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第86話 終わりの始まり③
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夜。
礼拝堂にて、跪くロキの姿。
それを前にして、ゼエルは満足げな笑みを浮かべた。
「良く戻りましたね……いい仕事ぶりでしたよ、ロキ。」
「は……勿体なきお言葉。」
ロキは顔を上げると立ち上がり、今一度深く礼をした。
「しかし……向こうもずいぶん早くに復旧しましたね。私としては、もう少し被害を出してもらっても良かったのですが……」
「その点は、申し訳ありません。向こうに、予想以上に指示のうまい人間がおりまして。」
「ふむ、まあ、いいでしょう。それで――」
ゼエルが言い終える前に、ロキは懐から紙の束を取り出すと、それを献上するように差し出した。
「仰せの通りに。ここに来る道すがら、簡単そうなものをいくつか破壊してきました。」
それを聞くと、ゼエルは身を乗り出して喜んだ。
「ほほっ、素晴らしい! Sランクのものはありましたか?」
「いえ……Aランクどまりです。やはりSランクに関しては、それなりに厳重なようでして。」
「ふむ、それは残念です。被害は大きいほうが良いのですがね。」
「しかし、人里に近いものも多いですから、騒ぎは大きくなるはずです。」
「おお……ふふ、やはり貴方は頼りになりますね。」
ロキが紙束を渡すと、ゼエルは嬉しそうにその中身に目を通した。
その間、ロキは周囲に軽く目をやった。
「……彼は、すでにここに?」
「ああ、朝方来られましてね。一足先に挨拶させてもらいましたよ。」
ゼエルは思い出すように小さく笑うと、その声は徐々に大きくなっていった。
大笑いが、礼拝堂中に響く。
「素晴らしい逸材です!! あの強さに対する渇望!! 隠しきれないほどの怒り、憎しみ……そして妬み!!」
ゼエルは両手を竜の描かれたステンドグラスに掲げ、恍惚とした表情で続けた。
「私にはわかるのです。彼なら間違いなく、『覚醒』に至ることでしょう……!」
そこまで言うと、ゼエルは持っていた杖を強く床に打ち付け、平常な顔に戻った。
そしてロキをまっすぐに見据えると、にこりと笑った。
「ロキ、キマイラを使いなさい。」
「……! しかし大司祭様、あれはルーカスですら制御しきれない――」
「いいえ。」
その笑顔が、ぐちゃりと邪悪に歪む。
「わかる、わかるのです……彼なら、彼であれば!! 乗り越えてくれると!!」
月明かりが照らすステンドグラスに、彼は再び両手を掲げた。
+++
宿で目を覚ましたアドノスは、けだるげに半身を持ち上げた。
淡々と装備を整えると、最後に、壁に立てかけてあった大剣を手に取る。
細かい傷や血、油がこびりついているそれを見ていると、ふいにロルフの顔が浮かんだ。
昨日の、ライゼンの奴の小言のせいか。
振り払うように、剣を片手で横なぎに振りぬく。
風を切る音が部屋に響き、木製の壁がみきみきと鳴った。
「お前は、もう俺の人生に……必要ねぇ。」
くるくると数回片手で回してから、大剣を背負う。
乱暴に宿を出ると、その目の前には、ロキとギィが立っていた。
アドノスは小さくため息をつくと、その二人の間を抜け、先頭に立った。
後ろからは、メディナとローザがいそいそとついてくる。
ようやく、ようやくここまで来た。
あとは――俺の力を、証明するだけだ。
アドノスは目を見開くと、大剣を引き抜き、まっすぐ前に振りかざした。
「行くぞ。……遺跡だ。」
空には、暗雲が立ち込めていた。
礼拝堂にて、跪くロキの姿。
それを前にして、ゼエルは満足げな笑みを浮かべた。
「良く戻りましたね……いい仕事ぶりでしたよ、ロキ。」
「は……勿体なきお言葉。」
ロキは顔を上げると立ち上がり、今一度深く礼をした。
「しかし……向こうもずいぶん早くに復旧しましたね。私としては、もう少し被害を出してもらっても良かったのですが……」
「その点は、申し訳ありません。向こうに、予想以上に指示のうまい人間がおりまして。」
「ふむ、まあ、いいでしょう。それで――」
ゼエルが言い終える前に、ロキは懐から紙の束を取り出すと、それを献上するように差し出した。
「仰せの通りに。ここに来る道すがら、簡単そうなものをいくつか破壊してきました。」
それを聞くと、ゼエルは身を乗り出して喜んだ。
「ほほっ、素晴らしい! Sランクのものはありましたか?」
「いえ……Aランクどまりです。やはりSランクに関しては、それなりに厳重なようでして。」
「ふむ、それは残念です。被害は大きいほうが良いのですがね。」
「しかし、人里に近いものも多いですから、騒ぎは大きくなるはずです。」
「おお……ふふ、やはり貴方は頼りになりますね。」
ロキが紙束を渡すと、ゼエルは嬉しそうにその中身に目を通した。
その間、ロキは周囲に軽く目をやった。
「……彼は、すでにここに?」
「ああ、朝方来られましてね。一足先に挨拶させてもらいましたよ。」
ゼエルは思い出すように小さく笑うと、その声は徐々に大きくなっていった。
大笑いが、礼拝堂中に響く。
「素晴らしい逸材です!! あの強さに対する渇望!! 隠しきれないほどの怒り、憎しみ……そして妬み!!」
ゼエルは両手を竜の描かれたステンドグラスに掲げ、恍惚とした表情で続けた。
「私にはわかるのです。彼なら間違いなく、『覚醒』に至ることでしょう……!」
そこまで言うと、ゼエルは持っていた杖を強く床に打ち付け、平常な顔に戻った。
そしてロキをまっすぐに見据えると、にこりと笑った。
「ロキ、キマイラを使いなさい。」
「……! しかし大司祭様、あれはルーカスですら制御しきれない――」
「いいえ。」
その笑顔が、ぐちゃりと邪悪に歪む。
「わかる、わかるのです……彼なら、彼であれば!! 乗り越えてくれると!!」
月明かりが照らすステンドグラスに、彼は再び両手を掲げた。
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宿で目を覚ましたアドノスは、けだるげに半身を持ち上げた。
淡々と装備を整えると、最後に、壁に立てかけてあった大剣を手に取る。
細かい傷や血、油がこびりついているそれを見ていると、ふいにロルフの顔が浮かんだ。
昨日の、ライゼンの奴の小言のせいか。
振り払うように、剣を片手で横なぎに振りぬく。
風を切る音が部屋に響き、木製の壁がみきみきと鳴った。
「お前は、もう俺の人生に……必要ねぇ。」
くるくると数回片手で回してから、大剣を背負う。
乱暴に宿を出ると、その目の前には、ロキとギィが立っていた。
アドノスは小さくため息をつくと、その二人の間を抜け、先頭に立った。
後ろからは、メディナとローザがいそいそとついてくる。
ようやく、ようやくここまで来た。
あとは――俺の力を、証明するだけだ。
アドノスは目を見開くと、大剣を引き抜き、まっすぐ前に振りかざした。
「行くぞ。……遺跡だ。」
空には、暗雲が立ち込めていた。
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