰐製以外の紐や縄で捕まえようとしても、容易く逃げられてしまう。なんせ、こいつは時間や空間を飛び越える能力を持った通称『時空兎』だ。
大抵の物理攻撃なんぞ無効化してくる。
ちなみになんで鰐皮が効くかというと、実はこいつは神話の闇に葬られた因幡の『黒』兎だからである。こいつはかつて白兎と同様の働きをしたが、白兎に騙されて救済を得られなかったという悲しき過去を持っていて、鰐が苦手という設定だが、今は特に覚える必要はない。
今、大切なのはこのギャルゲーにありがちな謎生物は、実はこのゲームのシリーズ通して登場する重要なマスコットキャラクターである、ということだ。主人公が過去や未来、もしくは遠距離ワープする必要がある時に、代償に応じて願いを叶えてくれる。
通称『時空うさぎ』といい、タイムトリップや瞬間移動をする能力を持ったチートな兎である。こいつを今確保しとけば、色々役に立つことは間違いない。
「『苦蓬宙海渡大命(にがもぎのそらうみわたりのおおみこと)』にかしこみかしこみ申す。我、古の盟約に依りて、汝を求む」
俺は近くにいる二人には聞こえないような小声で、時空兎の耳元で囁いた。
「ぴょ、ぴょいぴょい」
時空兎がコクコクと頷く。
はい。真名で縛って、契約完了ー。たっぷり働いてもらうからな。
ちなみにこいつの真名を探り当てるのがグッドエンドの条件になっていた、ロリババアルート、俺は結構好きだったよ。
「え、えっと、ゆうくん。その兎さん、捕まえてどうするの?」
「もちろん飼うんだよ。ちょうどペットが欲しかったんだ」
「いいなー。うさぎさん、いいなー。ねえ。ゆうくん。撫でていい?」
「いいけど、調子乗って噛まれるなよ」
「はーい。あ、兎さん、納豆巻きあるよ。食べる?」
時空兎は鼻先に近づけられた納豆巻きを、その長いロップイヤーを鞭のようにしならせて弾いた。
そりゃ食わないよ。このチート兎、兎の癖に肉食だからね。
なお、ぷひ子ルートでは、ぷひ子が主人公を敵の魔の手から逃がすために、自ら首を掻っ捌いて、全身の血をこの兎に捧げて、主人公を時空飛ばしするシーンがある。グロいぜ。
こうして便利アイテムをゲットした俺は、しばらく日常パートをこなした後、晩メシのおかずのアジと共に、家へと帰るのだった。
「ぷひひ、頑張る!」
ぷひ子とタイミングを合わせて、一気に竿を上げる。
「ぴょええええええええええええええ!」
篠笛にも似た奇声を上げて姿を現した獲物は、一匹の黒い兎だった。
その外見は一言でいうなら、不思議の国のアリスに出てくる兎の和風バージョンだ。
漢数字の書かれた懐中時計をつけ、祭りの法被のようなものを着こんで、二足歩行が可能なやつである。
「わ、わ、わ!」
「え、え、え!?」
突如出現したファンタジー生物に、ぷひ子は竿を取り落とし、みかちゃんはタモを手放した。
ゲーム上ではあくまで今回はこの兎のお披露目シーンに過ぎず、『主人公も二人と一緒にびっくりして、突如現れたこの謎の生物が逃げていくのを呆然と見送る』というのが正規ストーリーだが――
(逃がさねーぞ! 便利アイテムがコラ!)
俺は半ズボンの鰐皮のベルトを外し、黒ウサギを一瞬で縛り上げる。
「ぴょええええええ! ぴょ、ぴょ、ぴょぴょぴょ……」
威勢のよかった黒兎は、ベルトを見た途端大人しくなり、素直にお縄についた。
(よし。やっぱり、鰐皮アイテムは有効か)
こいつはもちろん、普通のウサギではない。鰐製以外の紐や縄で捕まえようとしても、容易く逃げられてしまう。なんせ、こいつは時間や空間を飛び越える能力を持った通称『時空兎』だ。
大抵の物理攻撃なんぞ無効化してくる。
ちなみになんで鰐皮が効くかというと、実はこいつは神話の闇に葬られた因幡の『黒』兎だからである。こいつはかつて白兎と同様の働きをしたが、白兎に騙されて救済を得られなかったという悲しき過去を持っていて、鰐が苦手という設定だが、今は特に覚える必要はない。
今、大切なのはこのギャルゲーにありがちな謎生物は、実はこのゲームのシリーズ通して登場する重要なマスコットキャラクターである、ということだ。主人公が過去や未来、もしくは遠距離ワープする必要がある時に、代償に応じて願いを叶えてくれる。
通称『時空うさぎ』といい、タイムトリップや瞬間移動をする能力を持ったチートな兎である。こいつを今確保しとけば、色々役に立つことは間違いない。
「『苦蓬宙海渡大命(にがもぎのそらうみわたりのおおみこと)』にかしこみかしこみ申す。我、古の盟約に依りて、汝を求む」
俺は近くにいる二人には聞こえないような小声で、時空兎の耳元で囁いた。
「ぴょ、ぴょいぴょい」
時空兎がコクコクと頷く。
はい。真名で縛って、契約完了ー。たっぷり働いてもらうからな。
ちなみにこいつの真名を探り当てるのがグッドエンドの条件になっていた、ロリババアルート、俺は結構好きだったよ。
「え、えっと、ゆうくん。その兎さん、捕まえてどうするの?」
「もちろん飼うんだよ。ちょうどペットが欲しかったんだ」
「いいなー。うさぎさん、いいなー。ねえ。ゆうくん。撫でていい?」
「いいけど、調子乗って噛まれるなよ」
「はーい。あ、兎さん、納豆巻きあるよ。食べる?」
時空兎は鼻先に近づけられた納豆巻きを、その長いロップイヤーを鞭のようにしならせて弾いた。
そりゃ食わないよ。このチート兎、兎の癖に肉食だからね。
なお、ぷひ子ルートでは、ぷひ子が主人公を敵の魔の手から逃がすために、自ら首を掻っ捌いて、全身の血をこの兎に捧げて、主人公を時空飛ばしするシーンがある。グロいぜ。
こうして便利アイテムをゲットした俺は、しばらく日常パートをこなした後、晩メシのおかずのアジと共に、家へと帰るのだった。
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