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配慮

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王妃様とお兄様の的確な指示と宮廷医師の適切な処置のおかけで、私は翌日にはベッドの上で体を起こせるまでに回復した。



「本当に良かったよ。」


「ご心配をおかけしました。」


眉尻を下げ安堵の表情を見せるお兄様に私はペコリと頭を下げる。

体を起こした私の為に、背中にクッションをあてがったりショールを肩にかけてくれたり、お兄様自らいそいそと世話を焼いてくれた。


「お兄様の手を煩わせてしまってすみません。」

「ロッティー、謝るのはナシだよ。これは僕が好きでやっているんだから。」


ベッドの脇に腰掛け、労るように私の背中を撫でてくれるお兄様の温かい手は、いつも私の心までも温かくしてくれる。


お兄様は家族だけの時、私のことをロッティーと愛称で呼ぶ。
私のことを愛称で呼ぶのは、お兄様と王妃様だけだ。
それが、お兄様と王妃様の特別になれているようで嬉しかった。



「お姉様ー!!!」



バタンと勢いよく扉を開けてルーカスが部屋に入って来る。
そしてベッドの脇まで駆け寄ると、私をギュウギュウと抱き締めた。


「無事で良かった~!!もうっ、何でアレを飲んだりしたのさっ!本当に死んだらどうするつもりだったの!?」


頬をプクッと膨らませてプリプリ怒っているルーカスは…………やっぱり可愛い。


「…………ごめんね?」

「もう絶対にこんな事しないで。」

ルーカスの頭を撫で撫でしながら謝ると、ルーカスは目を潤ませて私を抱き締める手の力を強めた。


そんな私達の事を今まで目を細めて見守っていたお兄様が立ち上がり、私とルーカスの頭にポンと手を置く。


「ところで、ロッティーとルーは最初からあのカップが怪しいって知っていたのかな?」


ふいに質問をされお兄様を見上げると、お兄様はニッコリ笑って私とルーカスを見下ろしていた。

その笑顔を見て……私の背中を冷や汗が伝う。きっと、ルーカスも私と同じ状態なんじゃないかな。

…………お兄様はニコニコと笑っているけど、目が全く笑っていない。これ、メチャクチャ怒ってる時の顔だもの。


「お、お兄様……。」

「どうして知っていたの?知っていたのなら、僕に相談してくれても良かったんじゃない?」



ーーどうしよう。なんて言う?

まさかお兄様にルーカスの前世の話なんて言える訳がない。
ここはルーカスが遊んでいたゲームの世界で、お兄様やオリビア様が死んじゃうかもしれないって?
そんなこと、言える訳がないでしょ。

ルーカスをチラッと盗み見ると、思いを巡らせているのか困り顔で視線を宙に彷徨わせている。


「ロッティー?ルー?」

「た、たまたまですっ!」

「…………たまたま?」


私の返事を聞いた兄様からスッと笑顔が消えた。…………ヤバイ。

私と抱き合ったままの体勢だったルーカスが私の背中に回していた手に力を込める。

「お姉様~……。」

「あ、あのお茶会で、とても久しぶりにお母様にお会いしましたけれど、少し様子が変なのに私とルーカスが気付いたのですわっ!それで周りを注意して観察していましたらオリビア様のお茶が怪しいのにも気付けたという訳なのです!」


一気に捲し立てハァハァと肩で息をする私をお兄様がジッと何かを見極めているかのように見つめる。


ーーよくもまあ、こんなにも嘘がペラペラと出てくるものだ。
滅茶苦茶な事を言っている自覚があるからつい早口になってしまった。
お茶に毒が入っているかなんて、見ただけで分かるはず無い。

背中に冷や汗をダラダラ流しながらも、平然を装ってお兄様をジッと見返す。


「…………ロッティーがお茶会の時にキョロキョロして落ち着きが無かったとオーウェンも言っていたけど……。」


顎に手を当て、考える仕草をするお兄様。
ーーあの時、オーウェン様とバッチリ目が合ってたもんね。やっぱり不審に思ってたよね。


「お茶会では僕もイザベラ様の様子を窺っていたけれど、特に変わった様子は見られなかったような……。」

「そ、それはっ!」

「それは?」

「…………私とルーカスの……本当の母だから分かるのですわ。」


そう言った瞬間お兄様が目を瞠り、そして少し寂しそうに眉尻を下げながら私の頭を優しく撫でた。


「そうか…………。」


ーー違う違う!!こんな事をお兄様に言いたかったんじゃない!!
あの人を母だなんて思ったことは一度だって無いのに!!



私は居た堪れなくて……お兄様を見ていられなくてフイッと目を逸らし俯いてしまう。
ルーカスが心配そうに見上げるから出来るだけ笑って見せたけれど、とてもじゃないが上手に笑えていたとは思えない。


「ルー。そろそろロッティーを休ませてあげようね。」

「…………はーい。」


お兄様が私に抱きついていたルーカスをベリッと剥がし、部屋の外へ促す。
そして再び私の頭を撫でた後、お兄様もベッドから離れた。

扉を開け、部屋を出る前にこちらを振り返ると私に優しく柔らかく微笑んだ。


「念の為、部屋の外に警護を付けておくからね。何も心配しないでゆっくり休むといいよ。」

「……ありがとうございます。」



力無く頷いた私に手を振り、お兄様は部屋を後にした。




















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