ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里

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逃げ出します

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散々泣いてしまっている私の顔は酷いものになっていた。
それでも涙は止まらなくて、私は泣きながら汗に濡れた服を着替える。

着替えてから扉を開けて誰もいないのを確認すると急いで走り部屋を抜け出した。

サイラスが戻ってくると言ってくれていたけど、こんなに泣いてボロボロの状態で会うわけにはいかない。


私は裏庭へ駆け込み宿り木へそのまま走って抱きついた。
私の勢いにフータは驚いていたけれど、私の側へ歩み寄ると人間の姿になってそっと涙を拭ってくれた。

いつになく優しいフータに私はまた泣けてきて、ポロポロと涙を零してしまう。


「過去を思い出してしまったのだな?」

「…………どうして……」

「我は不死鳥だぞ?ユーカのことなど何でもお見通しだ」


フータはそう言いながら私をヒョイと抱き上げて背中をトントンと優しく撫でてくれた。
そうしてフータに抱っこされたまま泣き止む頃には、私の顔は更にグシャグシャで目なんて泣き過ぎで腫れぼったくなってしまっていた。


「はぁ……どうしよう。こんな顔じゃ、ますますサイラスに会えないよ……」


ガクッと肩を落として大きな溜息を吐くと、フータがクスクス笑って私の目にそっと手を当てる。
フータの手からは温かなモノを感じて、それと同時に私は体の内側から癒されていく感覚に包まれた。
その感覚に、ドス黒く渦を巻いてモヤモヤしている心も少し落ち着いた気がする。


「よし、これでもう大丈夫。いつものユーカだぞ。まあ、目の腫れて不細工なユーカも、あれはあれで可愛いと我は思っているのだがな」

「え~……可愛くなんて無いでしょ。でも、ありがとう、フータ」

「……サイラスにはユーカの過去の話はしないのか?」

「言えないよっ!!」


私を抱っこしたままそう聞くフータに、私は思わず声を張り上げてしまった。


「…………言いたくないよ」


もし万が一にでもサイラスに嫌われちゃったら、私はもう生きていけない。

そう思ってしまうくらい、私にとってサイラスは掛け替えのない大切な存在になってしまったから。


サイラスにだけは、嫌われたくないんだよ。


フータの肩に頭をグリグリさせていると「お主も難儀な性格よのう」と、盛大な溜息を吐きながらフータがまた私の背中をポンポンと撫でてくれた。

そうしているうちに、扉の向こうからバタバタと走る足音がだんだんと近付いてきたかと思えば、バンッ!!と勢いよく扉が開いて息を切らしたサイラスが裏庭に姿を見せる。


「ほれ、王子様のお出ましだそ」

「おいフータ!!お前なんでユーカを抱っこしてるんだよ!離せよ!!」


え?と私がフータの肩から顔を上げた時には、既にフータから引き剥がされサイラスの腕の中にいた。


「サ、サイラス……」

「なんで部屋に居なかったの?凄く心配したじゃないか」

「……ごめんなさい」


サイラスの顔が見れなくて俯いていると、心配げに眉尻を下げるサイラスに顔を覗き込まれてしまった。


「どうしたの?大丈夫?」

「うん、全然大丈夫。なんでもないよ」


心配されればされるほどサイラスの顔をまともに見れなくて、私は俯いたままフルフルと首を横に振る。


「我がユーカをここに呼んだのだ。駄目であったか?」


そんな私を見かねてか、フータが私の頭を撫でながら助け舟を出してくれた。

すぐさまサイラスがフータの手を叩いて退けると扉の方へ歩き出す。


「体調のすぐれないユーカを呼び出さないでくれる?部屋へ戻ろうユーカ。エマが温かいお茶を用意して待ってるから」

「うん……」


私はフータに申し訳なくて、サイラスに抱き抱えられたままフータを振り返った。

フータは目を細め「気にするな」と言わんばかりに手をヒラヒラと私に振ってくれていたから、ホッと胸を撫で下ろす。


勝手に逃げて来ちゃったのに、フータのせいにしちゃってごめんね。


そんな思いを込めてフータに手を振りかえした。






「……ユーカのは中々に重症だのう」


ーーーー二人が出て行った扉を見つめて、フータがポツリと呟いた。


「さて、どうしたものかのう。…………のう?宿り木よ」


深い溜息と共に吐き出されたフータの呟きを、宿り木は静かに聞いていたのだった。
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