54 / 87
社会人編
ホテル
しおりを挟む翌日。
ホテルに到着した俺は昨日に引き続き口をポカンと開け、間抜け面を晒していた。
でも、それも今日は俺だけじゃない。
なぜなら俺の隣で立ち尽くしている義兄も、俺同様に口を開けて呆けているから。
「は、隼人君?僕は葵に泳ぐ練習をするって聞いていたんだけど……聞き間違えちゃってたのかな?」
「……聞き間違えてないと思うよ」
「そうか……。ここが巷で有名な高級ホテルに見えるのは……僕の見間違いなのかな?」
「……見間違えてないと思うよ」
「そうか……そうだよね……良かった。……アハハ~……」
ああ、義兄がキャパオーバーしてしまったようだ。
呆然としている俺達の側では葵と裕翔君がキャッキャッと楽しそうに手を繋いでホテルに入って行こうとしている。
岡田とお兄さんも平然と入って行ってしまうから俺達は慌ててその後を追った。
ロビーに入ればホテルの支配人らしき人に丁重に迎えられ、俺達はプールまで来たのだけれど……。
「……え?ホテルのプールってこんななんですか?」
水着に着替えてプールサイドまでやって来た俺は驚愕して思わず足を止めてしまった。
「うん?大体こんなんじゃない?」
「へ、へえぇ、そうなんですか……」
キョロキョロと周りを見渡す俺の腰を抱いて岡田がクスクスと笑っている。
だって、こんなに凄いとは思っていなかったから。
目の前には50メートルのプールがドーンとあり、その横には子供でも入れそうな浅いプールがある。そのプールも25メートルくらいの広さはあるだろう。
そしてここの目玉とも言えるメインプールには大きなスライダーが設置されていて物凄く迫力がある。
ホテルとか、ましてやホテルのプールになんてそうそう来ない俺は驚きっぱなしで、そんな俺をうっとりと見つめる岡田に「可愛い」と頬にチュッチュッとキスされまくってしまった。……うぅ、恥ずかしい。
「ねえ隼人、絶対にそのTシャツ脱がないでね?」
「え?何でですか?」
「何ででもっ。いい?分かった?」
「はい……?分かりました」
俺の腰を抱いたまま岡田が念を押すようにしつこく言ってくるから俺も頷いてみせたけど、何でだろう?
プールサイドに行く前に更衣室で水着に着替えた俺は岡田によって強制的にTシャツを着せられた。べつに着てるぶんには何も問題はないが、絶対に脱ぐなと言われれば首を傾げてしまう。
そんな俺の手を引いて、岡田は子供達が待つ浅い方のプールへと歩き出した。
「すごいよ、あおくん!もうかおをつけられるようになったね!」
「えへへ、うれしい!ゆーくんのおかげだよ。ありがとう!」
プールの中で凄い凄いと拍手をする裕翔君に満面の笑みを見せる葵。
特訓をすること数十分。だいぶプールの水に慣れた葵がなんとか水に顔をつけられるようになってきた。
「ボクのそばにね、ゆーくんがいてくれるとおもったらね、あんしんしてみずもこわくなくなっちゃったんだよ?ほんとにゆーくんのおかげなの!ありがとう!」
裕翔君の手をギュッと握り嬉しそうに頬を染めて笑う葵に、裕翔君は案の定顔を真っ赤にして悶えている。
「あああぁぁ、かわいい~!!すきっ!あおくんすき!だいすきっ!!」
「えへへ、ボクもゆーくんだいすきっ!」
お互いの親の目の前で好きと言い合う子供達。可愛い。
お兄さんは微笑ましそうにその光景を見守り、義兄も笑って……笑って?…………引きつった笑顔でそれを見守っていた。
「ね、ねえ隼人君。この好きはまだ恋愛感情の好きじゃないよね?まだ違うよね?まだウチの子、お嫁にいかないよね?」
…………お嫁って。そっちの心配かい。そもそも葵は男の子だし。お嫁じゃないし。義兄的には我が子が同性同士でとかは有りなんだな。…………まあ、俺を受け入れてくれてる時点で有りなのか。……でも、自分の息子がとか考えるとやっぱり複雑なのかな、とか色々思っちゃったりもしたけど。義兄は大丈夫みたいだ。
この子達がこの先どうなるかなんてまだ全然分からないけど、もしそうなったとしても義兄と一緒に見守っていけたらいいな。
そんな思いを込めて、俺はショックを受けている義兄の背中をポンポン、と叩いて慰めたのだった。
0
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる