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173話
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段蔵が血だらけで佇んでいる。腰には、大将首が幾つもぶら下がっていた。数人の忍び達が一斉に手裏剣を段蔵に打ち込む。段蔵は宙返り、攻撃を避け、機銃戦闘機のように弾丸を忍びたちに浴びせた。辛うじて弾丸を回避した忍びの一人に段蔵が詰め寄る。
「待て、飛加藤!いや段蔵!ワシだ!佐間の助だ。覚えておらんか、軒猿で一緒に仕事をした中ではないか」
「知らぬ」
重くしゃがれた声が静かに放たれる。
「謙信様、いや景虎様の下で共に働いたではないか!」
「景虎……様」
「そ、そうだ。景虎様だ」
「知らぬ」
「お主、記憶が……景虎様を忘れたのか」
「知らぬ」
指先を佐間の助に向ける段蔵。
「待て、段蔵!景虎様から頂いた饅頭をみなで食べたではないか。共に透破衆を倒したではないか」
「知らぬ、知らぬわ!!」
機銃音が血塗れの戦場に鳴り響いた。
返り血を浴びた己が姿を見る段蔵。奥歯が鳴り、手足が震えだした。何処からとも無く耳の奥で声がする。
「信濃は何と言ってもお蕎麦!お蕎麦食べに行きましょうよ。五平餅売ってるかな?楽しみだな~」
見覚えのある光景が頭に浮かぶ。
ザァーーーー
砂嵐が映像を遮り、ぷつりと真っ暗な闇が脳内に広がり思考が停止する。
「この傷も、この傷も、全部僕を守るためにつけた傷だ。これも。これも」
「段蔵さん、段蔵さん」
ザァーーーー
「あなたの子を宿しました。私はこれから一年山寺にこもり、この子を産みたいと思います」
ザァーーーー
「段蔵さんへの思いを一生忘れないように、あなたを兼ね、永遠に続く愛。名は兼続と名づけますね」
ザァーーーー
甲高い女の声が、頭の中に渦巻く。怒りと憎しみ、人を殺すことに必要な感情のみをプログラムされていた段蔵の脳に歪みが生じる。赤子の鳴き声が木霊し、狂気が最高まで上り詰めていく。
「待て、飛加藤!いや段蔵!ワシだ!佐間の助だ。覚えておらんか、軒猿で一緒に仕事をした中ではないか」
「知らぬ」
重くしゃがれた声が静かに放たれる。
「謙信様、いや景虎様の下で共に働いたではないか!」
「景虎……様」
「そ、そうだ。景虎様だ」
「知らぬ」
「お主、記憶が……景虎様を忘れたのか」
「知らぬ」
指先を佐間の助に向ける段蔵。
「待て、段蔵!景虎様から頂いた饅頭をみなで食べたではないか。共に透破衆を倒したではないか」
「知らぬ、知らぬわ!!」
機銃音が血塗れの戦場に鳴り響いた。
返り血を浴びた己が姿を見る段蔵。奥歯が鳴り、手足が震えだした。何処からとも無く耳の奥で声がする。
「信濃は何と言ってもお蕎麦!お蕎麦食べに行きましょうよ。五平餅売ってるかな?楽しみだな~」
見覚えのある光景が頭に浮かぶ。
ザァーーーー
砂嵐が映像を遮り、ぷつりと真っ暗な闇が脳内に広がり思考が停止する。
「この傷も、この傷も、全部僕を守るためにつけた傷だ。これも。これも」
「段蔵さん、段蔵さん」
ザァーーーー
「あなたの子を宿しました。私はこれから一年山寺にこもり、この子を産みたいと思います」
ザァーーーー
「段蔵さんへの思いを一生忘れないように、あなたを兼ね、永遠に続く愛。名は兼続と名づけますね」
ザァーーーー
甲高い女の声が、頭の中に渦巻く。怒りと憎しみ、人を殺すことに必要な感情のみをプログラムされていた段蔵の脳に歪みが生じる。赤子の鳴き声が木霊し、狂気が最高まで上り詰めていく。
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