気づいたら魔界にいた普通の人間ですが、すごい悪魔だと勘違いされています。

野良トマト

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第2話 プレッシャーがすごいときの対処法

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 カズキは都会の路地裏で、一人の老人を前に、無限とも思える時間を感じていた。
 実際は老人ではなく上級悪魔で、都会ではなく魔界の路地裏なのだが、とにかく無限のように感じていた。

「……聞こえなかったかな? 『変身を解いてほしい』と、言ったんだがね……。」

 老人の声は優しいものだったが、その威圧感は今までに感じたことのないほどだった。
 まるで体が鉛のように重く、指の一本も動かせない。

 もし彼がジャンプしろと命令したなら、すぐに飛び上がっただろう。
 もし彼が土下座しろと命令したなら、瞬時に地に伏しただろう。

 しかしながら僕は人間なので、変身を解いて悪魔になることは出来ない。
 できないことをしろと言われても困る。圧をかけられても、無理なものは無理なのだ。

 そういえば上司もよくできないことをやれと言ってきたな。
 会議の資料作成を三十分前に頼まれても困るんだよ。内容全く知らないのにできるわけないだろ。あとアンタも忘れてただろ絶対。直前に押し付けて部下が失敗したみたいにするんじゃねーよ。

 なんだか腹が立ってきた。


「……どうした? もしや……」
「いやできるわけないでしょ! わかんないかなぁ??」

 威圧感の中で膨れ上がった行き場のない怒りは、よくわからないところで暴発した。
 急いで口を塞ぐも、出た言葉は元には戻せない。

 しばし老人悪魔は目を丸くして静止し、なんとも気まずい時間が流れた。


「……ハッハッハ、上級悪魔とは……全く悪い冗談ですな。」

 しばしの間を置いて、老人は豪快に笑いながら言った。

 うん、これはダメだ。
 誰だよ悪魔のフリすればいけるかもとか思ったやつ。
 そら無理だよ変身できないんだから。
 人間だもの。

 この時点で、カズキの脳裏では既に盛大な葬式が執り行われていた。

 ――が、しかし。

「貴方様は、特級ですな?」
「……へ?」

 予想外の反応に、脳内葬式を急遽中断し、思考を現実に引っ張り戻す。

 特級??

「このフォルネウスの精神支配を完全に無効化……上級悪魔程度では不可能ですからな。」
「せ、精神支配?」
「ほっほ、もう誤魔化そうとしてもダメですぞ。それとも私程度の魔法では、意にも介さないということですかな?」

 なるほど、この老人、何かの魔法を使っていたのか。
 そりゃ悪魔なんだから、それくらいできても不思議ではない。
 あの上司のお説教のような威圧感はそれだったのか。

 そして特級悪魔というのは、上級悪魔の更に上位の悪魔のようだ。
 僕が変身を解かなかったから、魔法が通じなかったと勘違いしているらしい。

「い、いや、そんなことはない。もう少しで変身を解いてしまうところだったよ。」
「ほっほ、お世辞と分かっていても、そういっていただけると嬉しいですな。」

 しかしこれ、実際に人間だった場合はどうするつもりだったのだろう。
 いや実際に人間だったんだけど。

 前回といい、悪魔は意外と思考がザルなんだろうか?

「とはいえ、あまりにも完璧な変身でいらしたので、『お前の攻撃など効くわけがないだろう』と言われなければ、本当の人間だと信じていたでしょうな。」

 そんなことなかったーー!! ギリギリだったーー!!
 全然そんな意味で言ってないけどいい感じに解釈してくれて良かったーー!!!

 未だかつてない感情の急降下と急上昇により、背面は汗だくになっていた。

 そんな心情はつゆ知らず、老人は世間話でもするように話を続けた。

「この時期にいらしたということは、特級会合ですな?」
「と、特級会合?」

 名前からして、特級悪魔が集まって話し合いとかをするんだろうか。
 特級はかなりすごい悪魔っぽいので、首脳会議とかそんな感じかも知れない。

「あ、あぁ……そう! 特級会合に行くんだったな! 急いでるんでね、失礼するよ。」

 何はともあれ、抜け出す口実を与えてくれたのはありがたい。
 即座に後ろに向きを変え、足早に立ち去ろうとした――その時だった。


「あれ、フォル爺、こんなとこで何してんの?」

 上空から、赤いツインテールの少女が降ってきた。

「おや、リリス様。よくここがわかりましたな。」
「何言ってんのよ、こんなとこで上級魔法使ってたでしょ?何事かと思うじゃない。」
「あぁ、それはお恥ずかしい話なのですが……そちらにも特級悪魔の方がいらしてましてな。」
「え? 特級……?」

 そう言って老人はこちらへ手を向けた。
 それに従い、少女もこちらへ視線を向ける。

「貴方様と同じく、特級会合にご出席されるようですぞ。」

 あー。
 なるほど。
 特級ホンモノの方でしたか。

「……へぇ。」

 次の瞬間、少女は風のような速さで目の前に回り込んでいた。
 その次の瞬間には、その鋭い眼光が、目と鼻の先にあった。

「アンタ……誰よ?」


 これは、詰んだかもしれない。
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