7 / 25
協力って……
しおりを挟む「あ~、やっぱりお前は面白いな」
「…………もういいんで、ちゃっちゃと精気でも命でも食べちゃってくださいよ。そのかわり、お兄様には絶対、絶対にもう手を出さないでくださいね?」
笑い続ける黒いモヤモヤをジロリと睨んで念を押した。涙と鼻水を垂れ流しながら睨まれてもって感じだろうけど。
「まあ待て。そんなに死に急ぐなよ。この世に未練ありまくりなんだろ?」
「うう~……ありまくりだからサクッと一思いにやっちゃってほしいんじゃないですか~」
ボロボロと涙を流す私の周りをクスクスと笑いながら漂っていた黒いモヤモヤがピタリとその動きを止めた。
「お前に猶予をやろう」
「……猶予?」
楽しげに言い放った黒いモヤモヤを、ズビズビと鼻をすすり首を傾げて見上げる。
「ああ。取り敢えずその垂れ流している涙と鼻水をなんとかしろ」
「…………はい」
寝間着であるネグリジェの袖でグシャグシャに濡れた顔を拭った。……うおぉ……鼻水がベッチャリ……お気に入りのネグリジェだけど……しょうがない。
お兄様に覆いかぶさっていた状態から体を起こした私をチェックしていたらしい黒いモヤモヤが満足気に「よし」と呟いた。
「俺はお前が気に入った。まあ、前から面白い奴だと思って見ていたしな。そんなお前に猶予をやろうと言ったんだ」
ーーだから猶予って何?
さっぱり意味が分からなくてコテンと首を傾げる。
「お前はこの世に未練があると言っただろ?だからお前が成人するまで時間をやる。俺も今お前の精気を喰うより、少し待って成人した美味い精気を喰う方がいいしな」
「え……私が、成人するまで……?」
「俺とお前、どっちも得するいい案だろ?」
ーー成人まで私、生きていられるの?
さっき必死に止めた涙と鼻水がまたドバッと溢れ出した。
「あ、ありがとうございます~~……」
「うわっ、汚いっ!!また顔が汚くなってるぞ!!」
ーー私、まだ死ななくてもいいんだ……。
「そんなんじゃ話を進められん!早くなんとかしろっ!」
黒いモヤモヤに促されるまままたネグリジェの袖でゴシゴシ顔を拭くけれど、今度はなかなか涙と鼻水が止まらなくて拭っても拭っても綺麗にならない。
「……ハァ、しょうがない。もうそろそろ人が戻って来そうだから話を進めるぞ」
「ズビッ…………あ"い"……す"み"ま"せ"ん"……」
鼻をズビズビと啜りながら謝ると黒いモヤモヤに大きな溜息を吐かれてしまった。本当にすみません。
「お前が成人するまで待ってやるが、この邪気に取り込まれそうな状態のままでいるわけにはいかん。元の姿に戻るにはもう少し精気が必要なんだ」
「へえ……それが本当の姿じゃないんですね」
「当たり前だ。俺は本来ならもっと高貴な姿をしてるんだ!そもそもお前たちが契約を忘れたりするから……」
「あぁ!ごめんなさいっ!っはい、話しの続きをどうぞ!!」
ヤバッ……また黒いモヤモヤがお怒りモードになっちゃうところだった。っていうか、この黒いモヤモヤの姿がデフォルトじゃなかったんだね。高貴な姿ってどんなだ?
「まったく……それで、俺が元の姿に戻れる分だけの精気をまだ喰いたいんだが、生憎お前の兄の精気はこれ以上喰わないとさっきお前と約束してしまったし……」
「それだけはやめて下さい!!」
「ああ、勿論それはしない。俺は約束を守る男だからな。だから、それまでお前が協力しろ」
「協力?」
「そうだ。俺の姿が戻るまでお前の精気を定期的にちょっとずつ喰わせろ。本当はすぐにでも元の姿に戻りたいところだが、その分の精気を喰ったらお前はコロッと死ぬだろうし……だから死なない程度に俺に喰わせろ」
ーーえ~……死なない程度って……なんか怖い。……怖いけど……協力しないとダメだよね……せっかく成人まで生きられるチャンスをくれたんだし……。
「わかりました。でも、あの、痛いのはちょっと嫌だなぁ、なんて……」
「ああ、安心しろ。さっきみたいに少し力が抜けた感じになるだけだ。さあ、そろそろ誰か戻って来そうだし早速喰わせてもらうぞ」
「え、あ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ!」
慌ててストップをかけるも、時すでに遅く。
黒いモヤモヤに視界を覆われると同時に、私の意識はそこで途切れた。
1
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
悪役令嬢を拾ったら、可愛すぎたので妹として溺愛します!
平山和人
恋愛
転生者のクロエは諸国を巡りながら冒険者として自由気ままな一人旅を楽しんでいた。 そんなある日、クエストの途中で、トラブルに巻き込まれた一行を発見。助けに入ったクロエが目にしたのは――驚くほど美しい少女だった。
「わたくし、婚約破棄された上に、身に覚えのない罪で王都を追放されたのです」
その言葉に驚くクロエ。しかし、さらに驚いたのは、その少女が前世の記憶に見覚えのある存在だったこと。しかも、話してみるととても良い子で……?
「そういえば、私……前世でこんな妹が欲しかったって思ってたっけ」
美少女との出会いが、クロエの旅と人生を大きく変えることに!?
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる