上 下
16 / 27

落下

しおりを挟む
夕食はアンソニーの歓迎会を兼ねていたようで、全員揃ってテーブルを囲んだ。

お父様と王妃様が揃う席にお母様がいるのはとても珍しい。
夕食会は滞りなく進んだけれど、どこかピリピリとした緊張感がずっと続いていた。

お父様や王妃様、そしてお兄様も私達同様にアンソニーが来る事を知らされておらず、そのせいでお父様の機嫌が悪いらしい。というのを、ルーカスが隣に座るお兄様からこっそり教えてもらったらしい。

…………うん、お母様のやりそうな事だよね。
まさかお父様にも伝えていないとは思わなかったけれど、お母様は昔から私達の嫌がる事をするのが大好きだものね。


夕食会も無事に終わり、部屋に戻ろうとするアンソニーを王妃様が引き留めた。


「シャーロットとルーカスと仲良くしてあげてね。もしこの子達に私はすぐに駆け付けますから。」

「僕からもお願いするよ。2人は僕の可愛い妹弟だ。何かあってからでは遅いからいつも目を光らせているのだけれど…………、ね?」

「はい。ご心配無く。」


ーー3人とも柔かに笑って話してる筈なのに、空気がピリピリとして痛い…………。


「シャーロット。オリビアが会いたがっていたから明後日お城へ呼んでおいたよ。明後日は学園もお休みだよね。一緒にお茶でもしてあげて。」

「まあ!勿論ですわ。楽しみにしてます!!」


あのお茶会以来、オリビア様は何かと私の心配をしてくれているから元気な姿をお見せしなくちゃ。

意気揚々と返事をする私に目を細めてお兄様が頭を優しく撫でてくれる。

お兄様は私がいくつになっても子供扱いして頭を撫でたり甘やかしたりするのだけれど、それが恥かしくもあり、嬉しくもある。
撫でてくれるお兄様の温かな手が私は大好きだから。


「おやすみ」と、私とルーカスの頭をポンポンとしてお兄様が自室へと戻っていった。


「君達は本当に仲が良い兄妹なんだね。」

「ええ。勿論よ。」

「お兄様は何でも出来て凄いんだぞ!僕達の自慢なんだから!」


…………弟よ。えへん!と胸を張ってお兄様の事を得意げに話す貴方の姿…………可愛過ぎます。


思わず頭をいい子いい子と撫でると、「何?」というように首をコテンと傾げるルーカス。…………貴方は私を萌え死にさせる気ですか。


「僕には無い感情だね。」


そう小さく呟いてから「おやすみ」と手を振りアンソニーも自室へと戻って行った。


「仲の良い私達が羨ましいのかしら……。」

「さあね。でもお姉様、アイツなんかに簡単に絆されないでよね。アイツ、かなり性格が捻じ曲がってるんだから。」

「分かってるわ。あの人いつも目が笑っていないもの。…………早くヒロインに出会って癒されるといいわね。あ、勿論私達の関わっていないところでだけれど。」

「…………お姉様は本当に甘いよ。そんなに優しいのによく悪役になろうなんて思えるよね。絶対ムリ。」


ハァ~と溜息を吐くルーカスにオーウェン様も無言で頷き同意している。


何よ。私だってやれば出来るんですからね!


ギャイギャイ話しながら、私とルーカスも部屋へと戻ったのだった。








「シャーロット、会いたかったわ!!体調はもういいの?」

「オリビア様!お久しぶりです!もうすっかり元気で学園にだって毎日通っていますわ!」


2日後に約束通りお城を訪れたオリビア様を正面玄関まで出迎え、オリビア様の手を引き私の部屋まで誘導する。

2階にある私の部屋へ向かう為に正面玄関から続く大階段を上りながら、オリビア様が手を引く私を見て目を細めた。


「本当に良かった。私の可愛い可愛いシャーロットに何かあれば、この先どうやって生きていけばいいのか分からなくなっていたところよ。」

「ふふっ。オリビア様、大袈裟ですよー。」


照れながらオリビア様の手を引く私を、何故かウットリと見つめるオリビア様。

オリビア様は小さい頃から私を可愛い可愛いと言って甘やかしてくれる。

あの侍女長に色々言われた頃、心を閉ざしていた私をいつも気にかけてお城に来る度に遊んでくれた優しい人だ。


「…………オリビア様のあれは本気だから怖いよね。昔からお姉様への愛情が重すぎるよ。」

「フフフッ。そこがオリビアのいいところなんじゃないか。僕がオリビアを婚約者に選んだ理由はそこだからね。シャーロットを心から愛してくれている人じゃないと僕はいらないから。」

「…………お兄様の愛も相当重いよ。」

「フフフッ。勿論、ルーカスの事も愛しているよ。僕は可愛い妹弟の為だったら何だって出来るからね。」

「…………僕への愛はほどほどでお願いします。」


私達の後ろからついて来るお兄様とルーカスが何やら楽しそうに話している。
いや?ルーカスが若干引いているように見えるのは気のせいかな?


階段も中程まで上がったところで、オリビア様が階段の手摺りに手を置く。

と、手摺りがグラリと揺れ音を立てて下に崩れ落ちた。


「キャアッ!!」

「オリビア様!!」


体重をかけていたオリビア様も手摺りと一緒にバランスを崩し一階へ落下しそうになる。

私は繋いでいた手を全力で引っ張り、オリビア様の落下を阻止する事に成功したのだけれど、その反動で今度は私が落下しそうになってしまった。

私は咄嗟にオリビア様と繋いでいた手を離す。
オリビア様を道連れにするという最悪の事態を回避出来た事にホッとした次の瞬間、フワリと体が宙に投げ出された。


ーー落ちる!!


強い衝撃を覚悟してギュッと目を瞑るけれど、落下直前に何か温かいモノに包まれたお陰で、確かに落ちた筈なのに想像ほどの衝撃を受けなかったのだ。


「大丈夫ですか?」


耳元で少し掠れた声に囁かれて目を開けると、目の前にオーウェン様の顔があって心臓がドキンと高鳴る。


「ロッティー!!怪我は!?」

「お姉様!!」

「シャーロット!!」


状況が把握出来ずにいるとバタバタとお兄様達が慌てて階段を下りて来た。


「どこか痛むところはありませんか?」

「!?」


またオーウェン様に耳元で囁かれてドキドキと鼓動が激しくなる。

段々と状況が見えてきて、私はオーウェン様を下敷きに床に倒れ込んでいた。
落下直前にオーウェン様が私を抱き留め身を挺して守ってくれたのだ。


「オーウェン様こそお怪我は!?」

「私は大丈夫です。」


ガバッと身を起こして私の下敷きになったままのオーウェン様の体をペタペタと触り怪我がないか確認する。


「シャ、シャーロット様……!」

「頭は?頭は打ってないですか!?」

「ちょっ……」


顔を近付けオーウェン様の頭をワサワサと触っていると、後ろからベリッと凄い勢いでオーウェン様から引き剥がされる。

驚いて後ろを振り返れば、お兄様とルーカスが怖い顔をして立っていた。

「ロッティー、怪我はしていない?」

「はい!オーウェン様が私を庇ってくださったので……」


お兄様に返事をしてから再びオーウェン様に怪我がないかを確認しようとしたのだけれど、お兄様が私の腕を掴んだまま離してくれないのでオーウェン様に近寄ることができない。


「ロッティー、もう少し自重しようか?」

「そうだよ!お姉様、もっと自分の行動に危機感を持たなくちゃ駄目だよ!」

「…………本当にごめんなさい。まさか落ちるとは思わなくて……。」

「「そっちじゃないよ。」」


え?


怖い顔の2人にハモって指さされた先には、真っ赤な顔をしたオーウェン様が座ったまま固まってしまっていた。


「ロッティーに体を触られたり頭を撫でられれば、どんな男もこんな骨抜きの状態になってしまうさ。中には勘違いしてしまう者もいるかもしれないから気を付けないとね。」

「お姉様の可愛さは男心を狂わせるんだから!」


…………ルーカスよ。貴方、何言ってるの。そんな訳ないじゃないの。


私がやれやれと呆れ顔でルーカスを見ると、逆にお兄様とルーカスからジト目までプラスされた呆れ顔で見返されてしまった。




…………なんで?



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

きのまま錬金!1から錬金術士めざします!

ワイムムワイ
ファンタジー
 森の中。瀕死の状態で転生し目覚めた男は、両親を亡くし親戚もいない少女に命を救われた。そして、今度はその少女を助けるために男が立ち上がる。  これはそんな話。 ※[小説家になろう]で書いてた物をこちらにも投稿してみました。現在、[小説家になろう]と同時に投稿をしています。いいなと思われたら、お気に入り等してくれると嬉しくなるので良ければお願いします~。 ※※2021/2/01 頑張って表紙を作ったので追加しました!それに伴いタイトルの【生活】部分無くしました。           STATUS  項目 / 低☆☆☆☆☆<★★★★★高  日常系 /★★★☆☆ |コメディ /★★☆☆☆   戦闘  /★★☆☆☆ |ハーレム /★★☆☆☆ ほっこり /★★☆☆☆ | えぐみ /★★☆☆☆  しぶみ /★★☆☆☆   世界設定 /有or無  魔力 /有 | 使い魔/有  魔法 /無 | 亜人 /有  魔道具/有 | 魔獣 /有  機械 /無 |ドラゴン/有  戦争 /有 | 勇者 /無  宇宙人/無 | 魔王 /無  主人公設定  異世界転生 | 弱い  なぜかモテる | 人の話が聞けます ※これはあくまでも10/23の時のつもりであり、途中で話が変わる事や読んでみたら話が違うじゃないか!等もありえるので参考程度に。  この話の中では、錬金術師ではなく錬金術士という事にして話を進めています。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

叶えられた前世の願い

レクフル
ファンタジー
 「私が貴女を愛することはない」初めて会った日にリュシアンにそう告げられたシオン。生まれる前からの婚約者であるリュシアンは、前世で支え合うようにして共に生きた人だった。しかしシオンは悪女と名高く、しかもリュシアンが憎む相手の娘として生まれ変わってしまったのだ。想う人を守る為に強くなったリュシアン。想う人を守る為に自らが代わりとなる事を望んだシオン。前世の願いは叶ったのに、思うようにいかない二人の想いはーーー

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

処理中です...