戦国姫 (せんごくき)

メマリー

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第31話

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【シンデレラ・あらすじ】
シンデレラは継母と継姉たちにいじめられ、灰かぶりと呼ばれていた。ある日お城で舞踏会が開かれるが、継母と継姉は自分たちだけ着飾って出かけていく。それを嘆くシンデレラの元に魔法使いが現れ、魔法で美しいドレスとカボチャの馬車を用意し、十二時に魔法が解けるからそれまでに戻るようにと言う。王子に見初められたシンデレラは十二時の鐘で慌てて帰るが、ガラスの靴を落としていく。王子は靴にぴったり合う娘を探し出し、シンデレラと結婚する。


* * *


 昔々、あるところに山猫ヤマネコンデレラという者がおりました。
 意地悪な義母と義姉とともに住んでいますが、いつもひどい苛めを受けていました。

「ちょっと、山猫ンデレラさあ、また掃除してるの?え、どれだけやったら気が済むの?」
「お、お義姉ねえさま、すみません」
「山猫ンデレラさん、たまには食器洗い機も使いませんと。せっかくしつらえたんですから、有効利用しないとね」
「はいお義母かあさま、申し訳ありません・・・」
「まったく、今度はお化粧と新しいお洋服に、パーマもかけますよ!」
「そ、そんなご無体むたいな・・・!」

(はあ、今日もひどい目に遭った・・・)

 このように、唯一の存在意義アイデンティティである家事を取られて、挙句の果てにオシャレまでさせられそうになり、山猫ンデレラは意気消沈する日々でした。


* * *


 そして、そんなある日。

「山猫ンデレラさん、ちょっといらして」
「は、はいお義母さま!」

 山猫ンデレラが呼ばれて行くと、義母と義姉がいそいそとめかし込んでいました。

「今夜は二人でちょっとお呼ばれしていますので、山猫ンデレラさんは一人でゆっくりお休み遊ばせ。私たちがいないからって、掃除をしてはいけませんよ」
「え、は、はい・・・」

 山猫ンデレラがちらりと見ると、義姉が化粧をしながらチラチラ見ている紙には、<晩餐会&舞踏会@お城 特別招待状>と書かれていました。山猫ンデレラは、(うわっ、またすごいところに呼ばれてる・・・。一緒に来いとか言われなくて良かった!)と胸をなでおろしました。


* * *


 その夜。
 義母と義姉が出かけた後、山猫ンデレラは掃除も明日の仕込みも出来ず、庭で一人立ちすくんでおりました。

(今日の義務をこなしたぞっていう気持ちになれないと、落ち着かないんだよな。でもとにかく、舞踏会なんてものに行かなくて済んで本当に良かった・・・)

 すると、庭の隅の樹々の間から「ズコー」という効果音とともに、真っ黒いローブをまとった自称魔法使いが現れました。

「いたっ、転びましたっ!」
「うっ、ああっ、通報、不法侵入、正当防衛・・・!」
「ちょ、ちょっと待つのです山猫ンデレラよ!!」

 思わず取り押さえようとした山猫ンデレラですが、相手がポンコツっぽかったので離してやりました。

「あの、なぜ僕の名を・・・」
「この村ではわりと変な名前・・・もとい、珍しい名前で有名ですよ、山猫ンデレラ。私は結構好きですけどね。そこはかとない変態臭がして」
「はい?」
「まあご自身では分からないのかもしれませんね。さて、私は魔法使いのフジー。これから魔法をかけて、あなたを舞踏会に送り込もうと画策しています」
「・・・いやいや、え、何で?」
「だって、『舞踏会に行きたいッ!』という顔をして夜空を眺めていたじゃありませんか」
「え、それは誤解ですよ。全然行きたくないし、そんなのそちらの主観でしょ」
「・・・」

 魔法使いフジーは少し考えましたが、でもやっぱり舞踏会に行かせた方が幸せになりそうだなと思い、勝手に魔法をかけてドレスアップさせました。

「ちょーっ!!な、何だこれ!頼んでない!」
「清楚かつ可憐な水色のドレスとガラスの靴、そして馬車です!おとぎ話のシンデレラのオマージュっていうんですかね、インスパイアというか。なかなかいい仕上がりで満足です」
「はあ?うわっ、ガラス!靴!歩きにくっ!!」

 そしてフジーは山猫ンデレラを強引に馬車に押し込みました。

「ちなみに、午前十二時の鐘の音が鳴り終わると魔法も解けますので要注意です。それまでにどなたかとイイ感じになってくださいね」
「へっ?午前十二時って夜中のゼロ時ゼロゼロ分?いや、時刻というよりその鐘の音の周波数に連動した魔法ってこと?・・・で、魔法が解けるって、まさか素っ裸!?」
「・・・あ、うーん、その辺はちょっと分かりかねます」
「ちょっと!帰りの手段は!?馬車は待っててくれるの?交通費を持ってな・・・」

 そうして山猫ンデレラを乗せた馬車は出発しました。

 山猫ンデレラはどうにか馬車を止めようとしましたが魔法で動いていて止まらないので、目隠しされて誘拐される人のつもりになって、道のりを一生懸命覚えました。

(まっすぐ五分くらい走って・・・馬車の時速は10kmくらいか?だとすると・・・あ、砂利の音が変わった、ここから右にカーブしてる・・・近くに小川?確か川の先にあるのは・・・)

 しかし、頑張って推理しましたが、そもそも行き先は分かっていました。
 そこは、だから、お城です。


* * *


 お城では最近、週末になると、王子の花嫁探しのためのパーティが催されていました。
 しかし王子がわりとワガママでどこの貴族の娘でも納得しないので、近隣の村にまで招待状を出し始めており、山猫ンデレラの村にもそれがきたのです。

「ふう、やっと止まった。どうしよう、本当はこのままUターンしたいけど、言うこと聞かないしなこの馬車・・・」

 仕方なく馬車から降りる山猫ンデレラ。元が何なのかよく分からない馬は、勝手にそこら辺の草を食っています。
 たぶん、魔法使いの課題クエストをクリアしないと馬車も動かないのだろうと考え、このままガラスの靴で夜道を帰宅するリスクと天秤にかけた結果、お城のロビー辺りをひとまずうろついてみようという消極案となりました。

(お義母さまとお義姉さまに見つからないよう、こっそり様子をうかがって、あとはさっさと帰ろう・・・)

 そうしてお城に入ろうとした山猫ンデレラですが、門番の兵士に「招待状を拝見」と言われ、冷や汗が出ました。

(ああ、今更通行人ですとも言えないし、でもこのままじゃスパイかテロリストと疑われかねない。くそっ、招待状も作っとけあのポンコツ魔法使い!)

 しかしその時、「あ、そこのはウチの連れよ。どこ行ったかと思て探しとったわ」と救いの手が。

「これはニシザワーヌ様、失礼いたしました」
「ええのええの。酔い覚ましやろ?ほらアンタ、はよ戻り」

 どうやら貴族であるらしいニシザワーヌと呼ばれた大柄な女(?)に助けられて、山猫ンデレラは舞踏会会場に入りました。


* * *


「あの、すみません、何か助けてもらって・・・」
「別にええのよ。とにかくもうすぐ王子様お出ましなるからね。うん、アンタのそのドレス、まあまあやけど、・・・んー、ちょい惜しいね。若干デザイン古いねんな」
「・・・はい?」
「いやいやそこがええのよ!ほら、ウチ結構背が高くてスレンダーやろ?他のちっこい娘と並ぶとウチがやたらデカ見えんの。せやから、アンタくらいちょい背が高くて、ちょい惜しいくらいのが隣にいるとちょーどええのよ!」
「・・・」
「あっ、王子様や!階段から下りてくる!キャー、クロイーヌ王子!クロさまーっ!!」

 山猫ンデレラが目を向けると、周囲の歓声に包まれながら、クロ様と呼ばれた王子が手を振りながら大階段を下りてきました。

(え、あれが王子?へえ、知らなかった)

 王子に特に興味がない山猫ンデレラは、自由な立食スタイルになっているテーブルへと目を移し、きらびやかな料理の数々を見て、(どうやって作るんだろう、味付けは?自由《タダ》なら食べても差し支えないかな)と考えておりました。

「クロさまっ、お久しぶりですーーっ!!」

 王子がこちらに近づいて、隣のニシザワーヌがさらに声を張り上げますが、王子はこれを適当にあしらい、なんと山猫ンデレラに声をかけてきました。

「やあお嬢さん、初めて見る顔だね。今日はどちらから?」

 山猫ンデレラは心の中で、(どちらからもクソもあるかい、あんたが招待状出した村からだろ!?)と毒づきましたが、義母と義姉がどこかで見ているかもしれないと思い出し、嘘をつきました。

「えっと、その、私はこの方の連れですので」

 そう言っておずおずとニシザワーヌの後ろに下がると、ニシザワーヌは後ろ手で<グッジョブ!>と親指を立てました。

「ええほんまに、こっちはただの付き人ですのよ。それよりクロ様、ウチの別荘も最近ご無沙汰で寂しゅうございますわ!」
「え?ああ、そういえば最近そっちに狩りに行ってないね」
「でしょう?ウチの父上と叔父上に言えば、もっといい馬を・・・」
「・・・で、そちらのお嬢さん、名前は?」

 この隙にこっそり逃げようとしていた山猫ンデレラは、ドレスの裾をつかむ手首を握られて、ビクンと驚きました。

(えっ、この王子、どうしてこんな、痛いほど僕の手を・・・)

 その時、和やかな晩餐会的ミュージックの旋律が止んで、一瞬辺りが静まったかと思うと、ジャラララーーンと舞踏会の曲が流れ始めました。


* * *


「ねえ、よかったら、俺と踊ってくれないかな」
「・・・はっ!?い、いや、無理無理無理」
「遠慮しなくていいから」
「いや、踊るとか絶対ムリだから、何と言われてもやらない!!」

 うやうやしくダンスに誘われたものの、お断りの姿勢を貫く山猫ンデレラ。
 ダンスの経験もなければ、慣れないガラスの靴ですし、そもそも山猫ンデレラはこういうパリピ的なことが大の苦手なのです。

「別に、下手でもいいし、俺に合わせるだけでいいからさ」
「出来ないよ!こんな、公衆の面前で、あんたも恥をさらすことになる!」
「・・・恥とか、考えなくていいのに。・・・分かった。じゃあ別のとこへ行こう」
「・・・っ、や、やめっ」

 言うが早いか、王子は山猫ンデレラをすっとお姫様抱っこし、しかし案外に重いので落っことしそうになりながら、何とか大広間の控室へと運んでいきました。
 一部始終を見ていたニシザワーヌは「なっ、なんやのあの田舎娘!」とハンカチを噛みましたが、しかし音楽が終わらないうちに別の相手を探しに行きました。
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