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第142話
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「分からぬ」
段蔵の鋭い視線が景虎を射抜く。思いもよらぬ段蔵の言葉に景虎は狼狽し、言葉を失った。段蔵がふっと優しく相好を崩して
「分からぬものに対して人は畏怖を生む。もしかしたらと疑念を抱く。昔から言うではないか、死人に口なしなんだよ」
「そんな。だって、だって、段蔵さんは」
「段蔵は一流の忍びゆえ、畏怖、疑念を抱く、人の妄想の残忍さを嫌と言うほど知り尽くしているのです。段蔵が消えたことで、殿にどのような不幸が起こるやもしれぬ。そう考えたからこそ、この神五郎めに、段蔵は真実を明かして頼みに来たのです。殿が斬れぬ時は、拙者に切って欲しいと」
「だって、段蔵さんは僕の為に戦ってきてくれたじゃないか。殺せるわけないじゃないか。義だって理だってないような殺生は僕には出来ない!」
涙を流す景虎の手に、段蔵は鬼斬り丸をそっと握らせた。
「抜いてみるがいい。義が無ければそいつは抜けぬ。神刀の審判を仰ごうではないか」
段蔵は縁側を下りて、真っ白な玉砂利の敷かれた庭にドカリと胡坐をかいた。
粘性の高い唾液が景虎の喉を絞める。ゴクリと生唾を飲みこんで鬼斬り丸の柄に手をかけた。
段蔵の鋭い視線が景虎を射抜く。思いもよらぬ段蔵の言葉に景虎は狼狽し、言葉を失った。段蔵がふっと優しく相好を崩して
「分からぬものに対して人は畏怖を生む。もしかしたらと疑念を抱く。昔から言うではないか、死人に口なしなんだよ」
「そんな。だって、だって、段蔵さんは」
「段蔵は一流の忍びゆえ、畏怖、疑念を抱く、人の妄想の残忍さを嫌と言うほど知り尽くしているのです。段蔵が消えたことで、殿にどのような不幸が起こるやもしれぬ。そう考えたからこそ、この神五郎めに、段蔵は真実を明かして頼みに来たのです。殿が斬れぬ時は、拙者に切って欲しいと」
「だって、段蔵さんは僕の為に戦ってきてくれたじゃないか。殺せるわけないじゃないか。義だって理だってないような殺生は僕には出来ない!」
涙を流す景虎の手に、段蔵は鬼斬り丸をそっと握らせた。
「抜いてみるがいい。義が無ければそいつは抜けぬ。神刀の審判を仰ごうではないか」
段蔵は縁側を下りて、真っ白な玉砂利の敷かれた庭にドカリと胡坐をかいた。
粘性の高い唾液が景虎の喉を絞める。ゴクリと生唾を飲みこんで鬼斬り丸の柄に手をかけた。
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