95 / 96
幸せを運ぶ羽根 〜獣人国、国王〜
しおりを挟む「フータ様からですか?」
失礼します、と執務室へ大量の書類を抱えたメイソンが入って来ると、私の手のひらで淡く光る小鳥を見て目を細める。
「ああ、そうだ」
小鳥は私に報告を終えると強い光を放ち姿を消した。
直後、七色に輝く美しい羽根がフワフワと空中に漂い、私の手のひらに収まる。
滅多にお目にかかれない貴重すぎる不死鳥の羽根が、私の机の引き出しには既に4本保管してあり、これで5本目だ。
「ユーカは元気だそうだよ。ジルの国へ行き、何か心境の変化があったらしい。……あの子の心が少しでも軽くなったのならば良いのだけれど」
「そうですね」
手の内で輝く七色の羽根をそっと撫でながら、我が子となった可愛らしいユーカの笑顔を思い浮かべる。
いつでも笑みを絶やさずいつも元気な女の子。人を思いやり、人の為に行動することの出来る、優しい優しい女の子。
周りの人々から愛されているのに、人一倍自己評価が低くて自分に自信の持てない女の子。
そんな可愛い我が子が、ある日突然、姿を消した。
国の守り神である、不死鳥と共に。
そしてその翌日、ユーカを愛してやまない息子までも姿を消す。
城内は一時騒然としていたが、私は落ち着いたものだった。
それもそのはず。ユーカのいなくなる前日に私はフータ様に呼び出され、宣言されていたのだから。
『ユーカは我と旅に出るでの。暫く留守にするが心配するでないぞ』
そう告げたフータ様は唖然としていた私へ、更に言葉を続けたのだ。
『ああそれから、サイラスは間違いなくユーカの後を追っていなくなると思うが、心配するでないぞ。我の分身に見張らせておくでな』
言いながら背の羽根をフータ様が嘴で抜くと、淡い光を纏ったまま見る見るうちに鳥の形を模してパタパタとフータ様の頭上を旋回する。
その幻想的な光景に見入っている私をフータ様が真剣な眼差しでジッと見つめ、目を細めた。
『お主はこの国の為によくやってくれておる。賢王であると共に、これからも2人の良き理解者、良き父でいてやってくれ。いつでも、何があっても、此処があの子らの帰る場所なのだと示し続けてやってほしい』
頼んだぞ、といつになく神妙な面持ちで話されるフータ様を思い出し、笑みが溢れる。
この国の守り神である不死鳥様にこれほど愛されている我が子達が誇らしい。
この国の将来も安泰だな。
「サイラスがやっとユーカに会えるらしい」
「おや、やっとお許しが出たんですね」
虹色の羽根を引き出しに仕舞いながらそう言うと、メイソンが苦笑する。
「1ヶ月の猶予をいただいたそうだよ。その間にユーカの居場所を探し当てたら会わせてもらえるそうだ」
今までフータ様は何処へ行くにもユーカをご自分の背に乗せて移動し、訪れた地ではユーカの匂いや痕跡を跡形もなく消してしまわれるので、獣人の中でもダントツに鼻の利くサイラスでさえ今までユーカには辿り着けなかったのだ。
それが漸く、終わりを告げる。
ユーカの心境の変化を察したフータ様が所々にユーカの痕跡を僅かに残しサイラスに希望を与えた。この僅かな希望を逃さず、掴み取れと。
「間に合わなければ今度こそ二度とユーカに会えなくなるような所へ行ってしまわれるらしい」
「……フータ様なら間違いなくそれを実行なさるでしょうね。まあ、そのような事にはならないでしょうが」
「ハハッ、そうだな」
羽根を仕舞った引き出しをそっと撫で、我が子を想う。
自分の全てはユーカの為、ユーカしか眼中にないサイラスがこの機会を逃す筈がない。
私が……いや、誰が見てもユーカへのサイラスの愛は重い。重過ぎる。
けれどユーカにはサイラスの重過ぎるくらいの愛が丁度良いのではないだろうか。
「2人が帰ってこられるのが待ち遠しいですね」
「そうだな」
「では、2人が帰ってこられた時にゆっくりと話す時間がもてるよう、国王様は頑張ってお仕事をなさってくださいね」
「……そうだな」
抱えていた書類をドサッと机の上に置いたメイソンがニッコリと微笑んだ。
机の上に積み上げられ書類の山にゲンナリするが、やるしかない。
「……ハァ、早くユーカの可愛い笑顔に癒されたい……」
そう遠くはないであろう可愛い可愛いユーカとの再会を励みにして、私は目の前にある書類に手を伸ばした。
17
お気に入りに追加
651
あなたにおすすめの小説

華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)


【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。
まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」
ええよく言われますわ…。
でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。
この国では、13歳になると学校へ入学する。
そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。
☆この国での世界観です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる