気づいたら魔界にいた普通の人間ですが、すごい悪魔だと勘違いされています。

野良トマト

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第5話 会議に出席したくないときの対処法

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 ここはゴエティア城塞。
 世界に八人しかいない特級悪魔が集まり、特級会合を行う場所。

 その重要性から魔界でも最大の施設であり、その頑強な造りは絨毯爆撃でもびくともしない。
 当然警備の目も段違いに厳しく、ネズミ一匹通さないセキュリティが敷かれている。


「お疲れ様です、特級悪魔の皆様。と……アモン様ですね。お通りください。」

「リリス様ですね。どうぞ。そちらは……アモン様ですね。どうぞ。」

「ん?おぉ、アモン様ですか、今回はいらしたんですね!」

「アモン様、こちらへ。」

「アモン様……」


 ……ネズミ一匹通さないセキュリティーが敷かれている。


 そんなこんなでいくつもの検問を経て、遂にカズキたち一行は、遂に最深部近くまで到達してしまた。
 なお、途中身体検査などをするであろう場所もいくつもあったのだが、特級は顔パスなのか一切の検査はされなかった。

「……このアモンって悪魔、生きるセキュリティホールなんじゃないか……?」

 カズキは溜息交じりにつぶやいた。
 まぁしっかり検査されると明らかにアウトなので、むしろ助けられているのだが、『よく顔の変わる顔パス』という矛盾した存在に、妙な脱力感を感じる。

「ん?何か言った?」
「い、いや~、警備がすごいな~ってね……?」
「あぁ……確かに、今回はいつもより警備が厳しいわね。」

 また『何度も見てるでしょ』とあきれられるかと思いきや、リリスも少し考える仕草を見せた。
 なるほど、異常なまでに厳重な警備だと感じたのは、気のせいではなかったようだ。
 まぁそれでも人間が通っちゃってるんだけど。

「恐らく、今回が歴史的にも重要な、魔界の方針を決定する会議だからでしょうね。」
「……あぁ。バエルの爺さんが……強行派に鞍替えしたからな……。」
「はぁ。私たち慎重派としては、分が悪い会合になりそうね。」

 え。なになに。
 今回そんな重要なヤツなの。
 それは人間が混ざってない時にしてほしかったなぁ。

「そういえばアモンは、しばらく会合に出ていませんでしたね。あのバエル議長が強行派と聞いて、驚くのは無理もない。」

 シュトリがフォローを入れてくれるが、ぽかんとしている理由はそれではない。
 そもそも何を言っているのか全く分からないのだ。 

 強行派? 慎重派?

「バルバトスの説得に応じちゃったのよ。『時間がたつほど人間は増えるぞ』ってやつね。」
「まだ調査が終わっていないうちから攻め込むほうが、よほど危険だと思うんですがね。」
「……下手に敗退すると……人間側にこちらの情報を与えてしまうからな……。」
「まともに考えればね。バルバトスとアレガスは暴れたくてしょうがないのよ。魔界統制後は大きな戦いがないから、暇なんでしょ。」

 脳みそをフル回転させて、全力で会話から情報を拾う。

 えー、つまり……『慎重派』っていうのは、人間界をちゃんと調査してから攻め込みましょう、っていう派閥で、『強行派』ってのはとにかく早く攻め込もう、って感じか。

 もともとここにいる四人と、議長のバエルとやらを合わせた五人が『慎重派』で、残りの三人が『強行派』だったから、今までは穏便に済んでいた、と。
 しかし今回議長のバエルが『強行派』になったから、四対四になって、議論が白熱するだろう、ってことか。
 いや、議長ってことは他より発言権があるのかもしれない。とすると、『慎重派』が劣勢か。魔界の方針が変わるってのはそのことだろうか。

 おいおいアモン、よくもまぁこんな状況で五回も会議をすっぽかしたな。
 リリスがあれだけ必死に連れてこようとした理由も、今ならよくわかる。これなら引きずってでも連れてきただろう。
 実際引きずって連れてこられたわけだが。


「……さ、おしゃべりはここまで。つきましたよ。」

 話を聞くのに集中していると、いつの間にか目の前には、巨大な金属製の扉があった。
 空想上の動物などを模った複雑な模様がいくつも刻まれており、生涯見てきたどの扉よりも厳格な雰囲気を纏っていた。

 もうここまで来てしまったら、逃げることはできない。
 僕は覚悟を決めた。

 悪魔の世界の未来を決める超重要な会議に、悪魔のフリをして参加する――
 そんな、意味不明な決意を。


「失礼します。」

 シュトリが扉を開くと、中は巨大なホールのようになっていた。
 あえてだろうが、照明は薄暗く、重苦しい雰囲気が漂っている。

 中央に置かれた円卓に、四人の人影が見えた。
 その中でも、ひときわ大きな椅子に、一人の老人が頬杖をついて腰かけていた。

「……揃ったようだな。」

 その老人の低く重い声が、静かに響く。
 決して大きな声ではなかったし、別段特別な言葉でもなかったが、それは絶対に無視できない強大な存在感を伴って、各々の耳に届いた。

 誰に説明されずとも、その事実を直感が告げる。
 彼こそが、この魔界で最も大きな力を持ち――そしてこの会合の長である、バエル議長であると。
 

「それでは、これより……特級会合を、開始する。」

 一語一語に押しつぶされそうになりながら、カズキはアモンに想いを馳せていた。
 
 アモン、お前、この六回目もすっぽかしたんだな……。
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